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丸尾拓養氏の「中間管理職」論

日経BIZPLUS連載の丸尾拓養氏「法的視点から考える人事の現場の問題点」、今回は中間管理職がテーマです。

http://bizplus.nikkei.co.jp/genre/jinji/rensai/maruo2.cfm?p=1

例のマクド裁判が話の糸口で、

>この点、長時間労働における健康問題を強調する向きもあります。しかし、長時間労働を非難するだけでは、個別問題に収束してしまいます。個々の事案としては「悲惨」とも評される長時間労働の職場は存在するかもしれません。しかし、これは一般化するまでには至っていません。統計でも、1週60時間以上働く労働者は、30歳代男性で4分の1程度にとどまっています。

という御意見にはいささか賛同しかねるところもありますが、そこは本論ではありません。丸尾氏も経営法曹ですから、「管理監督者」がいかなるものであり、いかなるものでないかはちゃんと判っています。その上で、

>企業の中には、管理職の範囲を見直して、労働基準法の「管理監督者」に明確にあてはまるものだけを管理職とする動きも見られます。そして、「管理監督者」から外れる「前」管理職に対し、企画業務型裁量労働制などの割増賃金を支払わない制度の適用を検討している例もあります。

という動きに対して疑問を呈しているのです。

ここんところ判りますか、特にマクドの記事で「管理職」「管理職」と書いていた方々。丸尾氏がいいたいのは、「管理監督者」じゃないからといって、人事処遇上の「管理職」じゃなくしてしまうのは、それは違うんじゃないか、ということなのです。両概念をきちんと区別した上で、以下をお読みください。

>たしかに、労働基準法の「管理監督者」の法的効果は、同法の労働時間に関する一部条文の適用除外(エグゼンプション)であり、特に時間外及び休日労働の割増賃金の支払いを義務付ける同法37条の適用除外は大きな意味があります。しかし、企業が、法律上の「管理監督者」にこだわらず、「管理職」という語を用いてきたことには、別の面があるように思われます。

 多くの企業では、管理職になると労働組合員から離れ、経営側として取り扱われます。出席を求められる会議の種類も大きく異なります。机の向きが変わることも、労働者本人にとってはプライドをくすぐる事項です。

 少なくとも、中間管理職という存在は、経営者からも労働者からも、「経営の一端」であることの共通認識はあるでしょう。これをもって「経営と一体」とするかは別の議論です。重要なのは、これまでの人事の仕組みであれば、ほとんどの労働者は中間管理職までは昇進したので、いつかは経営側に立つということです。つまり、管理される側は将来的には管理する側にまわります。このため、日本の労使関係においては、特に大企業の男性労働者においては、労働者側においても必ずしも労使対立を強く意識してきませんでした。

 企業は、「管理監督者」の範囲の見直しの動きの中で、「管理職」概念を捨て去ることに慎重になるべきでしょう。管理監督者ではない管理職がいても法的にはおかしくありません。残業代を支払われる管理職がいてもかまいません。「管理職」ではないと取り扱われてもっとも不利益を被るのは、当該労働者かもしれません。法に合わせるかのように、無理して「管理職」を狭める必要はまったくないのです。組織というヒエラルキーをどのように管理するかという機能的視点から、管理職の範囲を考える方が適当です。

経営側の立場からすると、「経営と一体」の「管理監督者」ではない人々を「経営の一端」の「管理職」として、経営サイドに引きつけておくことは重要なことじゃないか、ということですね。

>こうした一方で、女性が職場に進出し、また非正規労働者が職場に混在するようになると、管理職となることで管理される側から管理する側に変わるという「立ち位置」の転換を享受できない者も増加してきています。このことは、経営側として自己の意見を反映させた気になる機会を最後まで持たない労働者を生み出すことになります。しかも、近年のように正社員の人数が減少し、さらには成果主義人事により必ずしも管理職になれない正社員が増加する状況では、管理する側に立つ可能性がない者の比率が過半数をも占める勢いです。

 こうした状況で、職場に民主的な仕組みを導入することを模索する動きもあります。労働契約法の立案段階で突如浮上した労使委員会もその1つです。36協定などの労使協定の過半数代表を選出する方法の見直しの方向も、この動きの1つかもしれません。

 これらの民主的な仕組みは、当該事業場における労働者側の意見の人事施策への反映を狙うものです。必ずしも当該企業と労働契約を締結する労働者に限らず、派遣や請負の労働者も取り込むことを企図しています。

 顧みると、このような職場での意見の吸い上げは、中間管理職層が「板ばさみ」になりながらも、行ってきたことでした。そして、生え抜きが経営者になる限りは、経営者も職場の悩みを実経験していました。しかし、職場が急激に変わったことにより、また中間管理職が成果をあげるためにあまりに忙しくなりすぎたために、このようなコミュニケーションが乏しくなってきています。このごろは、一時の組織のフラット化を見直す動きもありますが、従前のような中間管理職の機能を期待することは難しいでしょう。

 それでも、企業にとって、法律により民主的な仕組みを導入されることは、いかにインセンティブが設けられたとしても、受け容れがたい部分があるかもしれません。一方で、なぜそのような声があがってくるかも、企業は理解しなければなりません。旧態依然の法律にとらわれることなく、企業の経営管理の中で人事管理が急速に変わりつつあることを認識すべきでしょう。そこに、新たな中間管理職層の意義が存在するものと思われます。単に「管理監督者」に「管理職」を合わせるだけでは、何ら進展はありません。「管理監督者」と異なる「管理職」を再生させ、その結果として職場を再生させることにこそ、企業の自由と適正な利潤があるのかもしれません。

