『世界』12月号
『世界』12月号に、新しい社会保障像を考える研究会の「提言 新しい社会保障像の構想」が載っています。
http://www.iwanami.co.jp/sekai/2008/12/directory.html
>1990年代後半以降、日本の社会保障制度は、長期的な視点を欠いたまま、場当たり的な制度改革が繰り返されてきた。政府内の議論も、もっぱら給付抑制を狙いとした財政面の議論が中心であり、しかも省庁の縦割り組織の枠組みのなかで社会保障像を考える傾向が強かった。しかし、「社会保障の持続可能性」について、単に財政面のみから考えるのではなく、社会保障制度を支える社会的基盤の再構築という側面から考えることも重要ではないか。いまこそ原点に立ち返り、既成の枠組みにとらわれることなく、社会保障の理念を構築し直し、中長期的視点に立った社会保障像を描くことが求められている。
社会保障のあり方に関心をもつ中堅・若手の研究者、実務家たちが、専門分野を越えて結集し、討議を重ねてきた成果をここに公表する。
報告書執筆者は、菊池馨美、駒村康平、斉藤純一をはじめとする各氏です。
さらに、神野直彦、宮本太郎の両氏を加えて「提言をどう読んだか」という座談会も載っています。
私からすると、実に多くの点で共感するところの大きい提言だと感じました。
まず哲学のレベルで、
>この社会統合を達成するためには、事後的に最低限度の生活水準を保障するだけでは十分ではなく、各人のライフチャンスをひらき、実質的な機会の平等を保障することを通じて、誰もが社会的な共同に積極的に関与できるよう促しうるものでなければならない。
生産性の低い奴はとっとと失せろ、うぜえんだよ、死なない程度のカネはやるから(竹中流「セーフティネット」)、余計なことに手を出さずにすっこんでろ!とは考えないということです。
最低所得保障制度としては、
>現在の生活保護制度を見直し、現役期と高齢期それぞれのリスクや可能性を考慮した最低所得保障制度に組み直し、現役期では就労支援政策と組み合わせた短期の失業保険、失業扶助を中心とし、高齢期においては、年金保険とそれを補完する最低所得保障機能を中心とした仕組みにする。
大変入りにくいがいったん入ったら一生モノというのではなくする必要があるのです。
もう一つ、これも私が強調していることですが、
>低所得者に重点を置いた、資力調査を伴わない社会手当を導入する。この制度は、低所得世帯における家族の扶養、住宅確保を目的とする。
ここは、後の座談会でも議論になっていて、駒村さんがこう言っています。
>現実問題として非正規労働者、ワーキングプアといわれる人たちを今の日本の企業の中で正規労働者に均等待遇することが直ちに可能なのかどうか。・・・・・・非正規・ワーキングプアの人たちに、家族や住宅に着目した手当を直ちに保障していこうというものです。
この提言の各論自体が、今の社会保障の体系にこだわらず、所得保障制度、就労支援制度、医療保障制度、介護保障制度、子育ち・子育てを支援する制度、住宅保障制度という建て方になっていること自体、重要な意味があると思います。どうしても、既存の社会保障の枠組みに囚われると、年金、高齢者医療、介護と老人周りの問題にばかり目がいってしまい、若者の社会保障という視角が薄れてしまいます。
この提言はあくまでも中間報告で、詳細は近日中に別途出版予定ということなので、それを期待したいと思います。
ちなみに、今年初めの私の小論とどこまで共通しているか、一瞥していただければ・・・。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/seroukakusa.html(格差社会における雇用政策と生活保障『世界の労働』2008年1月号)
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