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2008年10月15日 (水)

賢者は他人の経験に学ぶ

昨日のエントリーで紹介した日本経団連の移民提言ですが、後ろに「欧州先進諸国の移民政策が与える示唆と課題」というのがついています。

>日本経団連では、外国人材の受入れ推進に向け、欧州各国における移民政策の現状を把握することを目的に、本年7月、ドイツ、オランダ、ベルギー(欧州委員会を含む)、英国に調査団を派遣し、政府、経済界関係者と意見交換を行った。

ということで、そのまとめですが、欧州の実情が的確にまとめられており、日本経団連事務局の仕事のレベルの高さがよくわかりますし、こちらをきちんと読めば、自ずから適切な外国人政策が浮かび上がってくるようになっています。

>高度人材の積極的受入れは、訪問した各国に共通する政策であった。他方、各国で考えが大きく異なるのは、単純労働者の受入れである。

高度人材については、ポイント制のイギリス、職種限定型のドイツ、所得基準のオランダ、ベルギーがありますが、いずれにしても、経済成長に貢献する高度人材の受入に異論のある国はありません。問題は高度人材でない人々で、この報告は、こういう発言に飛びついているのですが、

>後述するが、ドイツの政府・経済界は過去の経験から単純労働者の受入れに消極的である一方、高度人材は積極的に受入れるべきとの考えをとっている。ただし、高度人材のみならず、中程度の技能を持った人材(以下、中度人材)も受入れていくべきとの意見が経済界では聞かれた。

こうした中度人材の受入れという考えは、「高度人材」または「単純労働」という一律の区分けをしている日本の現行制度に、新たな概念を提供するものであり、注目される。

「中度人材」という言葉に飛びつくのはいいのですが、その人たちに一体どういう処遇をするつもりなのかということを抜きに、ただ「中度」という言葉を使ってもどれだけ意味があるのか・・・。

少なくとも、ドイツから学ぶべき「他人の経験」は、

>ドイツの経験から学べる点はいくつかある。まず単純労働者については、強制的な帰還制度を整備しない限り、有期滞在を前提としたローテーション型の受入れは機能しにくいということである。ドイツの場合、2国間協定により受入れたゲスト・ワーカーは当初、数年で母国に帰ることとなっていた。しかし、単純労働者として入国した彼らは、母国に帰っても生活する糧はなく、母国に帰る場所もなかった。加えて、帰還制度やその責任の所在が不明確であったため、これらのゲスト・ワーカーはドイツに違法に滞在し続ける結果となってしまった。この反省からドイツでは、特例措置として認められている季節労働者の受入れ制度において雇用者に帰還責任を課す仕組みを採用するとともに17、母国での生活環境や、家族を呼び寄せる計画がないことなどを受入れ前に審査している。
また、今回の調査では、無秩序な単純労働者の受入れが、その後のドイツ経済にマイナスの影響を与えたとの分析も紹介された。
ドイツでは、ゲスト・ワーカーを労働力の不足した造船、繊維、金属などの産業分野で積極的に受入れたが、これは結果的に、当該分野の合理化を遅らせることとなった。70年代以降、これら合理化の遅れた産業では多くの企業が倒産し、多くの外国人労働者が失業した。他方、安価な労働力に頼らなかった日本は、産業のオートメーション化などを通し、労働集約型産業を技術集約型産業に脱皮させ、国際競争力を高めたというのがその分析結果である。
ドイツのこうした経験は、単なる労働力の穴埋めとしてのみ外国人労働者を捉えることに警鐘を鳴らしているのかも知れない。

かつて労働力不足で外国人労働力を導入した「造船、繊維、金属などの産業分野」は、単純労働とはいえないのではないでしょうか。外国人問題で「単純労働」という言葉が使われるときは、普通の労働問題で使われるとき(清掃雑役など)よりもかなり広いコノテーションで使われる傾向がありますが、これらは、「高度」ではなくてもまさに勤続による技能の向上が重要な「中度」人材で、ドイツの経験はまさにそういう中度人材分野にうかつに導入するとこういうことになるよという「他人の経験」なのではないでしょうか。

