« 第116回日本労働法学会大会 | トップページ | 賢者は他人の経験に学ぶ »

日本経団連の「日本的移民政策」

本日、日本経団連が「人口減少に対応した経済社会のあり方」と題する政策文書を公表しました。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/073.pdf

我が国の人口の展望から始まり、人口減少が経済社会に及ぼす影響、中長期的な経済社会の活力維持に向けた方策ときて、その具体的内容についても、

まず、成長力の強化、未来世代の育成、ともっともな話から始まり、経済社会システムの維持に必要な人材の活用・確保という項目でもまずは女性の社会進出等の促進と、正しい政策をこれでもかこれでもかと並べた上で、

15ページからいよいよ本命の国際的な人材獲得競争と日本的移民政策というテーマに入ります。これが本命であるのは、ほかの項目が1ページ足らずなのに、この項目だけは3ページにわたって詳しく書かれているからですが、

この項目もまずは、「ITや研究開発部門、金融、商品開発、海外事業展開等の分野で活躍が期待される高度人材」といった正真正銘の高度人材の話から始まります。

この分野については、EUでもブルーカードといった新たな制度を作って、人材獲得に力を入れようとしていますので、適切な提言なのですが、その後にいかにもさりげなさそうに「一定の資格・技能を持つ外国人材の受入れ」という小項目があって、ここが実は大変な問題をはらんでいるんですね。

>中長期的に経済社会システムを維持するという点や、すでに労働力不足に直面している産業分野が存在していることも鑑みれば、適切な管理の下、一定の資格や技能を有する外国人材の受入れを図っていくことが求められる。当面は、地域経済および国民生活の維持・強化の観点から、とくに労働力不足が予想される分野(製造業、建設業、運輸業、農林水産業、介護等)での技能を有する労働者を、労働需給テストの導入を前提として、在留資格の拡大、要件緩和等を通じ、積極的に受け入れていくことが必要である

ここにあげられている業種がなぜ労働力不足なのか、ということを考えれば、これはつまり労働条件が良好ならざる分野に、それに耐えられる外国人労働者を持って充てようということになる蓋然性がかなり高いわけです。それを「一定の資格や技能」という曖昧な要件でやってしまうの?という問いですね。

とりわけ、

>例えば、看護師・介護士については、現在、経済連携協定のスキームを通じて部分的に受入れが進められている。しかし、医療や介護を必要とする高齢者が今後ますます増えていくことを考慮すると、経済連携協定の枠組みにとどまることなく、必要な人材を柔軟に受け入れることができるような制度設計を進めるべきである。

これからの日本の労働需要の相当部分を占めるであろうと思われる生身の対人サービス業務を、あえて低賃金のままに据え置いて外国人労働力を活用するという方向が、本当に今後の日本の労働市場政策として適切なものであるのか、もっとマクロ社会的な観点から議論がされるべきでしょう。

先日あるところで喋ったことですが、生身の対人サービスはその性質上、外国人労働力を意識的に導入しない限り、国内でサービス提供と同時に消費されるしかないので、国内労働力需要として増大こそすれ減少することのない貴重なものですから、あまり目先の銭金勘定で国家百年の大計を誤ることのないようにしたいものだと思います。

いかにもこれとは別物であるかのように、

>なお、単純労働者の受入れについては、今回実施した欧州先進諸国における現地調査でも明らかになったように、過去の移民政策の失敗によって生じた失業問題や、閉鎖的なコミュニティの形成等、様々な問題もあり、今後さらに議論を深めていくべき課題である

と書かれていますが、まさに今その労働条件の劣悪さゆえに労働力不足になっている「製造業、建設業、運輸業、農林水産業、介護等」(の一部)に安易に外国人労働力を導入することが、それら分野を単純労働力の集団にしてしまう危険性があるのではないでしょうか。これら分野がそうならないようにすることこそが必要なのだと思われます。

なお、具体的な受け入れ人数については、

>国連の試算10では、2050年時点で総人口のピーク時(2005年)の水準を維持するために必要な外国人流入数は、累計で1,714万人(年平均38万人程度)と推計されている。また、経済産業省の試算11でみても、生産年齢人口のピーク(1995年)を維持するためには、単純計算で2030年までに約1,800万人(年平均50万人程度)もの外国人を受け入れる必要が生じるとしている。

と、国連や経産省の試算を引用する形で1700~1800万人というイメージを提示していますが、それが将来大量の失業者と共存することにならないか、まさに高度成長期以来のヨーロッパ諸国の経験に学ぶ必要があるでしょう。少なくとも、

>例えば、医療・介護において、現在と同水準のサービスを維持するために必要となる就業者数を試算すると、2055年時点で約180万の人材が不足することとなる

というその180万人を、なぜ同じ日本人によって調達することができないと思うのか。そこにはやはり、現在のなかなか日本人が寄りつかない労働条件をそのまま将来に延長して考えようとするからではないのでしょうか。もちろん、それは国民負担率をどこまで上げるかという議論と裏腹ですが、税金や社会保険料を払いたくないから低賃金の外国人で、というのは持続可能な社会のあり方とは言い難いように思われます。

少なくとも、この日本経団連の提言には、例の中川秀直グループの提言にあったような、外国人と内国人との差別禁止均等待遇という項目が見られません。それがあったとしても、なかなかそれは実行困難なものですが、はじめからそれすらなければ、底が抜けてしまうのではないでしょうか。

なお、後ろに「欧州先進諸国の移民政策に関する現地調査」が載っています。

|

« 第116回日本労働法学会大会 | トップページ | 賢者は他人の経験に学ぶ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日本経団連の「日本的移民政策」:

» 移住労働者の受け入れについて [今日、考えたこと]
以下、mixiに書いたことの備忘録として [続きを読む]

受信: 2008年10月17日 (金) 07時49分

« 第116回日本労働法学会大会 | トップページ | 賢者は他人の経験に学ぶ »