おまえが若者を語るな!
後藤和智さんから、『おまえが若者を語るな!』を贈呈いただきました。ありがとうございます。
http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=200711000401
>もう世代論などいらない!「この世代はこんな環境で育ったからこうなる」といった言説が飽きることなく繰り返され、偏見と差別しか生まずに消えていった……。二〇代の若手評論家が、不毛な論者・論壇を破壊する!
というわけで、内容は次の通りです。
>まえがき―世代論を煽ってきた論者に退場を勧告する!
第一章 「転向」した若者論者―若者論「で」一〇年が失われた
若者論「で」失われた一〇年/二つの若者論バブル/若者叩きに「転向」した論者たち/少年犯罪は増えていない/酒鬼薔薇事件から始まる「運動」/貫いていた社会を変える意志/「転向」する宮台真司―「脱社会的存在」を生む/「脱社会的存在」に囚われる/「自分への帰依」を説く「社会学者」/俗論に染まっていく/「変貌」する香山リカ/「解離」とインターネットを「発見」する/ポイント・オブ・ノー・リターンに立つ「精神化医」/俗流若者論は政治まで語る
ベストセラーを斬る! 隠された若者論① 養老孟司『バカの壁』
第二章 ナショナリズム論を煽った論者―若者を食い物にする
若者を「敵」にした者たち/俗流ナショナリズム論の序曲―「ぷちナショナリズム症候群」/ナショナリズム論の図式が変貌した/押しつけられた「敗戦責任」/ナショナリズムが世代問題にされる/ナショナリズム論が若者バッシングを強化する/レイシズムに堕ちるナショナリズム批判/ナショナリズム論より残酷な「格差」論/「格差」論が権力と一緒に若者を追い詰める/いい加減な「分析」はやめろ!/若者論がナショナリズム論を殺した!
ベストセラーを斬る! 隠された若者論② 藤原正彦『国家の品格』
第三章 サブカルを使い捨てにした論者―インターネット論を食い物にする
疑似問題を再生産するインターネット論/「動物化するポストモダン」論は若者論でしかない/反証ができない不思議な議論/「環境論的分析」もただの世代論だ/意図的に作品が選ばれる/「動ポモ」論が与えた悪影響/ポスト宮台の論客/社会的背景を隠す宿命論/議論は島宇宙に閉じていく/「私たち語り」が好きな「若手」論客/世代論は害悪でしかない/「未来」すら偽証される/内輪だけで盛り上がって何になる?
ベストセラーを斬る! 隠された若者論③ 梅田望夫『ウェブ進化論』
第四章 教育を実験道具にした論者―子供の人生を食い物にする
権力と癒着する俗流若者論/「ゆとり教育世代」への批判は的外れだ/教育社会学への誹謗が繰り返される/わら人形に向かって叫ぶ男/妄想の「成熟社会」に寄りかかる教育論/いじめを理解していない「教育者」/周回遅れのメディア悪影響論を叫ぶ/権力者になった若者論者がいる/発言責任を問わない構造を免罪するな!
ベストセラーを斬る! 隠された若者論④ 坂東眞理子『女性の品格』
第五章 世代論を「清算」する―ニヒリズムを打ち破る
「脱『九〇年代』の思想」を目指せ!/若者はモンスターにされた/データを無視する「レジーム先行型」議論/ニヒリズムとシニシズムが蔓延する/「ポストモダン保守」化する自称リベラルたち/さらに下の世代の論壇は「釣り」化する/繰り返される不毛な若者論/他人の心を世代で片付けるな!/世代論はもういらない/若手社会学者の台頭に学べ!/オールド・リベラルよ、奮起せよ!/「ゼロ年代のアカデミズム」よりも大事なものがある/最後に―「世代論」への決別宣言
あとがき―語り継ぐべき悲劇
わたしとしてはやはり、宮台真司のいい加減な議論を叩きのめしているところが一番興味深かったですね。
わたしもこのブログの
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_b921.html(非社会性?)
で、宮台氏がイギリスやEUの社会政策で使われる「社会的排除」ということばを、自分の独自な「非社会性」だの「脱社会化」だのといった全く異なる概念に勝手に引きつけてしまっていることを批判しましたが、
>はあ?非社会性?なんでそういう俗流社会学ふうの方向に行っちゃうの?
どうも、「エクスクルージョン」とか「インクルージョン」という言葉を、素直に社会政策をやってる人間のように解釈するんじゃなくて、気の利いた風な言葉をちりばめた今様迷宮社会学風に解釈してしまっているからじゃないかと思われるんですが。
これこそまさに、「社会」を問題にすべき地点で「個人」を問題にするという、一番駄目な議論そのものじゃないですかね。
もちろん、宮台真司氏という社会政策とは何の関係もない社会学者がそういうことをお喋りになること自体は全くご自由ではありますが、この文章の悪質さは、イギリスやEUの(そういう俗流社会学とは何の関係もない)社会政策としてのエクスクルージョン、インクルージョンという議論を、そういうやくたいもない議論の一種であるかのように見せてしまうという点にあると思います。
ヨーロッパで社会政策の文脈で論じられている社会的排除とは、いかなる意味でも「社会システムが前提とする社会性を社会成員が持たないという非社会的な事態」などとは関係ありませんから。
本書で後藤さんが苛立っているのも、本質的には同じことだと思います。
「社会」学者でありながら、「社会」が眼中にない人なんですね。
同じ問題は、宮台氏の弟子筋の人々の言い方にも当てはまるでしょう。本書の129ページに引用されている酒井信氏のこの言い方、
>近年盛んな若者論や格差論議は、総じて日本株式会社への賃上げ闘争の域を出ないものが多い。
ほほお、賃上げ闘争はそんなにくだらないですか。自分の脳内で、観念をもてあそんでいるよりも。
第4章の寺脇研批判も見事です。そういえば、寺脇研氏も「脱力官僚」、おっと「脱藩官僚」のお一人でしたね。
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酒井信氏は、福田和也氏の教え子(慶應SFC出身)であって、
「宮台氏の弟子筋の人々」ではないはずです。
投稿: oytc | 2008年9月12日 (金) 00時12分
多分、似たようなものという認識。一緒くたなんだなあ。関わりが少ない以上、当然。
投稿: うん | 2008年9月12日 (金) 12時02分