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2008年8月28日 (木)

無法な使用者には法で立ち向かえ

リクルートのワークスでお世話になった荻野進介さんが日経BPオンラインでずっと書評をされていますが、今日の書評は笹山尚人著『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)で、タイトルが「無法な使用者には法で立ち向かえ」。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20080827/168959/

冒頭、最近異常に売れている『蟹工船』ブームに対して、こういうきつい一発から、

>面妖なこともあるものだ。一時期、プロレタリア作家、小林多喜二の代表作、『蟹工船』が、20代の、いわゆるワーキングプアの若者を中心に読まれていたという。

 ソビエト領であるカムチャッカの海に侵入して蟹を取り、加工して缶詰にするボロ船を舞台に、人間的な権利も尊厳も根こそぎ奪われ、命を落とすほどの過酷な労働を強いられる乗組員の姿が描かれる。その姿が、低賃金で働かされいつ解雇されるか分からない、自分たちの姿と重なる、というのだ。何を寝ぼけたことを言っているのだろう。

 この作品の発表は1929年。今から約80年前のことだが、過酷な労働状況という点は認めるにしても、当時と今とでは決定的な違いがある。労働者の保護立法が戦前と戦後では竹槍と鉄砲ほどの差があった。当時は労働基準法も最低賃金法もなかった。組合の合法化を目指した労働組合法制定の試みは関係者の粘り強い努力にもかかわらず、1931年に頓挫。非合法下の共産党に入党した多喜二が拷問死させられたのがその2年後だった。

 過去の、それもフィクションに現実を投影する暇があったら、いざとなれば、自分たちの身を守る最大の武器となる労働法規をしっかり学んでみたらどうだろう、とでも言いたくなる。

そのためにこれを読め!ということで、本書が紹介されるという段取りです。

>手ごろなテキストがある。こむずかしい理屈は前面に出さず、法律が無視され労働者の人格や生活がないがしろにされている職場の実態を紹介する一方、法律を武器に、そうした職場を放置している企業と戦う方法を指南する本書がそれである。

 取り上げられている事例は弁護士である著者が何らかの形で解決に関わったものばかりだ。判例をなぞっただけの無味乾燥な記述は皆無で、ある意味、弱い者に味方する正義の弁護士が快刀乱麻を断つノンフィクションのようにも読める。

本書に出てくる事例がなかなかすさまじい。

>本書で紹介される、あるデザイン会社でのいじめ、パワハラはすさまじい。いや、それ以前に、連日にわたる徹夜、長時間労働が常態化し、会社は社員一人ひとりに職場で寝泊りするための寝袋を支給していた。残業代はもちろんゼロである。しかも、社員は会社が指定した住居に相部屋で住まわされ、おまけに賭け麻雀にも強制的に参加させられていた。

こんな職場だから、上司による部下への暴力も日常茶飯事。そんななか事件が起きた。長時間労働による疲労でうたた寝していた社員に対し、上司の一人が「なに寝てるんだよ!」という怒声とともにいきなり殴りかかった。その男性はあごに穴が開くほどの重症を負ったが、謝罪もまったくなく、「病院にも警察にも行くなよ」と念を押されたという。

 著者はこの事件に民事と刑事の双方で対処し、暴力をふるった上司から、巨額の謝罪・賠償金を支払ってもらうことで和解が成立した。

ほかにもいろいろ紹介していますが、荻野さんの一番にいいたいことは、ここだと思います。

>本書を読みながら思ったことがある。自分が企業に雇用され、働くということが法的にどんな意味があるのか、何をすると罰せられて、逆にどんな権利が自分にあるのか、わかっていない社会人が多すぎるのではないか。もちろんこれは、自戒を込めて、の言葉である。

>一般市民のリーガルセンス、それも労働法の基礎知識を社会に出る前にしっかり教える必要がある。「人件費抑制を目的とした大企業の政策と、それを後押ししてきた政府の無策に、現代の労働者が困窮にあえぐ根本原因がある」といった、いささか図式的な見解は適当に読み流すにしても、最初に法律ありき、ではなく、あくまで現場の事例から議論を積み上げていく本書の価値は揺らぐものではない。

ということで、話は労働教育の必要性という毎度おなじみののテーマに戻ってくるのでありました。

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