仁田道夫・久本憲夫編『日本的雇用システム』
仁田道夫先生と久本憲夫先生の編になる『日本的雇用システム』(ナカニシヤ出版)を御贈呈いただきました。いつも心にお留めいただき、有り難うございます。
http://www.nakanishiya.co.jp/modules/myalbum/photo.php?lid=508
>歴史的形成過程を明らかにし、全貌に迫る。
それはいつどのようにして形成され、どこへ向かうのか
「失われた十年」以後、日本経済の停滞の原因として改革の対象とされてきた「日本的雇用システム」。しかし80年代にはそれは、日本経済の成功の象徴として、広く注目されていた。そもそも「日本的雇用システム」とは何なのか、それはいつどのようにして成立し、今後どうなっていくのか。本書は、通常「終身雇用」「年功賃金」「企業別組合」として語られる「日本的雇用システム」の歴史的形成過程を、雇用の量的管理、賃金制度、能力開発、能率管理、労働組合、人事部の、六つの観点から解明する。「日本的雇用システム」の全貌を明らかにするとともに、今後の展望を占う。
これは、以前に本ブログで紹介した野村正實『日本的雇用慣行』(ミネルヴァ書房)と同じく、「日本的雇用システム」の「全体像構築の試み」といえます。上の紹介にあるように、歴史的形成過程から分析するという点でも共通しており、実に興味深く読めました。
<目次>
序 章 日本的雇用システムとは何か―――――――久本憲夫
一 雇用システムにおける中核と周辺
二 時代区分
三 中核企業の雇用システムの三大要素
四 中核企業の雇用管理の特徴
五 本書の構成
第一章 雇用の量的管理――――――――――――仁田道夫
一 「終身雇用」慣行の形成
二 雇用調整システムの形成
三 雇用調整システムの転機
四 雇用ポートフォリオ・システムの形成――臨時工と社外工
五 雇用ポートフォリオ・システムの展開――パートと派遣
六 雇用ポートフォリオ・システムの再編
第二章 賃金制度―――――――――――――――梅崎 修
一 賃金用語の混乱と賃金理論の枠組み
二 査定を伴う定期昇給制度
三 「日本的」賃金制度の発生
四 「日本的」賃金制度の確立
五 職能給の問題点
六 九〇年代以降の制度変容
第三章 能力開発―――――――――――――――久本憲夫
一 能力開発の分類と方――OJTとOff-JT
二 能力開発を促進する仕組み――人事処遇制度・労使関係
三 職場内人材形成――OJTシステムの転換
四 職場を越えた人材形成――ホワイトカラーを対象に
五 企業内Off-JT
六 成果主義化と雇用形態の多様化の影響
第四章 能率管理―――――――――――――――青木宏之
一 日本企業の能率管理
二 鉄鋼業
三 自動車産業
四 総合スーパー
五 デパート
六 能率管理の産業間比較
第五章 労働組合―――――――――――――――仁田道夫
一 企業別組合とは
二 企業別労働組合の成立
三 戦後直後型労働運動の展開と解体
四 戦後型労働運動の確立――総評主導の時代
五 戦後型労働運動の変容――同盟・JC主導化の時代
第六章 人事部――――――――――――――――山下 充
一 問われる本社人事部
二 近年の理論的アプローチ
三 人事部の誕生
四 人事部はどのようにして地位を築いていったのか
五 人事部の組織と機能
六 雇用形態の多様化と人事部の展開
七 人事部の新たな役割に向けて
歴史的形成過程から分析するというのは、日本的雇用システムを生成展開する流れの中でとらえ、単純に日本的雇用システムが崩壊した!!!みたいなことを言わないということでもあります。
もう少し具体的に言うと、例えば、仁田先生の書かれた第1章は、いわゆる「終身雇用」慣行を扱っていますが、これを様々な争議の中で形成され、さらに50年代の一時帰休制や石油危機下の雇用調整などを経て形成された「雇用調整システム」というネガから捉え、さらに、そもそもそれに入らない人々を含めた「雇用ポートフォリオシステム」として捉えるという視角です。
雇用ポートフォリオという言葉自体は、日経連が1995年に打ち出した言葉ですが、そもそも日本的雇用システムはその出発点から本工vs臨時工・社外工という雇用ポートフォリオでなり立ち、それが高度成長期にパート、そしてやや遅れて派遣が登場し、正社員vsパート・派遣という雇用ポートフォリオとなり、それがさらに90年代以降作業請負や契約社員の増大により非正規が拡大して再編されてきた、という風に、歴史的に捉えられるべきであるということですね。
梅崎さんの書かれた第2章も、これはまさに賃金制度の歴史的推移を構造的に描き出した名論文だと思いますが、査定を伴う定期昇給制の形成自体を歴史的段階的に捉えるとともに、その職務給、職能給、成果主義といった変容の姿を決して(たとえば職能給が日本的賃金システムだという風な)静的にとらえるのではなく、制度導入の試みとそれが生み出す問題点の交錯の総体をシステム形成のメカニズムとして捉えようとしているという点で、実にすばらしい叙述だと感じました。
類書にないのは、人事部をあつかった第6部でしょう。歴史的にはむしろ「労務屋」さんの機能というべきかもしれません。企業内の、あるいは財界レベルにおける人事労務部門の位置づけが揺らぎつつある時期であるだけに、ここはむしろこれから分析のメスが様々に入れられるべき領域であるように思われます。
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