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« 時価主義会計原則は修正せよ サルコジ流 | トップページ | 10月1日の欧州委員会議 »

2008年10月 2日 (木)

規制改革会議のタクシー公開討論

去る9月29日に、規制改革会議が国土交通省とタクシー会社(エムケイ)、関係労働組合を呼んで公開討論を開いていました。

http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/minutes/wg/2008/0929/agenda.html

労働条件の維持と事業規制の是非という興味深い論点がどう議論されたのか、現時点では議事録は公開されておらず、4者の提出した資料がアップされているだけですが、それだけでも大変おもしろいものがあります。

まず、規制改革会議ですが、

・新たな雇用の創出に加え、待ち時間の短縮、多様な運賃・サービスの導入等消費者利益の向上に貢献してきたという規制緩和のメリットを考慮すべきではないか。
・事故率低下への対応は、参入・増車を抑制するのではなく、悪質な事故を発生させた運転手や会社に対する行為規制で対応すべきではないか。
・タクシー運転手の労働条件改善は、基本的にはタクシー事業者自身が経営課題として取り組むべき課題である。また、より広い社会政策を通じて実現されるべきものであり、タクシー事業のみの問題として対処すべきではないのではないか。
・規制緩和により顧客獲得を進め経営改善を実現したタクシー事業者の実例もある中で、参入・増車抑制は、経営努力をしてこなかった事業者を利する一方で、優れた事業者の創意工夫や新規参入事業者の事業拡大を不当に制約する恐れがある。運転手の適正な労働条件の確保や積極的な経営改善には、むしろ一層の規制緩和を検討すべきではないか。

参入・増車抑制措置が、法律や政令ではなく、一府省内の手続きによって発出可能な通達によって措置されたことは、極めて不適切であり、速やかに見直されるべきではないか

と、前に本ブログで紹介したような議論を展開しています。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_fe70.html

そこでも書きましたが、あながち全く間違ったことを言ってるわけでもないように思われます。

これに対する国土交通省の反論です。まず現状認識、

○タクシー運転者の賃金等の労働条件は、長期的に悪化傾向にあり、他産業に比べて、極めて低い水準となっている。
○賃金の低下は、収入を確保するための長時間労働等を通じて、安全性やサービスの低下の要因となる。
○低賃金の結果、若年者がタクシーの運転者として家計を支えることが困難になっており、若年労働者の参入が乏しくなるなど運転者の平均年齢は年々上昇している。このため、将来における安定的なサービスの維持や持続的な事業運営に不安が生じる状況となっている。

○他方、現実に行われている運賃競争においては、必ずしも全体としての需要拡大は達成されておらず、低運賃による他社との旅客の奪い合いや運転者の賃金の低下がもたらされ、さらにそれに対抗するための運賃設定が行われることにより事態が深刻化している事例が多い。こうした競争の結果、その地域全体として、適切な賃金の確保等健全な経営を維持するための収入の確保が困難になっている場合や、そのために必要な運賃改定を見送らざるを得ない場合も多い。

○また、事業所外労働が中心であるというタクシーの特性から、タクシー事業においては、多くの場合、歩合制賃金がとられている。さらに、タクシー事業においては、その費用の70%以上が人件費であり、費用削減は人件費削減という形をとりやすい。その結果、供給の拡大や運賃引き下げに伴うリスクを相当程度運転者が負わされ、供給過剰や過度の運賃競争を促し、さらにそれが労働条件の低下等につながるという現象が生じている。

そこで、

○供給過剰の状態にある地域においては、一層の供給の増加により更なる労働条件の悪化など問題の深刻化を防止するため、供給の増加、すなわち新規参入や増車を、必要な限度で、かつ、有効に抑制する必要がある。
○また、既に相当の供給過剰により労働条件の悪化が深刻になっている地域にあっては、状況の悪化を防止するのみならず、一定の改善を図る必要があり、積極的な減車など供給過剰の解消のための方策を講じることが必要である。

また、

○過度な運賃競争が生じている地域にあっては、更なる労働条件の悪化や事業の収益基盤の悪化を防止することが必要である。このため、適切な運賃制度の構築により、過度な運賃競争の解消を図り、健全な経営を行うことのできる環境を整えることが必要である。また、一般的に、その予防のための措置も検討する必要がある。
○運賃競争の著しい地域においては、労働条件の悪化やそれを通じた安全性・サービスの低下が生じないよう、違法・不適切な事業者を排除するための方策も必要である

全自交労連の資料は数字ばかりなので、何を喋ったのかは議事録を見ないと分かりませんが、賃金・労働条件について論じているはずです。

タクシー会社代表としてエムケイの青木さんを連れてきたところがいかにも規制改革会議ですが、その資料を見ても、賃金や労働条件に触れたところはありません。

賃金・労働条件の悪化に対して、労働規制ではなく事業規制で対応することがどこまで認められるかという問題意識に直ちに対応する議論がなされたのかどうかはよく分かりませんが、規制緩和路線が見直しの機運にある時期であるだけに、そう言う議論をきちんとしておく必要は間違いなく高いはずだと思います。

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コメント

枝葉末節を肯定しても、枝葉末節である
http://blogs.yahoo.co.jp/curonikeru/15640952.html
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hamachanがこのコメントを公開するか、試してみよう。

>タクシー運転手の労働条件改善は、基本的にはタクシー事業者自身が経営課題として取り組むべき課題である。また、より広い社会政策を通じて実現されるべきものであり、タクシー事業のみの問題として対処すべきではないのではないか。

このくだり。
社会的問題の解決のための事業規制の必要性・有用性を認識すべきかと思います。
規制緩和イケイケドンドン前の政策には社会的問題が起きないように含意されていたものであると思います。

それと、規制緩和においては事前統制(参入規制)から事後統制への変化がワンセットになっていますが、

・事後統制(事後規制)は事前統制よりも行政側のコストがかかること、

>事故率低下への対応は、参入・増車を抑制するのではなく、悪質な事故を発生させた運転手や会社に対する行為規制で対応すべきではないか。

・人命が失われてからではいくら事業者への罰則を強化しても取り戻せないよ、

という反論を是非したいですね。

わたしは、必ずしも規制改革会議の言ってることに賛成しているわけではありません。むしろ、タクシー運転手の実態からすれば、国土交通省の言い分の方が遙かに現実に対応しているだろうと思っています。ただ、社会的規制まで撤廃せよという言い分には何の理もありませんが、規制は社会的規制によってやるべきで事業規制で社会的目的までやるのはどうかという言い分にはそれなりの理があるのは確かだろうと思うということです。

おそらく、事業そのものの性質が、事業規制によらなければ賃金・労働条件の維持が困難であるような業種業態というのは確かにあるのだろうとは思います。タクシー業界というのはその典型的な一つであるのも確かでしょう。ただ、それで事業への参入を制限することを認めてしまっていいのかというのは、なかなか難しいところだろうと思うわけです。

正直言って、わたし自身もそう簡単にすぱっと答えが出せないところだと感じています。上記エントリーが各論並記的になっているのもそのためです。

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