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2008年12月29日 (月)

『POSSE』第2号

Hyoshi02 『POSSE』第2号をお送りいただきました。有り難うございます。ただ、坂倉さん、私は政策研究大学院大学はすでに6月で去っております。事務の人に転送していただくのも大変ですので、宛先を変えておいていただけますでしょうか。

http://npoposse.jp/magazine/no2

>特集テーマは、揃って08年流行語トップ10内に選ばれた、『蟹工船』と「名ばかり管理職」。いずれも08年を代表するトピックになりました。
しかし、これらが着目された背景やそこにある問題は、08年になって初めて現れたわけでもなければ、ブームとして消費されてよいものでもありません。単に「悲惨な労働の現実」の象徴に終わらせるのではなく、現実を変えていくための課題としていくために、『POSSE』ならではの問題提起や政策議論をしています。

目次は次の通りですが、

●「金融危機と派遣切り ―派遣政策の抜本的転換を」
 今野晴貴(POSSE)

●「内定取り消しで泣かない方法」
 川村遼平(POSSE)

―特集1 『蟹工船』ブームの先へ―

■対談「ナショナリズムが答えなのか ~承認と暴力のポリティクス~」
  高橋哲哉(東京大学教授)×萱野稔人(津田塾大学准教授)

■「プロレタリア文学の「手紙」が世界に舞う」
  楜沢健(文芸批評家)

■「「現代の蟹工船」から脱出するために」
  雨宮処凛(作家)×土屋トカチ(映画監督)

■「国会議員に聞く!『蟹工船』ブームの真実」
  小池晃(日本共産党参議院議員)/亀井亜紀子(国民新党参議院議員)

■「若者と『蟹工船』のリアリティ ~ブームを普遍性にするには~」
  『POSSE』編集部

―特集2 名ばかり管理職/労働組合―

■「偽装管理職問題の周辺 ―正社員を追いつめる構造と労働側の戦略―」
 熊沢誠(甲南大学名誉教授)

■「名ばかり管理職」の法律的問題
 棗一郎(弁護士)

■過労死つくる「名ばかり管理職」「名ばかり労組」
 須田光照(NPO法人労働相談センター)

■「「名ばかり管理職」と非正規労働者 ―マクドナルドとSHOP99の現場から―」
 梁英聖(フリーライター)

■「記録をつけて、職場を変える~日本マクドナルドユニオンと『しごとダイアリー』~」
 『POSSE』編集部

■「08年POSSE「若者の仕事アンケート調査」結果 ~やりがいと違法状態の狭間で~」
 今野晴貴(POSSE)

■「POSSE調査の意義と課題」
 本田由紀(東京大学准教授)

■「労働と思想2 グローバル資本主義と不自由賃労働 ―マリア・ミースに寄せて」
 足立眞理子(お茶の水女子大学准教授

ここでは本田由紀先生もコメントしているPOSSE調査についていくつか述べてみたいと思います。

この調査は、POSSEのHPにも掲載されているので、それを見ながら聞いていただきたいのですが、

http://www.npoposse.jp/images/08questionnaire

これは、下北沢、渋谷、八王子、立川といった場所で、街頭対面型アンケートで行われたものです。これについて、本田先生は、無作為抽出法に比べて限界があるが、

>母集団における正確な分布はわからないとしても、「どういう生活をしている人がいるか」「どういう意識を持って生活しているのか」ということについての一定の事実を知ることができる

というメリットを挙げています。

この点は私もまさにそう思うのですが、その点から考えて、正社員を中心的正社員と周辺的正社員に分けて6割と4割だというようなところはあまり意味がないのではないかと思われます。

実は、この中心的正社員と周辺的正社員という区別は、労働法学的にも労務管理論的にも、いささか不明確で、何を浮かび上がらせようとしているかよくわからないところがあります。いわゆる正社員といっても、特に中小零細企業になればなるほど、定期昇給も退職金もない労働者が多いわけで、法律上賃金制度に対してはいかなる規制もされていない以上、昇給・退職金なしの無期契約労働者が結構いることは不思議ではありません。

そういう労働者がより長時間労働をしているにもかかわらず、労働時間よりも賃金の低さに不満を持っているというのも、不思議なことではありません。

中心的正社員と周辺的正社員という言葉をわざわざ設けている意味がどこにあるのでしょうか。これがパート・アルバイト、他の非正社員と並べて比較されているところからすると、同じ職場に、この4類型の労働者が併存していて、こういう格差があると言わんとしているように考えられますが、この調査からはそれは明らかとは言えないように思われます。