移民の経済的影響についても、ちゃんとこう指摘されています。

>ただしここで注意が必要なのは、一口に移民とは言っても高度人材と単純労働者とでは、経済成長への貢献度が異なるということである。ドイツでは、高度人材1人の受入れが、5人の新規雇用を生み出すとの認識が示された一方、単純労働者の受入れは、短期的な労働市場の補完となりえるものの、長期的には移民の失業等による社会的コストの増大を招くとの指摘があった。

このことはつまり、平均的な国民よりも生産性の高い高度人材を受入れれば、国全体の生産性が増大し、1人当たりのGDPは増加することを意味している。

裏返せば、平均的な国民よりも生産性の低い外国人を受け入れれば、国全体の生産性が低下し、1人あたりのGDPは減少することを意味しているわけです。

そして、それよりも遙かに深刻なのは社会的影響です。

>ドイツのゲスト・ワーカーと呼ばれる移民は、ドイツ社会の価値観を共有しようとせず、閉鎖的なコミュニティを形成して、ドイツ社会への統合が遅れたとの指摘は先述の通りである。また、移民2世の中には、移民1世の両親が失業したために、ドイツ国内で十分な教育を受けることができず、社会への適応が進んでいない層があると言われている。このような理由から、移民を受入れてきた欧州諸国では移民の失業率が深刻になっており、例えば、ドイツでは自国生まれの成人男性の失業率は9.1%であるのに対し、外国生まれは15.7%となっている。

もひとつ、英語を母国語とする国とは異なるこういう条件があります。

>英国では自国生まれと外国生まれの成人では失業率に大きな差はないが、オランダではその格差は3倍強となっている。この要因の一つは、言語の違いにあると言われている。英国では英語という国際言語が公用語とされ、移民でも多くの層が英語をある程度話すことができる。しかし、オランダ語は英語に比べ広く普及しておらず、その言語教育もオランダ語圏域外では限定的である。これによって、外国人のオランダ語習得が進まず、就職の障害となっているという見方である。こうした反省に立ち、オランダやベルギーのオランダ語圏では、言語教育を社会統合政策の根幹に位置づけている。

そして、社会統合政策はたいへんなお金がかかります。

>移民に関する問題の顕在化を受け、欧州各国は外国人やその子どもに、語学やその国の習慣、歴史などを学ばせ、社会への適応を促す統合政策を推進するようになった。中でも社会統合を積極的に進めているとされるオランダでは、中央政府だけで、毎年5億8,000万ユーロを社会統合政策に拠出している。しかも、これだけの額を外国人である移民のために費やすことについて、国民から大きな批判はないと言う。その理由は、社会統合のコストが「未来に対する投資」であると一般に捉えられ、統合プログラム自体には少なからざる費用はかかるものの、むしろ社会統合を行わないことによる損失よりは安く済むとの認識が国民の間に根付いているためである。
ドイツでも連邦政府が負担する社会統合のための費用は、2億5,000万ユーロといわれている。実際には、社会統合政策は各地方政府が主体となって運営することから、地方の支出も含めると非常に多額の費用がかかっている。ドイツでは、これまでの外国人の受入れ政策が失敗であったとの認識があり、こうした失敗を繰返さないためにも、巨額の公費を使ってでも社会統合を進めなければならないとの認識があるようである。なお、社会統合政策は開始が遅くなればなるほど、そのコストが高くなるとの指摘もあった。ドイツのこうした経験は、外国人を受入れるにはまず、社会統合の基盤を整える必要があるとの教訓を示すものである。

ほとんど付け加えるべきことはありません。昨日紹介した移民政策の提言に、こういう的確な欧州の実情紹介をちゃんとつけて発表するというのは、日本経団連事務局の良心の現れと見るべきなのでしょうか。

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年功序列賃金廃止の考えがない時点で受け入れられません。

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