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« 中谷巌氏の転向と回心 | トップページ | 中谷巌氏の「回心」再論 »

2008年12月16日 (火)

仁田道夫先生の福井秀夫批判

Tm_i0eysjiym42gd2vi_1 季刊労働法の223号(2008年冬号)が出ました。

http://www.roudou-kk.co.jp/quarterly/archives/003423.html

特集は「検証・規制緩和と労働市場改革」ですが、正直言うと、いささか突っ込み不足の感があり、やや散漫な感じになってしまっているような。

目次は次の通り。

■巻頭言■
教育・雇用・社会保障とその接合・連携
新潟青陵大学教授 國武輝久

特集 「検証・規制緩和と労働市場改革」

労働市場改革と労働法
青山学院大学教授 手塚和彰

解雇法制と規制改革論議
東京大学教授 仁田道夫

アメリカ労使関係法における規制緩和と改革
一橋大学教授 中窪裕也

外国人受け入れに向けた制度改革のあり方
 ─日本経団連の基本的考え方─
日本経団連産業第一本部長 井上 洋

規制緩和による労働市場改革の検証
連合副事務局長 逢見直人

■集中連載■比較法研究・中小企業に対する労働法規制の適用除外
中小企業に対する労働法規制の適用除外に関する共同比較法研究
 ─連載を始めるにあたって─
神戸大学大学院法学研究科教授 大内伸哉

中小企業に対する労働法規制の適用除外―中国法―
追手門学院大学非常勤講師 オランゲレル

■新連載■労使が読み解く労働判例
新企画開始に当たって
明治大学法科大学院教授 菅野和夫

日本マクドナルド事件
 (東京地判平20・1・28労判953号10頁)
東京学芸大学教授 野川 忍

■研究論文■
解体か見直しか
 ―労働組合法の行方―(三)
北海道大学教授 道幸哲也

有期労働契約の拘束・保障機能と自動終了機能の相克
 ―判例法理を中心として
北海学園大学教授 小宮文人

■連載■
個別労働関係紛争「あっせんファイル」(連載第6回)
あっせんにおける労契法16条の逆作用
 ―いかにして「解雇させる」か─
九州大学教授 野田 進

アジアの労働法と労働問題?
韓国の最近における労働立法の動向について
 ―非正規職保護立法と複数組合問題を中心に─
韓国外国語大学法科大学教授 李

■神戸労働法研究会■
有期労働契約の反復更新後の雇止めと損害賠償
 ―中野区(非常勤保育士)事件から示唆されるもの―
 (東京高判平成19年11月28日労判951号47頁
 一審:東京地判平成18年6月8日労判920号24頁)
追手門学院大学非常勤講師 オランゲレル

■イギリス労働法研究会■
1998年公益情報開示法をめぐる裁判例の動向と運用状況
北九州市立大学講師 國武英生

■筑波大学労働判例研究会■
NTTグループ企業(年金規約変更不承認処分)事件
 東京高裁平成20年7月9日判決
 (原審・東京地方裁判所平成18年(行ウ)第212号)
筑波大学労働判例研究会 工藤裕徳

■北海道大学労働判例研究会■
丸亀市・市公平委(降任処分不服申立)事件
 市町村合併に際して旧市町村の一般職職員を新設された市が採用する行為の「不利益な処分」該当性
 高松地判平成19年12月26日労判958号39頁
小樽商科大学教授 石黒匡人

ここでは、仁田道夫先生の「解雇法制と規制改革論議」という小論を取り上げましょう。これは、本ブログでも何回も取り上げてきた、例の福井秀夫氏の議論に対して、労使関係論研究者としての立場から、痛烈に批判しているものです。

冒頭、まず、福井氏が「法と経済学というツールを使っている」と自称していることに疑問を呈します。

>しかし、私の素人なりの理解では、「法と経済学」は、まず何よりも、判例を含む現存の法秩序を、経済学の方法を用いて、理解することを追求する学問であるはずである。この論文には、日本の裁判所が築き上げてきた解雇法理が、なぜ、そのような形で生成、発展し、維持されてきたのかをきちんと理解しようとする姿勢が見られない。

まったくその通りです。仁田先生のいわれるような正しい「法と経済学」からの労働問題へのアプローチの例としては、本ブログでも紹介した

http://users.ugent.be/~gdegeest/(Encyclopedia of Law and Economics)

所収の諸論文が挙げられますが、これと読み比べれば、福井氏の「論文」なるものが、初等経済学教科書の概念枠組みのみを頭にはめ込んで、労働の現実は一切見ないまま、書かれたものであることがよくわかります。

