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2008年12月27日 (土)

現実を見ろ

小島寛之氏のこの一節に言う「現実」とは何だろうか。

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20081226/1230274589

>ぼくは、「現実を見ていない」という批判に、「いや、ぼくも現実を見ている」などという反論をするつもりは全くないよ。「現実を見ていない」で結構。ぼくは、「現実を見ろ」という説教をする人を絶対信用しないことにしている。このことは、このブログを読んでいるとりわけ若い人たちに対して、老婆心ながら、人生の先輩としてアドバイスしておきたい。二言めには「現実を見ろ」という人には、多くの場合、裏腹がある。そんな手にはまっちゃいけない。実際ぼくは、子供の頃から、いつも「現実を見ろ」と説教されてきた。まず、父親に、次に教師に、そして、学校の先輩に、はたまた政治活動家に、さらには会社の上司に。でも、あとでわかったことは、そういう人たちのいう「現実」は、その人たちが色眼鏡をかけて見ている彼らに都合のいい「現実」であって、ちっとも本当じゃないってことだ。そういう人々は、人を理詰めで説得して自分の意のままに操縦することに失敗したとき、えてしてこのことば「現実を見ろ」を使う。ぼくは、そういう人々のいう「現実」よりも、むしろ、「数学」のほうを信じている。

ここに出てくる、小島氏の父親、教師、学校の先輩、政治活動家、会社の上司たちが「現実」と呼んでいるものは、彼らが「これが現実だからこれに従え」とおもっているところの「現実」という名の「観念」だ。「教科書を丸暗記して、その通り答案をかけ。それが現実なんだから」。「ここのしきたり通りに行動しろ。ここではそれが現実なんだから」。そんな「現実」くそ食らえ。その点に関する限り、小島氏の意見は全く正しい。

そして、およそ社会現象について論ずるときにも、同じような「現実」という名の「観念」が、同じように「現実を見ろ」という形で押しつけられようとする傾向がよくある。その点についても、小島氏の意見は正しい。まさに「そういう人たちのいう「現実」は、その人たちが色眼鏡をかけて見ている彼らに都合のいい「現実」であって、ちっとも本当じゃない」。小島氏が怒りを感じているのも、まさにそういう「現実」を振り回す連中に対してなのだろう。

だけど、小島氏が正しいのはそこまでだ。

そういう「現実」という名の「観念」を、「これが現実だから言うことを聞け」という押しつけを、本当に押しのけることができるのは、「ふざけるな!これこそが現実だ」というもっと生々しい現実の姿だけだ。観念に観念を対抗させて、何物かを生み出すことができるなんて思わない方がいい。

一番最近のビビッドな例を挙げれば、つい数年前まで、「近頃の若者は働く意欲もいい加減で、ふらふらフリーターになったり、ニートになったりしている。実に困ったものだ」という言説が、まさに「現実」として横行していた。そういう「現実」認識に基づいて、政治家もマスコミも若者に対する「説教」を繰り返していた。そういう「現実」認識をひっくり返したのは、JILPTの小杉礼子さんをはじめとする地を這うような地道で緻密な社会調査であって、小島氏の言う「数学」ではなかった。

小島氏の言葉には確かにとても正しいところがある。「二言めには「現実を見ろ」という人には、多くの場合、裏腹がある。そんな手にはまっちゃいけない」、まさにその通りだ。だけど、その後の処方箋が全くひっくり返っている。そういうエセ現実を振り回す連中に突きつけるべきは、数学なんかじゃなくて、生々しい湯気の出るような、切れば血の吹き出るような現実でなくちゃいけない。

薄っぺらな「現実」認識に基づいて「「現実を見ろ」と説教する人々に投げつけるべきは、「お前こそ現実を見ろ!」でなくちゃいけない、と私は思っている。

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コメント

>生々しい湯気の出るような、切れば血の吹き出るような現実でなくちゃいけない。

>薄っぺらな「現実」認識に基づいて「「現実を見ろ」と説教する人々に投げつけるべきは、「お前こそ現実を見ろ!」でなくちゃいけない、と私は思っている。


今年一番この言葉に感動しました!

http://d.hatena.ne.jp/hiroyukikojima/20081229/1230526509(小野善康『景気と国際金融』)

池田信夫の第2法則?

というか、多くの平均的な人とってはあまり現実的ではなくても、小島先生にとっては「数学は現実」なんですよ。平均的アメリカ人にとってあまり現実的でなくても、私にとっては「日本は現実」であるように。ただ当たり前だけど「数学の現実」と「日本の現実」は違うし、「日本の現実」と「アメリカの現実」も違う。昨日の現実と今日の現実も違う。類似や関係はあるかもしれないけど。

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