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2008年4月14日 (月)

共産党と社民党の派遣法改正案

共産党と社民党の労働者派遣法改正の考え方が示されています。

http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-04-11/2008041105_02_0.html

http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/labor/labor0804.htm

私の派遣システムに対する考え方はこのブログ上やHP上に詳しく書いておりますので、いちいち申しませんが、一言でいうと、両者とも労働者派遣事業という事業の規制には極めて熱心で、やたらに禁止禁止といいたがっているのに対して、その目的だと称するところの派遣労働者自身の保護については派遣元規制中心の現行法の枠組みになおも囚われていて、抜本的にものを考えようという姿勢が薄いようです。

共産党案では、まず何よりも、

>2 労働者派遣は、常用型派遣を基本とし、登録型派遣を例外としてきびしく規制します。日雇い派遣を禁止します

 (1)労働者派遣事業をおこなってはならない業務に、物の製造の業務を追加します。

 (2)登録型派遣をおこなうことができる業務は、専門的業務(ソフトウェア開発、機械設計、通訳・翻訳など)に限定します。一九九九年以前の状態にもどします。

 (3)上記(1)(2)の措置によって、登録型による日雇い・スポット派遣を事実上禁止し、常用型派遣に限定します。

と、派遣会社の事業自体を禁止してやらせない部分を大きくすることに熱心であり、次に、

>3 常用代替を目的とした労働者派遣を禁止します

 (1)過去一年間に、常用労働者を解雇・削減した事業所が同一業務に派遣労働者を受け入れることを禁止します。違反に対して、罰則を設けます。

 (2)派遣労働者を新たに導入したり、増やすときは、派遣先事業場の過半数労働組合、それが存在しない場合は過半数労働者の代表との事前協議を義務づけるとともに、各都道府県にある厚生労働省の労働局に届け出ることを派遣先に義務づけます。

 (3)派遣先に対して、派遣労働者の比率と受け入れ期間、さらには臨時的・一時的業務かどうかについて、各都道府県にある厚生労働省の労働局に届け出ることを義務づけ、公表するものとします。

と、労働者保護についてはまず真っ先に派遣先の常用労働者の利益を取り上げ、派遣労働者自身の雇用条件についても、

>4 派遣受け入れ期間の上限を1年とします

 労働者派遣を受け入れることができる期間の上限を一年とします。

と、派遣労働者自身にとっての利益に反する可能性のあるものを真っ先に持ってきて、

>5 派遣期間をこえた場合や違法行為があった場合、派遣先が直接雇用したものとみなします

 (1)以下の場合において、派遣先は、派遣労働者とのあいだで、当該派遣労働者が希望するときは、期間の定めのない雇用契約を締結したものとみなします。

  • (1)派遣先が一年をこえる期間継続して派遣労働者を受け入れた場合
  • (2)派遣先が事前面接や履歴書の閲覧などをおこない、労働者を特定した場合(採用行為に相当する)
  • (3)派遣先が系列子会社の派遣会社に常用労働者を移籍させ、そこから派遣労働者を受け入れた場合(系列派遣)
  • (4)派遣元が雇用する派遣労働者のうち、二分の一以上の者を同一の派遣先に派遣した場合(「もっぱら派遣」)

 (2)偽装請負や多重派遣、無許可・無届け派遣、社会・労働保険未加入派遣などの場合、派遣先は、派遣労働者に直接雇用を申し込まなければならないものとします。違法状態が一年をこえて継続している場合、(1)の規定を適用します。

と、ようやく派遣労働者自身の保護に関わるような事項についても、基本的には事業禁止や規制を中心に置き、それに反した場合の制裁という形で考えようとしていて、そもそも事業自体の禁止や規制を緩和するという方向(私はそういう方向に向かうべきだと思いますが)では意味の薄い措置ですし、なによりも派遣労働者にとって重要な通常の派遣状態における保護という視点はここまで来てもなかなか出てきません。

次の項目もなお

>6 紹介予定派遣を廃止します

 紹介予定派遣(派遣した労働者を派遣先に職業紹介できる制度。紹介予定派遣という名目をつければ、派遣法で禁止されている事前面接などの特定行為が可能になるので、脱法行為が横行する危険性のある制度)は、廃止します。

