雇用促進住宅の社会経済的文脈
産経で雇用促進住宅に未だに公務員が入居していると叩かれています。
http://sankei.jp.msn.com/politics/policy/080421/plc0804210021009-n1.htm
>>厚生労働省所管の独立行政法人「雇用・能力開発機構」が所有する雇用促進住宅に、入居資格のない国家・地方公務員が3月末現在で計124人も入居を続けていることが分かった。住宅には、昨年3月末時点で計302人の公務員が無資格で入居し、その後、会計検査院から「不適切な入居」と指摘されていた。機構側は退去を促しているが、地方では雇用促進住宅並みの安価な賃貸物件が少ないとの事情から、完全退去の見通しは不透明だ。
厚労省によると、雇用促進住宅は全国各地に約1500団地あり、3月末現在で約14万世帯が入居している。このうち、雇用促進住宅に入居している公務員は計124人に上る。内訳は、国家公務員3人、市町村職員や教員など地方公務員121人。
入居対象は雇用保険の被保険者で、入居条件は公共職業安定所の紹介により失業者が就職する際、再就職先が遠隔地のために転居に迫られ、一時的な仮住まいが必要となる場合-などに限られている。家賃は1万1500円から10万2300円(平均約3万円)で、「民間の賃貸住宅より比較的安い」(厚労省職業安定局)という。
雇用保険料を負担していない公務員は入居の対象外だが、雇用・能力開発機構は「空き室対策」として一部で例外を認めてきた。だが、平成17年に公務員の無資格入居の問題が表面化していた。
ところが一方で、こういう話もあります。社民党の保坂議員のブログより。
http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/3e93d549ac7b06c389548c2df371fde4
>今日は格差是正に取り組む議員有志の会で厚生労働省職業安定局を呼んでヒアリングをした。今年の2月に、自ら「派遣労働者」である労働組合の青年が、「はたして雇用促進住宅に入れるかどうか」を調べるために、何ヶ所かのハローワークを訪ねて、入居資格を問い質した。結果は、たらい回しの末に「NO」だった。現在1500ヶ所14万戸(35万人)もが暮らす雇用促進住宅になぜ入れないのか。社民・民主・国民新党の3党の議員で厚生労働省の話を聞いた。
雇用促進住宅の窓口は職業安定所(ハローワーク)である。ところが、ハローワークに行くと、「うちはパンフを置いているだけで実際に決めているのはここだよ」と財団法人雇用振興協会の窓口を紹介されたという。「日雇い? ああ、難しいね。1年以上常用で働いていないと入れないんですよ。入居の時に『事業主の証明』が必要なんだよね」と言われたという。派遣労働は数カ月単位の細切れなので、「常用」と言われるとそこで排除される。
ただ、特例があって「失業しておおむね半年以内の人で求職中の人」は職業安定所長の判断で入居することも出来るのだが、「離職証を下さい」と言われて戸惑ったという。日雇い派遣の実態は日毎契約であり、毎日働いていても仕事が終われば離職する。だが「失業中」という概念にも当てはまらない。要するに、制度が想定していない雇用形態なのだ。
厚生労働省職業安定局に見解を求めたところチンプンカンプンな答えが返ってきた。「雇用促進住宅は低所得者向けというわけではないんです。そういう人たちには公営住宅があります。雇用保険の企業側の財源で出来ているわけで、共同寮のようなもので、そもそも雇用保険に入っていない人は入れないんです」
ただし、雇用促進住宅にかつて厚生労働省の職業安定所長などの国家公務員、これを維持・管理する独立行政法人・雇用・能力開発機構の職員などが入居していた事実が問題となったことがあった。かれらは雇用保険を支払っているのか。
「もう出ました。しかし、一部の公務員で居残っている人が今もいます」と厚生労働省も正直だ。ならばなぜ、生活の再建のために住宅を必要としている人が排除されなければならないのか。小泉内閣・安倍内閣の構造改革路線は、この雇用促進住宅を全部売り払うことを決めた。だが、本来は炭鉱離職者の住宅支援のためにつくられた雇用促進住宅が、現在の雇用の危機に改めて有効に使うことを考えてもいいのではないか。
もともと、雇用促進住宅は、移転就職を余儀なくされた炭鉱離職者向けの宿舎として始まり、その後高度成長期に労働力の広域移動政策が進められるとともに、それを住宅面から下支えするために建設されていったものです。その頃は、労働力流動化政策と一体となって、有意義な施策であったことは間違いないと思います。
