力士の解雇訴訟
わたしの知る限り、いままで大相撲力士の解雇についてその無効を争った訴訟はなかったと思いますが、ここにきて、労働法学から見て大変興味深い訴訟が起こされ、また近く起こされることになりそうです。
http://www.asahi.com/sports/update/0911/TKY200809110214.html
>大麻取締法違反(所持)容疑で逮捕され、8日に処分保留で釈放された大相撲の元幕内力士若ノ鵬(20)が11日、日本相撲協会から解雇されたことを不服とし、力士としての地位確認を求める訴訟を東京地裁に起こした。あわせて同趣旨の仮処分命令も申し立てた。
記者会見した元若ノ鵬は「相撲が取りたい。裁判をやるのはよくないが、相撲に戻るためにやる」と話した。同席した弁護士によると、大麻の所持や吸引など事実関係は争わず、協会の過去の処分事例に照らして解雇は重すぎると主張する方針だ。
http://www.asahi.com/national/update/0912/TKY200809120229.html
>大麻問題で日本相撲協会から解雇処分を受けた元露鵬(28)、元白露山(26)が12日、東京都内で処分後、初めて記者会見した。2人は改めて大麻使用を否定。大麻成分が検出された尿検査も「認めない」として、処分への不満を明らかにした。
>2人の代理人の弁護士は「協会相手に解雇無効の訴訟を起こさざるを得ないかもしれない。来週には態度を決めたい」とした。
まあ、まずそもそも「解雇」という用語が使われていますが、大相撲の力士は解雇権濫用法理が適用される「労働者」なのかという論点があります。これについては、本ブログでいくつか書いたこともあります。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_c64e.html(力士の労働者性)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_fd03.html(時津風親方の労働者性)
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/10/post_bbf0.html(幕下以下は労働者か?)
仮に雇用契約ではないとしても、雇用類似の長期継続的労務提供契約であることは間違いないわけで、その一方的解除が、大麻を持っていたこととか、ましてやおしっこから反応が出たことを理由として正当化しうるのか、というのは情緒的なマスコミの報道が通り過ぎた後になれば、なかなか興味深い論点となるはずです。
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コメント
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私は朝青龍関のファンで、昨年の処分以降、相撲協会における力士の身分がいろいろと気になるようになりました。
それで、寄附行為規定や同細則、附属規定などを調べてみましたが、処分の理由になった「無断帰国」に関する条項などがないのです。協会に電話で尋ねたところ、「相撲部屋を通じて配布している力士心得のようなものに書いてある」とのことでした。
力士は、服装や髪型にも厳しいルールがありますが、これらも寄附行為細則にはありません。それで私は「力士心得」が就業規則に該当するのか一時は勘違いしていました。
こういう私の疑問は、力士が労働者であり、相撲協会と力士は雇用・被雇用の関係にあるものと決め付けていたことからくるものです。実際は、雇用関係から法的には不安定な面があるのですね。しかし、プロ野球の選手すら労働者なのだし、力士は野球選手以上にCM出演なども協会の許可をとらなくてはならないと聞いています。
こういう労働者に、住まいや服装などまで縛るルールを強制することができるのでしょうか?
相撲ファンとして、力士の人権感覚が非常に気になります。
投稿: ふじこ丸 | 2008年10月17日 (金) 15時38分