そして(仁田先生には同じように映っているかもしれませんが)、実はここが福井秀夫氏と八代尚宏氏を隔てる大いなる「知的格差」でもあります。八代氏の議論は、解雇法理や就業規則法理など日本的雇用システムを支える法理は、かつては有効であったが、今では弊害が多いものとなったというロジックであるので、現実の労働の在り方を踏まえたエンピリカルな議論の対象となり得ます。福井氏の議論は、日本の法の現実は初等経済学教科書に書いてあるのと違うから間違っている!Q.E.D.というものですから、神学論というべきで、経験科学としての法と経済学というべきものではそもそもないのでしょう。

私は、実は、経験科学としての「法と経済学」を法曹になろうとする人々が学ぶことは大変意義深いことであると思いますし、司法試験科目にそういう「法と経済学」が導入されることは寧ろ望ましいことであろうと考えていますが、規制改革会議でそれを主張しておられるのが、上述のような奇矯な「法と経済学」の福井秀夫氏であることを考えると、彼の書いた奇矯なテキストに従って、

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_1cda.html

>一部に残存する神話のように、労働者の権利を強めれば、その労働者の保護が図られるという考え方は誤っている。

>不用意に最低賃金を引き上げることは、その賃金に見合う生産性を発揮できない労働者の失業をもたらし、そのような人々の生活をかえって困窮させることにつながる。

>過度に女性労働者の権利を強化すると、かえって最初から雇用を手控える結果となるなどの副作用を生じる可能性もある。

といった答案を書かないと、司法試験に落ちちゃう危険性が出てきちゃうかもしれません。

なまじ、最近の研究をよく知ってて、いや最低賃金の労働市場への効果についてはこういういろんな実証研究があり・・・てな余計なことを考えると、「初等経済学教科書嫁!!!」と地獄に落とされるというわけです。

それでは、どんなに頭ごなしに怒鳴られても、「はいわかりました入れましょう」とはいわないでしょうね。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/0916_02/summary0916.pdf

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/1114/summary1114.pdf

そうすると、福井氏が身を引いた方が、「法と経済学」を法曹の基礎教養にする近道ではなかろうかと思うのですが、まあご本人はそうはお考えではなさそうです。

以下では、いかにも仁田先生流の軽妙な想定対話によって論が進んでいきます。まず、「制度の補完性」の関連で、

>もし、日本の企業の経営者が日本の雇用法制についてアメリカやヨーロッパの経営者に愚痴をこぼしたとしよう。彼らの反応は、「お宅の会社は何件の労働訴訟を抱えているの?」というものであろう。その回答を聞けば、諸外国の経営者たちは、表面はともかく、内心は「そんなに少ないの!うらやましい限りだ。それにしても日本の経営者は泣き言が多いな」と考えるに違いない。

もちろん、一部の奇矯な(福井氏と共鳴する)経営者を除けば、日本の経営者はそんな泣き言をこぼしているわけではありません。

次に「解雇法制は賃金を高めているか」に関わって、

>なぜ、福井教授が主張するようにならないのだろうか。労働組合指導者は、経済学の基本を理解せず、有利な交渉条件を活かすすべも知らないのだろうか。そのような疑問を抱いたら、労働組合指導者に質問してみればよい。彼らの回答は、次のようなものだろう。「もし、会社が負担に感じるほどの賃上げを獲得すれば、会社は経営困難になって競争に負けてしまうだろう。そうなると雇用不安が起きる。昇進チャンスもなくなるし、人員整理が起こるようなことになったら大変だ」

つまり、福井氏には、こういう現実の企業の中で賃金も雇用も考えながら長期的視野で交渉している組合や人事部の目線でものを考えるという思考方法が欠落しているわけですね。

「解雇規制が学歴差別を助長しているか」に関わって、

>私なら、このような仮説を抱いたら、まず企業の人事部長に投げかけてみるだろう。私の予想する回答は次のようなものである。「先生、会社を馬鹿にしないでください。何のために人事部がいるんですか。生産性が低いと判断された労働者は、査定が低くなるので、賃金・処遇が下がります。賃金が下がって生活に支障が出たら本人も困るし、奥さんにも泣きつかれます。それだけじゃなく、職場の仲間からの評価が下がってプライドが傷つくし、居づらくなります。だから、だいたいの人は、そういうことにならないように一生懸命働くし、自分の能力向上に努めるものです。そうなるようにすることが、人事部の仕事です」