おそらく、経営側の戦略としては、それがもっともフィージビリティが高いものであるのでしょう。

しかし、多様化する労働者の多様な利害を適切に吸い上げていく上で、旧来の中間管理職の再生がもっとも適切な路線であるのかどうかには、いささか、というよりかなりの留保がつくように思われます。

なにより、その中間管理職自身が労働者としての不満や悩みを抱えながら、それを適切に解決する回路を見出せないまま、矛盾が膨らんできているのではないでしょうか。「経営の一端」であるが故にかえってストレートに労働者としての要求を出せないという矛盾を解決するためには、彼らをますます上と下との「板挟み」にしていくのではなく、彼ら自身の意見を適切に吸い上げるメカニズムをきちんと作っていくことこそが重要なのではないでしょうか。

管理職問題の本丸はゼニカネでないのはもちろんのこと、健康問題ももちろん大事ではありますが(と新聞で喋ったばかりですが)、おそらくそれ以上に、この利害代表問題にあるように思われます。

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コメント

別に管理職でなくても、そもそも従業員は「経営の一端」ではないのか?
一方で、管理職を含めて「経営と一体」といったことは当然ないけれども。
「一端」でしかない者をまるで「一体」であるかのように錯覚させる仕組?

投稿: toss | 2008年5月14日 (水) 23時24分

中間管理職だけでなく、企業と人との関係について、最近見た興味ある記事のことを。
日経の4月28日の報道でしたが、「従業員の定着対策 日本の経営者、意識低く 国際会計事務所調査」というものです。グラント・ソーントンという国際会計事務所が世界34カ国の中堅企業(従業員100-750人)経営者7200人(日本430人)に従業員の定着対策について行った調査の結果、従業員の定着率を高めるために、在宅勤務やフレックスタイムなど柔軟な勤務形態の整備に取り組む経営者の割合は、米国53%、ドイツ53%、英国40%、日本30%、と、要するに、日本の中堅企業経営者は従業員の定着のためのワークライフバランス(ここではその言葉は使っていませんが)制度への意識が低い、ということのようです。

もとの報告を探してみましたら、日本語では、以下のもの。

http://www.gtjapan.com/pdf/press/press_20080428.pdf

従業員の定着率の低下が続いたときに、経営者が懸念する事柄として、諸外国(G7、BRICs、VISTA、など、いわゆる「先進国」以外も含め)と日本との大きな差として、諸外国の第1の懸念は、「残った従業員の負荷が増加する」ことであるのに対し、日本では「品質が低下する」とのこと。

グラント・ソーントンのホームページにあった、従業員の採用と定着に関する以下のレポートもざっと見て見ました。

http://www.grantthorntonibos.com/files/recruitmentretentionreportfinal72ndpi.pdf

6ページの「図1:1年前に比して、従業員の採用と定着に対する経済界の関心は高まっている」と、15ページの「図5:賃金圧力の高い国、低い国ランキング」が、いずれも日本がぶっちぎりで最低、というのが何とも。
「採用と定着への関心が高まっている」とする経営者は、最高がベトナムの84%、次に中国(!)とかボツワナなどと続くのがおお!で、最下位5カ国は、下から、日本(3%)・シンガポール(30%)・フランス(38%)・ドイツ(48%)・イギリス(49%)。
「賃金プレッシャーが高い」とする国は、最高がこれも中国で91%、次いで、ボツワナ、インド、などと続くのですが、最下位日本が17%、ブービーのスペインは倍の34%。日本では、賃金は圧力ではないということですね。

もっとも、ボツワナなどでは、この規模の企業って中堅というより、大企業かもしれない、という感想もぶらり庵は持ちますが、それにしても、日本は「人を大切にする」「人の和」「人は石垣、人は城」の国で、欧米先進国は、いやになったらどんどん転職しろと経営者が考えている国、というわけではないようです。

投稿: ぶらり庵 | 2008年5月15日 (木) 05時55分

追伸で。
もっとも、中小企業は、日本では、大企業よりもずっと厳しい状況に置かれていて、政府の支援も、他国に比べて薄かったように思いますし、その中での競争にさらされていることを考えれば、「だから、日本の中小企業経営者はダメなんだ」と結論したいわけではありません。まあ、そもそも、上記調査は外国の1私企業による「経営者の意識調査」で、「企業の実態調査」ではないわけで、でもこういう結果を、どう読んで、どう政策を考えていくのか、ですよね、と、とても言い訳がましいですが。

投稿: ぶらり庵 | 2008年5月15日 (木) 06時25分

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98 名無しさん@明日があるさ 2007/01/24(水) 23:10:53 経済財政諮問会議 議事要旨 http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/0118/shimon-s.pdf 該当部分は10ページのところ。以下、抜粋。 (丹羽議員) 若い人でも、残業代は要らないから仕事をもっと早くスキルを身につけてやりたい、 土日でも残業代は要らないから出社したいという人がたくさんいる。しかし、 経営者がして�... [続きを読む]

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