と、事業禁止症候群の延長で、事前面接がそもそも(労働者保護という本質論において)どこが悪いのかという基本に立ち返って考えた跡がまるで見受けられません。

ようやく7番目以降に来て、

>7 均等待遇を実現し、派遣労働者の権利をまもります

 (1)派遣労働者の賃金は、派遣先労働者の賃金水準を勘案しなければならないものとします。派遣先は、その賃金水準をあらかじめ派遣元に通知しなければならないものとします。

 (2)派遣先は、食堂や診療所などの施設の利用について、差別のない便宜の供与など必要な措置を講じなければならないものとします。

 (3)派遣元は、派遣労働者が有給休暇を取得することができるようにしなければならないものとします。

 (4)派遣先は、派遣労働者がセクシュアルハラスメントとパワーハラスメントなどを告発し、是正を求めたことを理由に不利益にとりあつかうことのないように、必要な措置を講じなければならないものとします。違反に対して、罰則を設けます。

 (5)派遣元・派遣先での組合活動を保障する措置を講じます。派遣先は、派遣労働者を組織する労働組合との団体交渉に応じなければならないものとします。

8 労働契約の中途解除を制限します

 (1)派遣労働者の責めに帰すべき理由以外の理由で労働者派遣契約が中途解除された場合、派遣元は、派遣労働者との労働契約を解除してはならないものとします。

 (2)派遣労働者の責めに帰すべき理由以外の理由で労働者派遣契約が中途解除され、派遣労働者を休業させる場合、派遣元は、派遣労働者に六割以上の賃金を支払わなければならないものとします。派遣先に責任があって労働者派遣契約が中途解除された場合、派遣元は、派遣労働者に十割の賃金を支払わなければならないものとします。

9 個人情報を保護します

 派遣元・派遣先が個人情報を他に漏らすことを禁止し、違反に対して罰則を設けます。

10 ピンはねを規制し、賃金を確保します

 マージン率(派遣料金から派遣労働者の賃金を差し引いた額)の上限を政令で定め、労働者の賃金を確保しなければならないものとし、違反に対して、罰則を設けます。派遣元は、派遣労働者に派遣料金を通知しなければならないものとします。

といった事項が出てきますが、特に8のところを見ると判るように、派遣先の責任で起こったことであっても派遣元に責任を負わせようという、現行法の歪んだ仕組みを、ますます増幅させるような制度設計になっており、つまり共産党は労働者派遣事業という事業自体が憎たらしくて潰したいだけなのか、と思わせるようなものとなっています。

社民党案はそれに比べると派遣労働者自身の保護にも目が向いていますが、やっぱり真っ先に

>1.派遣対象業務の見直し

登録型派遣を行うことができる業務を現行の第40条の2第1項第1号、第3号及び第4号の業務に相当する業務に限定すること。

が来ています。いやあ、共産党にも社民党にも是非伺いたいのは、派遣法制定当初から「ファイリング」という名目でやっていた実質的なOL型一般事務ってのは、どこが専門的業務なんでしょうか、ってことなんですが。政治的妥協の産物であるインチキな業務限定に今更こだわって何の意味があると思っているんですかねえ。

以下は、

>2.派遣労働者に対する賃金の支払に係る規制等

(1) 派遣元(偽装請負における請負事業主を含む。以下同じ。)は、その雇用する派遣労働者に対し、当該派遣労働者について算定した労働者派遣に関する料金の額に政令で定める割合を乗じて得た額以上の額の賃金を支払わなければならないものとすること。

(2) 派遣元は、派遣労働者に対し、(1)の労働者派遣に関する料金の額を通知しなければならないものとすること。

(3) 労働者派遣契約の当事者は、当該労働者派遣契約の締結に際し、厚生労働省令で定めるところにより、派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとに、派遣労働者が従事する業務ごとの労働者派遣に関する料金の額を定めなければならないものとすること。

(4) 賃金の額を定めるに当たっては、派遣元は、その雇用する派遣労働者について、その就業の実態、派遣先の労働者との均等・均衡等を考慮しなければならないものとすること。

(5) 労働者派遣の役務の提供を受けようとする者は、労働者派遣契約を締結するに当たり、あらかじめ、派遣元に対し、その事業所における賃金水準に関する事項を通知しなければならないものとすること。