ちなみに、本ブログでも再三述べているように、私自身は日本の解雇規制の在り方にはメリットとデメリットと両面あり、基本的にはメリットが大きいというべきですが、少なくとも整理解雇4要件については、近年の社会状況を前提にすると見直しの必要が高まってきていると考えています。

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コメント

ごぶさたしております。人事部長ではありませんが人事担当のはしくれである私としては「先生、いくら解雇が自由になったとしても、ちょっと面白そうだから採用してみて、使ってみて良くなかったらすぐ解雇、なんてことを繰り返していたら、そのうち誰も入社してくれなくなりますよ」とでも答えてみましょうかねぇ。これは実は、旧日経連が一時期提唱していた「労働市場によるガバナンス」なんですが。
本号では、経団連の井上洋氏の外国人受け入れに関する紹介もなかなかいいと思います。先般の移民受け入れ提言だけ読むと「あれ?」という感もあるでしょうが、そのベースに2004年提言があることがわかればかなり読まれ方も違ってくると思うのです。
なお、本号には小職も匿名で一文寄せておりまして、さあどれでしょう(笑)。ご笑覧ください。

そんな、匿名とまで言われれば、マクド判決にコメントされている方しかいないじゃないですか・・・

福井氏は、基本的にスポット労働市場モデルだと思われるので、そもそも「『入社』してくれなくなる」という発想が通じない可能性もありますけど。その時点の求人に応募する求職者がいなければ提示労働条件を引き上げればいいだけ、ということでしょうから。

派遣社員の解雇に対して解雇規制が適用になるのか(できるのか)注目しています。

マスコミは派遣先(大分キヤノンなど)が派遣社員を解雇したかのようにミスリードしていますが(派遣先と派遣元の契約は民事、労働契約は派遣元と派遣社員の間)、これはグループに派遣会社があるためだろうと邪推しています。求人広告問題と同じ構造ですね。

>派遣社員の解雇に対して解雇規制が適用になるのか

という質問に対しては、「当然適用されます。派遣元と派遣労働者の間で」というのが現行法上正しい答え。

派遣労働者も派遣元に雇用される労働者ですから、その間の雇用契約の途中で解雇されれば、一般的な解雇権濫用以上に、有期契約の中途解約として規制されます。これは派遣先を雇用責任から免除する現行法のもとでは当然の理で、それをあたかも商取引たる派遣契約が打ち切られれればそれに伴って当然雇用契約が終了するかのように考えるとすると、両者は牽連関系にあることになり、派遣契約自体も純粋の商取引ではなくなってしまいます。(実態はそうなんですが、そうではないという建前でなり立っているのが派遣法なので、そういう本音でやっていいの?という話です)そうすると、派遣契約の打ち切り自体にも、それと牽連関系にある雇用契約打ち切りの正当性の判断が及ぶことになるでしょう。それはそれで立法論としてはありうるし、現実に即しているわけですが、現行法の建前は、それは別次元の話、雇用責任はもっぱら派遣元よ、ということなので、まさしく派遣元の「解雇」でなければならないはず。
そして、直用の有期契約を反復更新すると常用と異ならないと判断されることがあり得る以上、派遣元と派遣労働者との間の有期雇用契約を反復更新すると、その雇い止めが解雇と異ならないと判断されることもあり得る。少なくとも排除されないはずで、それを、派遣だからという理由で排除するということは、論理的には反復更新された派遣就労の「雇い止め」を反復更新された商取引としての派遣契約の終了と牽連関系におくことを意味しますから、派遣先の責任を問うことに論理的につながるはずです。実態はむしろそれに近いので、それでいくべきだという考え方はもちろんあり得ます。

と、こういうきちんとしたことをあまり考えずに、派遣やからええやろみたいな発想でやってる人が(下級審の裁判官も含めて)いるから困るんですけど。

整理解雇の4要件の一つで、解雇回避策を取ったか、というものがありますが、その回避策として「派遣契約の解除」があったように思います。すなわち
 派遣契約の解除 < 正社員の解雇
と言ってやしないか、というのが一つ。

派遣会社は、1つの派遣先業務がなくなれば、別の派遣先を探さなくてはならない。それをしようとしていないところをつっこむべきなのに、マスメディアはそれを意図的にサボっているように見えます。

いわゆる「派遣切り」と「解雇」との関係〔厚生労働省公式見解〕
ttp://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1210-3c.pdf

派遣労働者等に対する更新拒絶の範囲を拡大する裁判例の出現等の新たな動向
ttp://www.jil.go.jp/kikaku-qa/part/J08.html

総務99ブログ:整理解雇回避努力義務 - livedoor Blog(ブログ)
ttp://blog.livedoor.jp/somu99/archives/51561358.html

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