経済同友会のDNAとそれゆえの偏奇
今朝の朝日も、耕論として3人が雇用危機について語るという特集。経済同友会の品川正治氏、全国ユニオンの鴨桃代氏、野宿者ネットワークの生田武志氏の3人です。
後2者については、まあ、いつも通りというか、ほんとは鴨さんには、できれば通り一遍の「派遣法の規制緩和が諸悪の根源」じゃない言い方を期待したいところですが、それはまたの話に。
本日のトピックは品川さんです。
>これまで日本の資本主義には、果実は国民が分けるという実質があった。それが修正主義と批判され、果実は株主や資本家のものという考えが幅をきかせた。いったんは回復した景気の実感さえ得られないまま、リストラという名目で労働者への配分は減らされ、浮いた利益を配当に回すことで経営者の報酬を増す。そういう米国型の経営手法が当然とされてきた。
一見、ここ数ヶ月はやりの言い方をしているだけに見えますが、経済同友会終身幹事の品川さんが言うと重みがあります。
なぜなら、まさにその修正資本主義の思想こそ、終戦直後に結成された経済同友会が掲げた旗であったからです。
戦後経営労務の歴史は、経営側に「経営者よ正しく強かれ!」と叱咤するタカ派の日経連と労使協調を掲げるハト派の経済同友会があり、労働側にタカ派の総評とハト派の同盟が位置し、労使双方のハト派の同盟としての生産性運動が、結果的にタカ派も巻き込みながら、ある時期までの日本のシステムを形作ってきたわけです。
そして、大変皮肉なことに、そういう日本的な修正資本主義システムに対して経営側から攻撃を加えたのも、品川氏の属する経済同友会であったというところに、品川氏の感慨が二重三重に深みを帯びるゆえんでもあります。
http://www.doyukai.or.jp/whitepaper/articles/no12.html(第12回企業白書(1996年))
>・今や日本企業はグローバルに活動する行動主体であり、国際化、自由化の波の中で、市場原理・グローバルな行動基準に基づいた企業運営を行っていかなければならない。
http://www.doyukai.or.jp/whitepaper/articles/no13.html(第13回企業白書(1997年))
>グローバル市場の信頼を失った企業は、一国政府がいかにこれを支えようとしても最早支え切れないことが明らかとなり、官主導の護送船団方式は終焉を迎えた。・・・日本以上に労使一体型の経営を行っていると思われていたドイツ企業も、今では市場主義経済の積極的移入に努めている。日本だけが出遅れる訳にはいかない。日本経済と企業は日本的経営と持て囃された過去の成功体験に捕われず、市場主義経済へ思い切って舵を取る必要があると思われる。今こそ自分達に十分ではなかったものを取り入れる絶好のチャンスであると認識すべきである。
>市場主義経済とは何か、そしてグローバル市場で生き残るためにはどうすればよいか。それは各企業が「資本効率重視経営」を行うことであろう。いかにしてそれを実現するかは各企業が、自社の歴史、風土、業態、規模等を勘案しつつ決定すべき問題であるが、そのベースは資本効率を重視することによって利益をあげ、利益をあげることによって企業の価値と人々の企業への投資インセンティブを高め、有利な資金調達で積極的に事業を展開して成長していく、というものであろう。最早市場と直結したサイクルを維持し、強化出来る企業しか生き残れない。歴史が今、それを証明し始めている。
これを、単純に経済同友会が変節したのが悪かったと切り捨ててしまっては、問題の本質が見えなくなります。経済同友会がハト派で、改革志向で、市民志向で、リベラルで、そう、とにかく、そういう進歩的知識人から好まれるような体質を持っていたことが、「持っていたにもかかわらず」ではなく「持っていたがゆえに」、こういう市場原理だ、グローバルだという、一見かっこよさげなスローガンに、安易に流されていったのではないのか、と、問いかけてみる必要があります。
市民主義と市場主義の結託という90年代のキーワードが、ここに露呈していると考えるべきではないのでしょうか。
もちろん、品川さんはそれに棹さした人々の中にはいません。しかし、現場で労働組合とつきあっている日経連ではなく、そういう現場から切れた偉い社長さんたちのサロンである同友会がここまで脳天気な市場原理主義を振り回せたというところに、例えば同時代に山口二郎氏ら進歩的な政治学者たちが何の疑いもなく「政治改革」を唱道していたこととのシンクロニティは明らかに現れています。
>日本企業はまだ米国型に100%染まっていない。役員会で労働者を切って配当を確保しようとする財務担当者に対して、雇用を守ろうと必死に主張する人事担当者がいると信じたい。
そう、私も信じたい。10年前の経済同友会の市場主義の鼓吹にもかかわらず、日本の企業はそう安易に染まってはいないことを。ね、労務屋さん。
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>>日本企業はまだ米国型に100%染まっていない。役員会で労働者を切って配当を確保しようとする財務担当者に対して、雇用を守ろうと必死に主張する人事担当者がいると信じたい。
>そう、私も信じたい。10年前の経済同友会の市場主義の鼓吹にもかかわらず、日本の企業はそう安易に染まってはいないことを。ね、労務屋さん。
代表取締役が人員整理にこだわって「オレの方針に従わないならどうぞ辞めてください」などということを言ったら、どこまで逆らえるのでしょうか。身体を張って制止できる人は絶滅したと思います。
大阪の某知事も同様の発言をして、世論は圧倒的に某知事支持でした。
お偉い社長様には逆らうな、ってな雰囲気がなぜか蔓延しているような気がしてなりません。やはり終身雇用が崩壊しているからでしょうか。これでは、勇気ある発言は望めないでしょう。
(大阪はその結果、低賃金の教員補助員等が全員解雇され、その賃金の原資が御堂筋のイルミネーションに化けましたとさ、めでたしめでたし。)
投稿: NSR初心者 | 2008年12月28日 (日) 17時55分
上場企業で、「その企業の中身を良く知らない株主が多数いる」ようなところでは、それは難しいと思いますよ。
投稿: tamtam | 2009年1月 3日 (土) 04時26分