フォト
2023年12月
          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31            
無料ブログはココログ

« EUにおける年齢差別禁止の動向 | トップページ | EU反差別指令案やっぱり全部やる »

2008年6月19日 (木)

非社会性?

宮台真司氏が「公共機関のために準備中の文章」の中で、イギリスやEUの社会的排除/社会的包摂について論じているのですが、

http://www.miyadai.com/index.php?itemid=652

イギリスやEUの政策動向については、おおむね正しい情報を得ていると見えて、変なことは書いていないのですが、(たとえば:

>我が国では「自立」できない若者への「自立支援」という問題の立て方が専らだが、「ニート」という言葉を生み出した英国では、「個人の不全」personal imperfectionの問題より「社会の不全」social imperfectionの問題として議論され、各国の政策に大きな影響を与えてきた。

>かくして報告書は、悪循環を解消するには社会的包摂social inclusionの回復こそが必要だと結論づける。一口でいえば、「個人に問題が生じているので政治や行政が個人を支援せよ」ではなく、「個人に問題が生じているのは、社会的包摂が失われているのが原因だから、社会が包摂性を回復できるように政治や行政が支援せよ」という図式なのである。

>日本でニート概念が誤解され、「社会の問題」というより「若者の問題」として理解された背景に、二つの要因を指摘できよう。第一は、日本においてはニート問題が議論される直前まで、フリーター問題がいわば「怠業批判」として議論されていたこと。

その宮台氏が、紹介を超えて自分の言葉で語り始めると、こういうあらぬ方向に漂い出します。

>我が国でも若者が社会性を失う現象--非社会性--が名指され、社会問題になっている。

>英国の社会的排除局が着目した「ニート」も含めて、「従来の社会システムが明に暗に前提としてきた社会性を、社会成員が持っていない事態」を、「非社会性」non-socialityという言葉で指し示すことにしよう。加えて、社会成員がそうした状態に立ちいたる過程を、「脱社会化」de-socializationという言葉で指し示すことにしよう。

はあ?非社会性?なんでそういう俗流社会学ふうの方向に行っちゃうの?

どうも、「エクスクルージョン」とか「インクルージョン」という言葉を、素直に社会政策をやってる人間のように解釈するんじゃなくて、気の利いた風な言葉をちりばめた今様迷宮社会学風に解釈してしまっているからじゃないかと思われるんですが。

これこそまさに、「社会」を問題にすべき地点で「個人」を問題にするという、一番駄目な議論そのものじゃないですかね。

もちろん、宮台真司氏という社会政策とは何の関係もない社会学者がそういうことをお喋りになること自体は全くご自由ではありますが、この文章の悪質さは、イギリスやEUの(そういう俗流社会学とは何の関係もない)社会政策としてのエクスクルージョン、インクルージョンという議論を、そういうやくたいもない議論の一種であるかのように見せてしまうという点にあると思います。

ヨーロッパで社会政策の文脈で論じられている社会的排除とは、いかなる意味でも「社会システムが前提とする社会性を社会成員が持たないという非社会的な事態」などとは関係ありませんから。

やや詳しめの紹介は:

http://homepage3.nifty.com/hamachan/exclusion.html(EUにおける貧困と社会的排除への取組み )

この中で引用している社会政策グリーンペーパーのこの一節が簡にして要を得ています。

>貧困は昔からある現象であるが、ここ15年間、社会的排除という構造的問題が注目されている、問題は単に社会の上層と下層の不均等にあるのではなく、社会の中に居場所のある者と社会からのけ者にされてしまった者との間にあるのだ。社会的排除は単に所得が不十分だということではない。職業生活への参加ということだけでもない。それは住宅や教育、医療、サービスへのアクセスといった分野で顕著である。単なる不平等ではなく、分断された社会という危険を示唆しているのである。排除された者の怨恨は暴力や麻薬、ひいては人種差別主義や政治的過激派の温床となる。所得維持はもはや社会政策の唯一の目的ではない。社会政策は人々が社会の中に居場所を見出せるよう援助するというもっと野心的な目的を追求しなければならない。その主たるルートは(もちろんただ一つのルートではないが)報酬のある仕事である。そしてそれがゆえに雇用政策と社会政策はもっと密接に連携しなければならない

