経済同友会の消費活性化提言
経済同友会が「消費活性化が経済成長を促す」という提言を発表しています。
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2008/pdf/080522a.pdf
興味深いのは、国民の不安を払拭することが消費活性化につながるとし、その2つの柱の一つとして「働く個人の不安払拭に向けて企業がすべきこと」を挙げていることです。
消費が低迷する原因は政府の無策にあるだけではなく、企業の労働に関する行動にもあったということを率直に反省しているといっていいのでしょうか。
中身を見ていきましょう。
>本提言では、働く個人の中でもとりわけ若年層の雇用環境、所得環境に着眼し、企業がすべきことを提示する。これには、本来、若年層は家族形成等により活発な消費を行う年齢層と考えられるが、その一方で、現在の若年層は、雇用環境の変化に加え、少子高齢化による税・社会保険料の増加の影響も相俟って、終身雇用制度、年功序列の賃金体系の下で所得を得ていた世代に比べ賃金が安定的に拡大しにくい状況にあることを踏まえたという背景がある。
今後、人口減少により労働市場が逼迫する中で、企業が行うべき若年層に対する処遇のあり方を通し、若年層が所得について長期的な見通しを立てられるような労働市場の形成を促すこと、加えて、少子化対策として、企業による仕事と育児の両立支援について提示する。
では具体的に何をどうするというのか。
>企業がすべきことの第一は、人口減少社会において、競争力を向上させていくために人材にも経営資源を適切に充当することである。今後は優秀な人材に対し、能力、さらには成果に応じた報酬を払えなければ、企業は競争力を失うことになる。
まあ要するに、労働者にも適切に配分していかなくちゃというマクロ経済的にごく当然の話。
>第二は、若年層が長期的な所得の見通しを立てられる労働市場の形成を企業が促すことである。
おっと、経済同友会がそれを言いましたか!という感じです。まさにそれが重要なんですよ。ただ、この「長期的」という形容詞がそのすぐ後に必ずしもつながっていかないような気がします。
>そのためには、先ずは、企業が求める人材像と報酬を労働市場に明確に示すことが必要であるが、人材要件の提示にあたっては、所謂「ジョブ・ディスクリプション」で示すような職務に求められる専門知識、能力やスキル、成果のみならず、企業が掲げる理念への共感、職務を通して社会に貢献しようとする姿勢も含まれるだろう。
これにより、労働力の供給側である個人は、自身が労働市場を通じ雇用を確保し続けるために、どのような能力やスキルを磨き、成果を出さなければならないかがわかる。こうした労働市場の形成は、個人が所得獲得能力を培い、長期的な所得の見通しが立てられるようになること、労働市場の流動性を高めることに繋がる。
文脈が入り組んでいるんですが、「ジョブ・ディスクリプション」のような、その時その時の職務内容でもってものごとを決めていくのではなくて、もっと長期的な視野(ここでは出てきませんが「キャリア」とでも言うべきでしょうか)でのスキル形成を考えろと言っているわけで、筋は通っているんですが、「のみならず」「も」という助詞の使い方になにがしかジョブ志向の形跡が見受けられたりして、しかも最後のところで「労働市場の流動性」が出てきたり、なかなか労務管理思想上興味深いところです。
>第三は、雇用形態に関わらない処遇を行うことである。能力、さらには成果により価格(報酬)を決める労働市場の形成を促すには、正規、非正規といった雇用形態の違いによる処遇の差を縮小していくことが必要である。
いや、だから同一労働同一賃金原則ということを言うつもりであるならば、「能力、さらには成果」などといった主観的要素ではなく、客観的な職務内容自体に値札が付く労働市場を形成するんだと主張すべきなんですが、そうでもないわけで、その辺、非正規も職能的処遇でやっていくんだそれが日本的均等待遇なんだ!という割り切りをしているわけでもないところが、この一見すっぱりとものを言ってるようで実はその筋の人が見るとうーむという提言なんですね。
>第四は、仕事と育児の両立支援である。子育て期間中の社員の支援策には、時差出勤制度や事業所内への保育施設の設置等があるが、こうした支援も正規、非正規といった雇用形態の区別を設けず実施していくべきである。少子化は、消費を下押しする要因であり、少子化対策の観点からも個人のワーク・ライフ・バランスの推進が求められる。
これはわりとすっきりいえますね。
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