>3.情報の公開

(1) 派遣元は、厚生労働省令で定めるところにより、毎年、労働者派遣事業を行う事業所ごとの当該事業に係る派遣労働者の数、労働者派遣の役務の提供を受けた者の数、労働者派遣に関する料金の額及び派遣労働者の賃金の額等を公開するものとすること。

(2) (1)の労働者派遣に関する料金の額及び派遣労働者の賃金の額は、1年間に就業した派遣労働者一人当たりの平均額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額とすること。

こういうやり方(派遣料金の一定割合保障)がいいかどうかには議論があるでしょうが(私はかなり疑問ですが)、派遣料金と賃金の関係を透明にして派遣先労働者との均衡を図るという方向は妥当であろうと思います。

>4.派遣先及び派遣元の共同責任

(1) 派遣労働者に時間外労働又は休日労働を行わせるためには、派遣元の事業場に加え、派遣先の事業場においても、派遣労働者が従事する業務について36協定が締結されていなければならないものとすること(派遣先の事業場に係る36協定と派遣元の事業場に係る36協定の内容が異なる場合には、そのいずれにも抵触しない範囲内において時間外労働又は休日労働を行わせることができるものとすること。)。

(2) 派遣労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合において、派遣元がその負傷又は疾病に係る損害賠償の責任を負うときは、派遣先は、当該損害賠償に係る債務を連帯して保証したものとみなすものとすること。

(3) 派遣先は、派遣元の派遣労働者に対する未払賃金に係る債務を保証したものとみなすものとすること。

このあたりは派遣元責任にこだわる共産党案にはないものですが、もう少し踏み込んでもいいのではないかという気がします。

>5.派遣先による直接雇用みなし制度の創設

同一の派遣労働者について1年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けた場合においては、派遣先と当該派遣労働者とは、当該派遣労働者が希望する場合に限り、厚生労働省令で定めるところにより、期間の定めのない労働契約を締結したものとみなすものとすること。

>6.労働者派遣の役務の提供を受ける期間

派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(現行の第40条の2第1項各号に掲げる業務を除く。)について、派遣元から1年を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならないものとすること。

これらについては、登録型派遣については一定の合理性があるとは思われますが、常用型派遣にまで強制するのは(現行法規制もそうですが)かえっておかしな結果をもたらすでしょう。常用型派遣とは、派遣元にパーマネント・メンバーシップがあるのですから、それを無理に断ち切ることは、かえって労働者保護に反する可能性が高いでしょう。

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コメント

公明党も、特に日雇い派遣を禁止の改正案を出すとのことのようですね。民主党と公明党がこれから出すのかな。

派遣について若干立ち位置が違いますが,いつも興味深く読ませていただいています.派遣先の規制強化と派遣先での均等待遇の必要性については,全く同感です.
統計的なデータをしりませんが,労働相談などをうけていると,名目上常用型派遣だけれども,実態は登録型派遣または偽装請負(派遣元への雇用期間が,派遣開始と同時に始まり,派遣契約が終われば自動的に解雇)という事例が多いような印象があります(そういう場合にトラブルになり,労組に相談が持ち込まれるということかもしれません).
例えば,日単位,時間単位などで,通訳などを派遣する場合ような「本来の」常用型派遣ではなく,派遣期間が(1年以上など)長期に渡る場合は,常用型派遣も登録型派遣も実態は同じのことも多いように思いますが,そのへんどうお考えですか.

もし、

>名目上常用型派遣だけれども,実態は登録型派遣または偽装請負(派遣元への雇用期間が,派遣開始と同時に始まり,派遣契約が終われば自動的に解雇)という事例が多いような印象があります

ということであれば、明らかに法違反だと思います。ただ、例のいよぎんスタッフサービス事件がまさにそうですが、特定派遣で届出しておいて登録型でやってるのに、それがおかしいとも思わないアホな裁判官もいたりするので困るんですが。

常用型か登録型かというのは、結局派遣元にパーマネントなメンバーシップがあるかどうかだと私は思いますので、それが実質的に存在しないのでれば本来常用型とは認められないはずだと思います。

ありがとうございます.いよぎんスタッフサービス事件についてしらなかったので,検索して勉強しました.「常用型だったはずなのに実質登録型だった」ということは,クビになるまでわからない,ということなんでしょうか.

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