« EUにおける年齢差別禁止の動向 | トップページ | EU反差別指令案やっぱり全部やる »

コメント

何か微妙
http://d.hatena.ne.jp/takemita/20080613/p1

>排除された者の怨恨は暴力や麻薬、ひいては人種差別主義や政治的過激派の温床となる。

いずれにしても、現状における問題の表れ方の違いはある

>何がテロリストだ。派遣は犯罪者予備軍の巣窟か。不安定就労問題の解決の目的は犯罪防止なのか。
http://d.hatena.ne.jp/takemita/20080613/p1

もうずいぶん昔になりますが、大学で社会政策の講義に出ていたとき、そもそも社会政策の目的は社会秩序の維持と習ったと記憶しています。
社会政策グリーンペーパーは当たり前のことを言っているような気がします。
まあ、あまり実益のない議論かと思いますが。

>>ヨーロッパで社会政策の文脈で論じられている社会的排除とは、いかなる意味でも「社会システムが前提とする社会性を社会成員が持たないという非社会的な事態」などとは関係ありませんから。

もとの宮台氏の文章が曲解されているように思われます。元の文章をどう読んでも「社会的排除」=「非社会性」としているようには読めませんでしたが。

だったら、非社会性の話をしたいのであれば社会的排除の話をもっともらしく持ち出す必要はないし、社会的排除の説明をしたいのであれば、そのあとの非社会性の話は全部余計です。
関係ない話をいかにも関係あるかの如く一連の話として騙っているからおかしいと云ってるのであってね。

別に宮台氏の肩を持つ必然性もないんですが…
「非社会性の話をしたい」わけでも「社会的排除の説明をしたい」わけでもなくて(後者はわたしのようなわかってない読者向けの余計な要素と思われる),特に秋葉原事件の文脈で「非社会性」が「排除」の最初の具体的原因となっているケースについて,包摂の実現と非社会性との関係を議論しようとしてるんじゃないでしょうか。
それが成功してないよ,ということなら,そうかなと思う部分もありますが,全部余計とまでいうこともなさそうに思います。

英国ニートと日本ニートの違いでしょう。
そもそも日本でニート言い出したのは…。

「社会的排除」というような表現は、社会から落ちこぼれる人や、反社会的な人への、社会病理への対策のようなイメージに結びつきやすい気はします。

でも、フル・エンプロイメント、フル・エンゲイジメント、インクルーシブ・ソサエティというような、「排除されていない」状況、というのは、ヨーロッパではもっと普通の光景の中に見てとれると思います。

ぶらり庵がヨーロッパで、なるほど、これがインクルーシブな社会なんだと思ったのは、たとえば、スーパーマーケットで、レジ担当者が椅子に座って、自分の作業しやすい場所に、商品がコンベアで運ばれて来るのを待ってレジを打っている、とか、バスの運転手に普通に「おばさん」がいること、とかでしたね。これなら、障害者でも働きやすいだろうし、中高年女性にパート以外の仕事はない、というのでもないだろう、と。

でも、座ってのレジ、バスの運転手のおばさん、は、別に社会病理対策でも何でもなく、ヨーロッパでは(もしかしたら、評判の悪いアメリカでさえ)普通に見かける光景だということは、行った事のある方はごぞんじと思います。でも、これって、日本にはない光景です。

高齢者雇用対策だって、日本では、定年延長という制度以上の問題ではないように思えますが、ヨーロッパでは、制度だけでなく、職場環境を、高齢者が実際に働きやすいようにする、という、つまり、座ってのレジ打ち、的なところまで、高齢者雇用対策としている、と聞いています。特にITの発達している北欧で。病理対策ではなく、通常の生活・労働環境の中で、誰もが活動しやすいようにする、こういった政策・対策のあり方が「インクルージョン」だと、ぶらり庵は思うのですが。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 非社会性?:

« EUにおける年齢差別禁止の動向 | トップページ | EU反差別指令案やっぱり全部やる »