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2008年11月 9日 (日)

建売住宅の労働保険料は誰が払うべきか?

さて、いささかマニアックな労働法の話です。

まずはじめに、先日の個別紛争研修で喋った以下の部分を読んでください。これが前提になります。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/jirrakenkyu.html

> これを理解するためには、まず労働基準法第87条からみていく必要がある。
 
(請負事業に関する例外)
第八十七条  厚生労働省令で定める事業が数次の請負によつて行われる場合においては、災害補償については、その元請負人を使用者とみなす。
 
 これは、戦前の労働者災害扶助法にさかのぼる規定で、重層請負を常態とする建設業においては、下請けや孫請けの雇用する建設労働者も同じ建設現場で入り交じって作業することから、そういう元請け企業が直接雇用しない建設労働者についても、元請け企業を使用者と見なして労災補償責任を負わせるという仕組みである。いうまでもなく、労働者ではない請負職人はその対象ではない。
 
 これを受けて、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第8条では、
 
(請負事業の一括)
第八条  厚生労働省令で定める事業が数次の請負によつて行なわれる場合には、この法律の規定の適用については、その事業を一の事業とみなし、元請負人のみを当該事業の事業主とする。
 
と定めている。建設業については、労災保険にかかる部分については元請け企業が下請けや孫請けの雇用する労働者の分まで含めて、全額保険料を払わなければならない。これも、戦前の労働者災害扶助責任保険法にさかのぼる規定である。

この「請負」という言葉の意味が問題になったのが、この裁判です。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081107131706.pdf(平成20年04月17日東京地方裁判所判決)

この戦前にさかのぼる規定が前提としている建設業の姿は、建設業者ではない注文者がいて、それが大手の建設業者に建物を建ててくれと発注し、その発注を受けた(つまり第一次請負人たる)建設業者が、その仕事を中小の建設業者に下請けに出し、そこがさらに零細の建設業者に孫請けに出し・・・・・・・という麗しい重層請負の世界ですね。だから、災害補償責任を負うのも、またそれに基づき労働保険料の納付責任を負うのも、「元請負人」と規定しているわけです。注文者というのは、普通の住宅だったら一般家庭だし、会社の社屋だったら(建設業者ではない)一般企業のはずだから、そういうことで別に問題はない。

ところが、戦後建売住宅という仕組みが発達してきました。これは、誰か別に建設業者ではない注文者がいて、建設業者がその元請負人になるのではなく、大手建設業者が自らの発意で住宅建設をするんですね。そしてそれを中小業者に下請けに出す。そして、その中小業者がさらに零細業者に孫請けに出す。厳密な民法の法理論上から言うと、「元請負人」というのは大手建設業者ではなく、第一次下請けの中小業者ということになります。だって、建売住宅を企画した大手建設業者は別に誰かから請け負ったわけではないのですから。

とはいえ、社会的実態から言えば、この大手建設業者が(元請負人として)注文住宅の建設を請け負って、それを下請けに、さらに孫請けにと請け負わせている姿と、建売住宅を自ら企画して下請けに、さらに孫請けにと請け負わせている姿に、何か実体的な違いがあるかというと、ほとんどないわけです。あるのはもっぱら民法理論上の法的構成の違い。

さあ、ここで、法的構成こそがすべてに優越するという民法的思想と、そんなものなんじゃい、実態こそがすべてじゃ、という労働法的思想がぶつかるわけです。

後者に立つ厚生労働省は、こう主張します。

>徴収法8条1項,徴収規則7条が,建設の事業が数次の請負によって行われる場合において,請負関係を一括して元請負人のみを事業主とする規定を設けた趣旨は,建設の事業においては,工事を請け負った元請負業者が仕事の全部又は一部を下請負業者に請け負わせ,元請負業者がこれらを指揮監督し,数次の請負が有機的関連をもって行われているのが通常であり,このような場合には,資力が乏しく補償能力の十分でない下請負業者でなく元請負業者に災害補償の責任を負わせることが保険適用の確保のために相当であり,また,数次の請負それぞれについて保険料の納付義務者や保険料額を確定して保険料を徴収することが技術的に困難であって,元請負業者に一括して保険料を負担させることにより事務処理の簡素化が図られることから,数次の請負を一つの事業として把握して,元請負業者から労働保険料を徴収することとしたものである。

そうすると,このような趣旨に基づく徴収法8条1項の「元請負人」の意義については,他の者から工事を請け負っているか否か等の形式面のみに着目するのではなく,有機的関連をもって行われる一体の工事を統括して施工管理する立場にあるか否かという実質面に着目してこれを解釈し,そのような立場にあると認められる者は,たとえ法形式的には請負人ではなく注文者であったとしても,同条項の「元請負人」に当たると解すべきである。また,同条項にいう「数次の請負」とは,建築業者が建築主として注文者となる建売住宅の場合でも,注文者から請け負った請負業者がさらに下請負契約をすれば,そこに「数次の請負」が生じ,仮に注文者から請け負った者が下請けに出さずに自ら工事を完成させたとしても,上記のとおりその注文者が「元請負人」に当たると解される以上,「数次の請負」があるといえる。

そして,原告は,建売住宅の建築工事を多数の業者に注文して請け負わせ,これらの工事を統括して施工管理しており,有機的関連をもって行われる一体の工事を統括して施工管理する立場にあったから,原告は,徴収法8条1項にいう「数次の請負」の「元請負人」に当たり,当該工事に係る事業の事業主として保険料の納付義務を負う。

