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2008年10月23日 (木)

働く者の尊厳を取り戻す労働組合活動

労働政策研究・研修機構のホームページの名物コラム、今回は労使関係部門の呉学殊(オ・ハクス)さんです。

http://www.jil.go.jp/column/bn/colum0110.htm

>「現代版奴隷市場」、「江戸時代だったら刀をもっていって社長の首をはねてやりたい」、「とにかくダメージを与えたい」、「にっちもさっちもいかなくて、本当に路頭に迷っていただろう」、「もう死んでしまうかも知れない可能性がある」、「女性30歳高齢者」等々の言葉を、労働者のヒアリング調査の際、耳にし、労働現場は今大変だと心配していた矢先、尊い7人の市民が犠牲になったあの痛ましい秋葉原事件が起きてしまった。

私は、昨年末から最近増加し続けている個別労働紛争(労働者個人と会社との間で発生するトラブル)がなぜ起きているのか、また、労働組合がその紛争解決や予防にどのような役割を果たしているのかを調べるためにその分野で大きな成果を挙げているコミュニティ・ユニオンを訪問し調査を行っている。コミュニティ・ユニオンとは、「地域社会に根をもった労働組合として、パートでも派遣でも、外国人でも、だれでも1人でもメンバーになれる労働組合のこと」を言う。紛争の発生メカニズムと解決プロセスを具体的に解明するために、ユニオンを通じて紛争を解決した労働者に直接会い2~3時間かけてお話を拝聴している。上記の心痛む言葉はユニオンの組合員の方々から聞いたのである。具体的な内容とユニオンによる解決内容を略記すれば次の通りである。

「現代版奴隷市場」は、ある市が住民票入力作業を民間に委託していたが、それが偽装請負と指摘されて労働者派遣に切り替える際に、競争入札をかけた。それにより、入札価格が下がり、また下がる可能性がある中で、「5人の労働者が安く売られてしまう」その非人間的な風景から名付けられた。ユニオンの無期限ストライキで直接雇用を勝ち取った。

「江戸時代だったら刀をもっていって社長の首をはねてやりたい」は、「あれ(労働者のこと)辞めさせろ、あれ捨てろ」と理由も分からず首切られる同僚たちの姿を見て、「底辺にいる私たちはみんな死刑囚なんです、みんなが。いつ死刑の執行日があるかわからんというやつです」と地方の荒廃した労働現場を告発するものであった。退職金の不支給が心配でユニオンに加入したが、幸い支給されてユニオンが具体的な行動を起こさず済んだ。

「とにかくダメージを与えたい」は、大好きだったパン屋の仕事をしていた時に、社長の子供(専務)に胸を触られる等のセクハラを受けた女性社員が、退職後セクハラ被害の仕返しをしたいという報復を現す言葉であった。行政でも解決できなかったが、ユニオンを通じて、謝罪と110万円の慰謝料をもらった。

「にっちもさっちもいかなくて、本当に路頭に迷っていただろう」は仕事中、労災(現在も手首が自由に使えない、右眼の完全失明)に遭ったが、会社が労災を認めてくれなくて莫大な治療費を自分で支払うことになったら、20年以上働いて手にした家屋敷を売らなければならないことを想定した結末を言い表したくだりであった。ユニオンを通じて労災を認めさせて治療費を払わずに退院した。また、障害年金も受給することになり、路頭に迷わずに余生を送っている。

「もう死んでしまうかも知れない可能性がある」は、大動脈弁不全症という重い病を持っている従業員が深夜まで働かせられた。実際、タイムカードを調べてみたら、月100時間以上の残業をさせられた。そのような過酷な労働の中で、いつ死ぬか分からない切迫した状況を現した言葉である。手術のために休職しユニオンの交渉を通じて2年間の未払い残業代等を含めた解決金として約750万円を支給されるとともに残っている同僚の職場改善(休日増加)を獲得した。

「女性30歳高齢者」は、大手製紙メーカーの職場慣行となっていて、実際、30歳を過ぎていたある女性社員が退職勧奨された時に、職場の実態を告発してくれた言葉である。素早くユニオンに相談した。ユニオンの交渉を通じて、解決金として490万を支給されるとともに、同僚のために退職勧奨の再発防止策を講じてもらい退職した。

以上のような解決を見た労働者たちは、ユニオンを「労働者の頼もしい組織だ」、ユニオンの幹部を「神様みたい、救世主である」と表現してくれた。

こうしたコミュニティ・ユニオンの活動が働く者の尊厳を取り戻す結果につながっていると思う。会社とトラブったら解決を求め、コミュニティ・ユニオンに相談したら生きる道が見つかるだろう。ちなみに、私のヒアリングに快く応じてくれた多くの方々にこの場を借りて心より感謝申し上げる。

呉さんは、私のすぐ隣のボックスに席がありますが、しょっちゅう日本中のユニオンをあっちこっちと飛び回っています。

彼が今書いている報告書の原案は様々な事案が詳しく書かれていてたいへんおもしろいのですが、まだ公表前ですので、ここでは既に以前雑誌に彼が書いた記事をリンクしておきます。

http://www.jil.go.jp/kokunai/blt/bn/2008-07/018-025.pdf(労働組合の労働紛争解決・予防への取り組みに関する研究―コミュニティ・ユニオンの事例を中心に『ビジネス・レーバー・トレンド』 2008年7月号)

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コメント

労働者代表機関として「一律」に企業別組合を位置づけることと
こういった活動との関連は微妙な問題かなあ。

こういった活動に、連合の影が薄いのは相変わらずですね。非正規労働者への取り組みを真摯にしているかと問われてイエスと言えるだけのことを、連合はやっていません。

労働組合、それも日本の労働組合が、「労使紛争に対応する」ことはできても、「労使紛争を予防」することってできるんでしょうか。ぶらり庵は組合員ですし、労組の存在意義を否定するものではありませんが、これまでの経験では、企業内労組は、紛争を「予防」するよりも、管理側と共に紛争の表面化を「抑止」する事例をずっと多く見て来たように思います。で、コミュニティ・ユニオンの類の組合が個別事業所内の紛争を「予防」する、というのはないんじゃないでしょうか。組合の意義は、問題を的確に表面化し、解決する点にある、それは、管理側にはできないことであるから、という気がします。
で、「予防」は、本来は、管理側が対策をとるべきことで、そういう意味では、「労働教育」は、労働者よりも、管理側に徹底しなければならないのだろうと思います。管理職にまともな管理責任の意識がない限り、労使紛争の予防はできないのでは?

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