民営化・外部委託と労働基本権
黒川滋さんが高梨昌先生のお話を伺ったそうです。
http://kurokawashigeru.air-nifty.com/blog/2008/11/117-4681.html
>つい数日前、上司に連れていかれて、高梨さんと面談する機会があった。
折から、自治体の臨時職員や非常勤職員の問題で整理つかないもやもやした考えがあって、それを整理する補助線となる考え方をいただいた。
労働組合として言うべきことはあるだろう、という叱咤激励もいただいた。
●印象的だったのは、国鉄分割民営化の7年もさかのぼり国労に委託研究されてやった成果を、国労が受け入れられずに、結果としてその論文を国鉄改革派の人たちが発見して、分割を書き加えたのが、あの国鉄改革だったということだったと語る高梨さんの言葉。出発点では国労と問題意識を共有していたことであり、不幸なかたちで、労組弾圧として分割民営化が進められた。間際に社会党が高梨さんのそもそもの案と共通する分割なし民営化として国労を説得しようとして失敗する。
●最近、公共サービスの民営化に疑義が呈せられるようになってきたが、少し前までは何でも民営化した方がいいという考えが蔓延していた。
その成功例がJRということだが、そもそも高梨さんが民営化の話を持ち出す問題意識として、第一に労働基本権を回復させるための手段という考え方があった。それが国鉄民営化の出発点である。
このあたりは、公共部門の労働基本権問題を時系列的に見てくると、よくわかることなんですね。
コンパクトにまとめたものとして:
http://homepage3.nifty.com/hamachan/komurodo.html(公務労働の法政策)
>これを受けて、翌1974年5月、閣議決定で公共企業体等関係閣僚協議会が設置され、7月には専門委員懇談会が発足しました。同懇談会は1975年11月意見書を提出しました。意見書は争議権について、適切な代償措置によって労働条件の改善が確保される限り、公共の利益の見地から争議行為を禁止・制限することは許されるという基本的考え方に立ち、三公社五現業等の賃金決定が争議行為を背景とした労使の団体交渉のみに基づいて行われることは妥当でないとした上で、「争議行為の問題は当事者能力と深いつながりがあり、当事者能力と経営形態とは切り離せない問題であることから、争議権の問題は経営形態とともに検討すべきであるといわねばならない」と問題を転じ、「現在の三公社五現業等によっては、その事業内容から民営ないし民営に準じた経営形態に変更し、自主的な責任体制を確立するのが望ましいものがある」と述べて、いわば経営形態変更によるスト権付与の道を示したのです。
これに対し、公労協は意見書の出された11月26日にいわゆるスト権ストに突入し、国鉄がほぼ全面的にストップするなど大きな混乱を生じました。結果的に見ると、このスト権ストによって官公労は自ら墓穴を掘った感があります。直後の12月1日、政府は「三公社五現業等の労働基本権問題に関する政府の基本方針」を閣議決定し、その中で「法を守ることは、民主主義の国家の根幹をなすものであり、本問題の解決には、このことを確認することが必須の前提となる」と強硬な態度を示した上で、専門委員懇談会の意見書の要旨を尊重し、その内容の具現化につき検討すること、三公社五現業の経営の在り方や当事者能力の強化の方途を検討する、公労法等を全般的に検討することとしています。
ちなみに、その次に黒川さんが書かれている
>今年の3月、尼崎市役所に派遣されている住民票入力オペレーターがストライキを打ったことを紹介したが、この間の民営化、外部委託を進める文脈の中で、ストライキに入った労働者は、民営化の思想の基本を忠実になぞって行動した、ということである。それを行政改革が大事でけしからん、という論理だけの当時の市長は、民営化の思想について不勉強だったということなのだ
という点も、実は現在の公務労働法制の隠れた論点なのです。
上の論文の最後のところで、こういう指摘をしておいたのですが・・・。
>この最後の点は、じっくり考えていくと大きな問題になりそうです。2006年5月に競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(「市場化テスト法」)が成立し、同年7月から施行されています。これによると、政府が対象となるサービス等を定めた公共サービス改革基本方針を策定し、これに基づいて官民競争入札を実施し、対象公共サービスの質の維持向上、経費の削減の面でもっとも有利な書類を提出したものが実施者となります。民間事業者が落札した場合には、国の行政機関の長は落札した民間事業者と契約を締結し、対象公共サービスの実施を委託することになります。
この場合、対象公共サービスを実施するのは落札した民間事業者に雇用される民間労働者ですから、当然労働基本権はフルに享受することになります。市場化テスト法上、秘密保持義務と刑事法規の適用上の公務員への見なしは規定されていますが(第25条)、労働基本権についてはなんら制限されていません。 落札事業者の労働者は憲法上保障され法律により制限されていない団体交渉権、争議権をフルに有しているのですから、それを公契約や行政行為によって制限できるはずがありません。仮に、公共サービスの実施に関する契約において、契約期間中労働協約により賃金を上げないこととか、争議行為を行わないことといった条件を付し、これに反した場合には契約を解除するというようなやり方を想定しているとすれば、それは公序良俗に反する契約としてその部分は無効といわざるを得ないでしょう*12。
*12既に刑務所については市場化テストが行われており、団結権すら有しない公務員たる刑務所職員と、争議権まで有する民間委託企業の労働者が同じ刑務所内で就労するという事態になっています。
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