違法状態の経験やその内容、対応については、まさに発見的調査としての意味があります。非対応理由も結果も興味深いところです。このあたりについては、実は政府の労働教育研究会でも調査がされているところなので、別エントリーで紹介したいと思います。

使い捨て雰囲気のところも、まあ意識調査ということではあるのですが、中心的正社員とあまり月収が変わらず、より長時間労働している周辺的正社員が、仕事量が多いことよりも賃金が上がらないことに不満を持っていることをどう分析するのか、というか分析できる枠組みになっているのか、ちょっと疑問を抱くところです。

いずれにしても、街頭対面型アンケートという手法をもっと生かせるような調査内容を考えていく方がいいのではないか、という印象を持ちました。数字データに落とし込むことを考えるよりも、「なにがあったの?」「それでどうしたの?」「どう思っているの?」という記述的データを豊富にしていく方が、インプリケーションも引き出しやすいのではないでしょうか。

さて、特集の方ですが、高橋=萱野対談が、ナショナリズムを否定するのなら、国内で格差なんて言っても意味がないというテーマを取り上げていて、なかなか面白い。私からすると、

>格差を問題にするということがすでにナショナリズムの枠組みに乗っかっているということをまずは自覚しなくてはならない。

>格差を「問題」として浮かび上がらせることができるところに、ナショナリズムの肯定的な働きがあるわけです。

という萱野氏の指摘に対して、

>そうした国民のみを問題にするというナショナリズムによって、ヨーロッパでは移民排斥や外国人嫌悪につながっていく回路ができてしまっているわけですよね。あれと同じことを日本は繰り返すのでしょうか。

というような反応はあまりに表層的で、いや同胞皆同じというナショナルな平等主義があるからこそ格差を何とかしなくちゃと思うわけで、チープレーバーな移民をいやがらない精神は国民の間の格差を何とも思わない精神と表裏一体なわけで、そこまで言い切るのなら別ですが(というか、そういう考え方は十分あってしかるべきだと思いますが)、そこまでリバタリアンに徹する気持ちもなくただナショナリズムを批判していればそれでいいというのは、

>ナショナリズムをとにかく批判しなくてはいけないとか、とにかくナショナリズムを避けなければいけないと考える研究者や論客の根底にあるのって、潔癖主義なんですよね。いろいろな危険を持ったナショナリズムからいかに身を引き離すかを競うことで、自分の立場の無謬性を目指しているわけです。でも、それって結局は政治を道徳に還元しているだけなんじゃないでしょうか。

という萱野氏の指摘通りだと思われます。

このあたり、本ブログでも、赤木問題や日中戦争時の労働運動など、何回も触れてきたところです。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_c3f3.html(赤木智弘氏の新著)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_2af2.html(赤木智弘氏の新著その2~リベサヨからソーシャルへ)

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_f86f.html(日中戦争下の日本)

それが「希望は戦争」という直截な方向に向かわないようにするためにこそ、萱野氏がいうように、

>ナショナリズムが排外的な性格を強めていく危険性を押さえるためにも、ナショナリズムを活用しなくてはならない

>外国人労働者との過酷な競争にさらされた人たちが排外的なナショナリズムを激化させていくのを防ぐためにも、もうちょっと穏やかなナショナリズムを使って国内の労働市場を保護していくという方法です。いきなり労働市場をオープンにしないで、ある程度国境を通じて労働市場の国際的な流動化をコントロールしましょう

という政策が必要なわけです。アンチナショナリストを自認する高橋氏は「それによって閉ざされた国になっていくというのは、私の意識ではやっぱり抵抗があるんですね」というのですが、問題はまさに萱野氏が言うように

>社会が開かれることによって、逆に意識が閉じられてしまう

ということでしょう。リベサヨがソシウヨを産むというメカニズムが回り始めるわけです。

どこまでそれに自覚的であり得るか。

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コメント

大変参考になるご指摘をいただき、ありがとうございます。
それから、宛名の誤り、申し訳ございませんでした。

私が書いたアンケート調査結果についてご指摘をいただきましたので、コメントさせていただきたいと思います。

・周辺的正社員
ご指摘のとおり労働法に賃金の支払い方法や企業福祉についての記載はありません。法の適正化とは別に企業の人事処遇の問題の変容を捉えることを目的にしています。