民法の試験でこういう答案を書いたら不合格になるのかもしれませんが、労働法の世界ではまことになじみやすい発想なんですね。

これに対して、原告は

>原告が建築主として建売住宅の建築を注文する場合には,原告は注文者であって請負人ではないことは明らかであるから,原告から請け負った者が「元請負人」になることはあっても,原告が「元請負人」になることはあり得ない。また,原告から請け負った者は自分で仕事を完成しても構わないのであるから,そこに「数次の請負」関係があるとはいえない。そうすると,被告の主張するような解釈はその文言の解釈として不可能であり,法的安定性,予測可能性を著しく害するものであって許されない。

民法理論からすると、まことにもっともでありますな。

で、本件判決は全面的に民法的発想に立ち、ばっさり労働法的発想を切り捨てております。

>まず,「数次の請負」についてであるが,ここにいう「請負」については,民法632条以下に定める「請負」のいわゆる借用概念であり,徴収法8条1項にいう「請負」を民法632条以下の「請負」と別異に解釈すべきであることを窺わせる規定は,徴収法上,何ら存在しないのであって,民法にいう「請負」と同義であると解するのが相当である。そして,その
文言からするならば,「数次の請負」とは,請負契約が,元請けから下請け,下請けから孫請けというように,複数の段階を経て行われているものをいうと解するのが相当であり,また,「元請負人」とは,そのような複数の段階を経て請負契約がされた場合における最先次の請負契約の請負人のことをいうと解するのが相当である。・・・

建売住宅の販売業者のように,自ら建築主として建物の建築を請負業者に注文する者は,およそ民法上の請負契約関係において,あくまで注文者であって請負人に当たらないことは明らかであり,このような請負契約において請負人の相手方である注文者を「請負人」であると解することは,前記のように租税法規の解釈と同様に法的安定性及び予測可能性を重視して行うべき文言の解釈としては,困難であると言わざるを得ない。

また,被告は,同条項にいう「数次の請負」に関して,建築業者が注文者となる場合であっても,注文者からの請負人がさらに下請負契約をすれば,そこに「数次の請負」が生じる旨主張するが,そのような場合には,数次の請負の「元請負人」は,あくまで注文者である建築業者から最初に請け負った請負人であって,注文者が「元請負人」となるわけではないことはいうまでもない。

さらに,被告は,仮に注文者から請け負った者が下請けに出さずに自ら工事を完成させたとしても,注文者が徴収法8条1項の「元請負人」に当たると解される以上「数次, の請負」関係があるといえる旨主張するが,そのような場合には請負は「数次」にわたっておらず,また,前記のとおり注文者は「元請負人」とならないから,被告のこの主張は失当であると言わざるを得ない。

そして,被告は,「元請負人」に当たるか否かは,有機的関連をもって行われる一体の工事を統括して施工管理する立場にあるか否かという点により決すべきであると主張するが,事業が有機的関連をもって行われる一体の工事といえるか否か,あるいは,いかなる実態があれば工事を統括して施工管理を行う立場にあるといえるのかについては,いずれも客観的に判断することが困難な場合が少なくないのであって,このような明確とは言い難い基準により,当該事業についての保険料の納付義務の有無を判断することになれば,徴収法上,保険料の申告を義務付けられ,その申告した保険料の額に不足があれば,追徴金を課せられることになりかねない適用事業の事業主の立場を,著しく不安定なものにし,労働保険料の納付に関する事業主の予測可能性を著しく損なうものであるから,実質的な見地から見ても,このような被告の主張する解釈を採用することはできない

うーーむ、法律というのは一定の政策目的を実現するために制定されるものであり、法律の解釈もその政策目的に照らして行われるべきだという発想は、受け入れられないようであります。そういうことがやりたければ、

>なお,たしかに,被告が主張するように,建売住宅業者の場合でも,その業者から一括して保険料を徴収できるならば,保険料の徴収の確保及び徴収事務の簡素化を図るという趣旨を実現するためには望ましいことは容易に推察されるところであるが,徴収法の解釈としてこれを行うことは上記のとおり困難であると言わざるを得ないのであって,仮に被告の主張するような趣旨を実現する必要があるというのであれば,別途立法措置を講ずることによってその目的を達成すべきことになろう。

ちゃんと立法しなさい、と。

ただですね、本件ではもっぱら労働保険徴収法の解釈のみが問題とされ、それが「租税法規の解釈と同様に法的安定性及び予測可能性を重視して行うべき」とされているわけですが、そもそも徴収法の当該規定は労働基準法の定める使用者の災害補償責任の特例に基づいているものであるところ、労働基準法上誰が災害補償責任を負うべきかという問題については、租税法規と同様の解釈をするというのはおかしいはずです。それこそ、労働基準法の制定の根本精神に反する。契約書上でいやあ、これは請負契約だからな、雇用契約なんかじゃないからな、どんなに指揮命令してたって、契約で請負といってるんだから請負なんだぜ、というわけにはいかんぜよ、おまえが指揮命令していて労働者が怪我したんだからおまえがちゃんと補償しろというのが、労働基準法の根本精神であるわけで、その考え方からすれば、こっちの災害補償責任の特例の方も同じではないかということになるはず。ただそれが、労働保険料の徴収という租税徴収に類似する形になると、なかなか難しい話になるわけですが。

なんだかどこかで似たような話があったな、と思って

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071112151712.pdf

例の混合診療の判決と同じ発想ですね。で、よく見たら、やはり定塚さんの判決でした。

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コメント

民法の言葉で書かれてあれば、そう解釈せざるを得ないというか
なんで、民法の言葉で書いちゃったんだろう…

いや、この規定ができた頃は、建売住宅なんてやり方はなかったんですよ。だから、建設業者はみんな請負人でよかった。

「規定を設けることで何をしようと思っているのか」を明確に意識して、それを言葉で表すことは実は結構難しいということかな…

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