湯浅誠『反貧困』をめぐって
岩波新書から出た湯浅誠氏の『反貧困』は、第1部が貧困の現場からの報告、第2部が湯浅氏らの反貧困運動のコンパクトな記録になっていて、この問題に関心のある人にとっては手頃で便利な本です。
先日、若者政策研究会の場で初めてお目にかかりました。
http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/
編集部の人のいささか主観的な紹介:
>本書の校了間際の土曜日、岩波書店の目の前の中学校で、「反貧困フェスタ2008」が開催されました。講演会や医療相談のほか、音楽ライブに屋台に映画上映にと、さながら文化祭のようでした。この社会には貧困問題が存在するのだということを訴えようと、さまざまな団体から成る「反貧困ネットワーク」が呼びかけて実施されたもので、1600人が参加したそうです。本書の著者の湯浅誠さんもまた、このフェスタの「裏方」の一人として走り回っていました。
湯浅さんは、野宿者(ホームレス)の支援活動を行うなかで、すさまじい勢いで生活困窮者が増えていることに危機感を覚え、日本の貧困問題の拡がりについて警鐘を鳴らしてきました。本書は、そうした活動経験を生かしながら、どうして貧困が拡がってきているのか、そのことでどんな問題が起きているのかを考えます。そのうえで、人々が貧困問題にどのように立ち向かっているのか、「反貧困」の現場をレポートします。誰もが人間らしく生きることのできる社会へ向けて、その希望を語る熱い一冊です。
理論編としての岩田正美『現代の貧困』と読み合わせるといいと思います。こちらは、近年欧州で広がっている「社会的排除」という問題意識を踏まえながら書かれていて、湯浅氏の指摘する「五重の排除」といった現象と響き合うものが感じられるでしょう。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480063625/
同書については本ブログでコメントしています。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_dda2.html
私は「現代ネオサヨ知識人における観念論の過剰とマテリアリズムの欠乏症候群」を読み取りましたが。
湯浅氏の著書を読み物として読むと、福祉事務所に何回行っても追い返されていた人が、湯浅氏がついていくとすぐに生活保護の手続がされるなどというところで、ざまあみろ悪の権化の福祉役人め!と、まさに勧善懲悪的快哉を叫びたくなるところですが、実はそう単純明快な話ではないということを理解するためには、もう一冊、埼玉で生活保護のケースワーカーをされていた大山典宏氏の「生活保護vsワーキングプア」が必読です。
http://www.php.co.jp/bookstore/detail.php?isbn=978-4-569-69713-0
一旦はまりこむとなかなか抜けられないような生活保護だから、よほどの状況でなければなかなかいれないようにしようとする、そのことが却って、ますます一旦はいったらなかなか抜けられないという悪循環を大きくする。これは結局、現在の生活保護制度の在り方そのものをマクロに変えていかないとなかなか解決しがたい問題なのだろうと思うのです。
湯浅氏の活動にケチを付けようというわけではないのですが、また実際、貧困の縁に立たされている人々からすれば、まさに鞍馬天狗であるのも確かなのですが。
このあたりについては、いままでこのブログでもかなり書いてきましたし、まとめたものとしては、
http://homepage3.nifty.com/hamachan/seroukakusa.html
などがあります。
最後に、いささか余談にわたりますが、39頁以下で、社会保険も公的扶助もセーフティネットとして穴があいてしまっている中で、「刑務所が第4のセーフティネットになってしまっている」という興味深い指摘があります。正確には、連合の小島茂氏の指摘の引用ですが。
どうしても食えなくなれば、こそ泥をして臭い飯を食わせて貰うのが、一番手っ取り早い福祉受給の道であるわけです。その例が幾つも挙がっているのですが、それで思い出したこと。
その昔、十年以上も前、私が欧州に勤務していたころ、先進世界ではアメリカと日本の失業率が低く、ヨーロッパの失業率が高かったころのこと、「アメリカは失業率が低いと偉そうにいうが、実はまともに働いていない人間の割合は同じだ、ただ、かれらを失業者と呼ばずに刑務所にぶち込んで、税金で面倒見ているだけだ。日本は失業率が低いと自慢するが、実はまともに働いていない人間の割合は同じだ。ただ、彼らを企業に雇わせて、補助金をぶち込んで面倒見ているだけだ。我々は素直に彼らを失業者として税金で面倒を見ているんだ」
それからしばらく、日本では護送船団方式だから日本はダメなんだ、役に立たない奴らは全部叩き落として後はセーフティネットで面倒見ろ!という竹中平蔵氏の議論が流行しておりましたな。どういうセーフティネットにしてくれるのかと思っていたのですが、結局アメリカ方式で刑務所がラストリゾートだったのでしょうか。
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