「周辺的正社員」の調査を行おうと思った理由は現場の実感くに加え、90年代後半以降個別企業ごとに行われてきた人事制度の変革やコスト削減圧力が、「正社員」の人事処遇にも相当の変化が生じさせたと推測したからです。また、これは特に戦後直後の経緯を踏まえた伝統的労使関係を構築していない新興産業で進行しているのではないか、という予測も立てています。さらに、最近では格差社会の中で労働者間競争が高まり、極端な事例ではありますが、ショップ99のように雇用形態差別を利用した正社員の処遇切り下げはかなり進んでいると思います。

しかし、今回私が設定した「定期昇給」と「賞与」だけで「変化」を捉えることができないという点はまさにご指摘のとおりです。「変化」が生じているという仮説を現場の実感から立てているものの、それを実証するとなると、個別企業の人事は多様ですので、これがかなり難しい。そこでまずは「問題提起」としてかなり一般的な変数を選んだということです。もっと精緻に変化を実証することは今後の課題となります。その際こうした中途半端な量的調査は不向きでしょう。個別企業の人事制度の研究と政府統計レベルのマクロ調査を相互に比較するような手法が有効かと思います。

ところで、戦後の中小企業も定期昇給や賞与が一般的ではなかったという趣旨のご指摘がありました。確かに中小企業の処遇が大企業より低く、年功賃金、企業福利のたがが小さかったことは事実です(年功賃金じたいが福祉要求的な要素を持っているので、同列に扱っています)。そしてその中小企業労働者のほうが、日本社会では圧倒的にマジョリティーでした。しかし、それでも日本の戦後社会がかなり安定的であったのは、これら中小企業の雇用が相対的に不安定で生活保障機能も低いにもかかわらず、「それなりの安定と将来性」と担保していたからであると認識しています。現在の正社員はそうした「安定感」は感じていないのではないでしょうか。だから転職を繰り返す。
もちろんひどい会社もあったでしょうし、中小企業間の転職もありました。しかし、社会不安になるほど不安定性が拡大したわけではありません。逆に「一億層中流」という虚構が成立できるほどに、「終身雇用」や「年功賃金」が広がっていたと考えることができます。

そうした点からすると、最近発表されたエンジャパンの調査は面白いものです。若い転職者が重視するポイントが顕著に「企業福祉」にシフトしてきているというものです。安定志向化についてはJILなどの研究からも明らかですが、転職者が企業福祉を望んでいることはさらに示唆的です。ただ世相が反映されているだけではなく、企業福祉がこれまで以上に、一般的に得られるものではなくなったこと示していると思われるからです。

(ちなみに、「企業福祉」へのニーズの高まりは、おそらく国家福祉へのニーズの表現形態だと思います。日本では福祉は基本的に国家ではなく企業を中心に担われてきており、政党や労組も国家福祉については社会の中心課題にしてきませんでした。国家福祉の要求は「想像もつかない」という状態なのではないかと推察します。)

以上のように、私は新興産業を中心にこれまでの「大企業-中小企業」というカテゴリでは解けないような正社員の階層分解が生じていることを想定しています。しかし、今回の調査ではせいぜい「問題提起」をしたに過ぎないことは自覚しているところです。企業規模間格差やジェンダー変数も当然いれこんで考えないといけないですよね。


・今後の調査
ご指摘いただいた、下記のご指摘はたいへんありがたく思います。

「街頭対面型アンケートという手法をもっと生かせるような調査内容を考えていく方がいいのではないか、という印象を持ちました。数字データに落とし込むことを考えるよりも、「なにがあったの?」「それでどうしたの?」「どう思っているの?」という記述的データを豊富にしていく方が、インプリケーションも引き出しやすいのではないでしょうか。」

たしかに、自由記述を増やして、それを大量にサンプルとして提示すれば研究者の方にも扱いやすい調査事例となるかもしれません。これは来年やりたいですね。

また何か「これを調べたら面白い」というようなことがありましたら、ぜひご指摘ください。来年度調査の項目に加えていきたいと思います。

ちなみに来年は若年者を対象とした調査を重点化しようか、と考えています。まだ腹案ですけれども。
現在10の代労働者の非正規率は72%にのぼり、高校・大学の内定率もかなり低い者になってきています。これから不況ですので、また氷河期になることは間違いないところです。短い「間氷期」でした。逆に中途採用者の率は高まり、日経の社説でも「新規一括採用をみなおしては」といわれるほどです。
新規一括構造が崩壊しつつあるとすれば、そこでもっとも割を食うのは若年労働者です。最初の就労の機会を逸し、キャリア形成を困難にしてしまします。
こうした若年労働者の状態や意識にメスを入れていくことは今後大きな課題になってくるかと思います。

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