ところが、70年代以降、地域政策の主軸はもっぱら就職口を地方に持ってくることとなり、地方で働き口がないから公的に広域移動を推進するという政策は消えてしまいました。これは、もちろん子供の数が減少し、なかなか親のいる地方を離れられなくなったといった社会事情も影響していますが、やはり政策思想として「国土の均衡ある発展」が中心となったことが大きいと思われます。大量の予算を、地方の働き口確保に持ってくることができたという政治状況もあったでしょう。こういう状況下では、雇用促進住宅というのは社会的に必要性が乏しいものとなり、そこに上記のような公務員が入居するというような事態も起こってきたのでしょう。
それが90年代に大きく激変し、地方に働き口がないにもかかわらず、公的な広域移動政策は為されないという状況が出現し、いわばその狭間を埋める形で、請負や派遣のビジネスが事実上の広域移動を民間主導でやるという事態が進みました。こういう請負派遣会社は、自分で民間アパートなどを確保し、宿舎としているのですが、その実態は必ずしも労働者住宅として適切とは言い難いものもあるようです。
このあたりについては、私はだいぶ前から政府として正々堂々と(もう地方での働き口はあんまり望みがないので)広域移動推進策にシフトしたらどうなのかと思い、そういうことを云ったりもしているんですが、未だに地域政策は生まれ育った地元で就職するという「地域雇用開発」でなければならないという思想が強くありすぎて、かえって適切なセーフティネットのないまま広域移動を黙認しているような状況になってしまっている気がします。
一連の特殊法人・独立行政法人叩きの一環として、雇用促進住宅も全部売却するということになり、それはもっとうまく活用できるんじゃないのかというようなことを口走ることすら唇が寒いような状況のようですが、実は経済社会の状況は、雇用促進住宅なんてものが要らなくなった70年代から90年代を経て大きく一回転し、再びこういう広域移動のセーフティネットが必要な時代になって来つつあるようにも思われます。
雇用促進住宅ネタは、例によって例の如き公務員叩きネタとして使うのがマスコミや政治家にとっては便利であることは確かでしょうが、もう少し深く突っ込むと、こういう地域政策の問題点を浮かび上がらせる面もあるのではないでしょうか。もちろん、その前に公務員に退去して貰う必要があるのは確かですが、
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JILのメールマガジンで来ていた情報ですが、社宅・独身寮の統合・廃止が進んでおり、労務行政研究所の調査で、1990年に7割であった企業の社宅保有率は、2007年調査では36.3%と半減し、かつ、現在の保有企業でも3割が廃止を検討中、とのことでした。https://www.rosei.or.jp/contents/detail/5785
投稿: ぶらり庵 | 2008年4月22日 (火) 05時58分
住宅について、ついでに。
日本のホームレスの中には、失業が住宅喪失に直結する(つまり、住み込み)人たちがかなりいる、というのを、見た覚えがあります。で、いったん、そうして、無職・住所不定に転落してしまうと、「働いていないと入れない」という住居どころか、定職を得ること自体が難しいスパイラルに入る可能性が大きいですよね。
「日本のホームレス」と書いたのは、同じくHomelessという表記をする英米では、日本のホームレスに相当するのは、野宿者のrough sleeperであって、「ホームレス」は、適切な安定した住居を持たない者、で(例えば http://www.hud.gov/homeless/definition.cfm)、イギリスでは、たしか、そういうホームレスの統計もあったと思います。2005年時点で約10万世帯と発表されています。http://www.nao.org.uk/pn/04-05/0405286.htm
EUレベルでは、適切な住居を持たないホームレスのNGO、FEANTSAがあって、各国に約100の下部組織を持って、交流・調査・出版活動などをしていますね。http://www.nao.org.uk/pn/04-05/0405286.htm
日本では、「新宿ホームレス支援機構」が「shelterless」という季刊誌を出しています。
http://homepage3.nifty.com/shelter-less/index.html
知っている方たちはとっくに知っている情報を並べただけですが、「新宿ホームレス支援機構」のサイトには、5月のシンポジウムのお知らせも載っていたので。
投稿: ぶらり庵 | 2008年4月22日 (火) 22時49分
FEANTSAのリンク、間違えました。
http://www.feantsa.org/code/en/hp.asp です。
投稿: ぶらり庵 | 2008年4月22日 (火) 22時51分