最新アメリカの賃金・評価制度
日本経団連出版から笹島芳雄氏の『最新 アメリカの賃金・評価制度』が出ました。笹島先生、お送りいただきありがとうございます。
http://www.bk1.jp/product/02990302
>アメリカ企業の賃金制度および評価制度の最新の実情を明らかにするとともに、アメリカ企業の制度は日本企業のそれとどのような点で違いがあるのか、そしてアメリカ企業の制度で日本企業の参考となることは何かを考察する。
何ごともそうなんですが、「アメリカの賃金・評価システムの実情は、文献情報や昨今のインターネットを通じた情報検索によりかなり明らかになる」が、「かかる資料に基づく調査・研究だけではどうしても理解できないことが少なくない」ので、著者は「アメリカ企業や労働組合を直接訪問し、企業における賃金制度や評価制度の実情に関する聞き取り調査を繰り返してきた。実態調査のために訪米した回数は10回に及ぶ。・・・訪問企業は延べ80社以上に及ぶ」という蓄積の上にこの本を書かれています。
一番重要なことは、アメリカは職務給であるということ。そんなことは判っていると思っていても、実は本質的に判っていない人が多いんですね。アメリカに「ペイ・フォー・パフォーマンス」という言葉があって、日本語にすると「成果主義賃金」となるんですが、日本の「成果主義賃金」とは根っこが違う。まず何よりも、ペイ・フォー・パフォーマンスは職務記述書があり、職務内容が明示されているのに対し、日本の成果主義賃金は一般的に職務記述書がない。前者では担当職務を決めて採用するが、後者ではそんなものを決めないで採用する。アメリカでは社内公募に応募して選抜されて異動するが、日本では会社が指名して異動する。だから、前者では透明性が高いのに対して後者では透明性が低い。
これは、ペイ・フォー・パフォーマンスが職務給をベースにした成果主義であるのに対して、日本のそれはベースが職能給という名の属人給であるからで、これは昨日のリクルートワークスの記事でも述べたように、雇用システム自体の違いからくるものなので、表面づらだけみて真似したようなふりをしてみても、そもそも根っこが違うわけです。
この点、逆に外国からの留学生に日本の労務管理を講義していて、ジョブに基づかずに採用するんだなんていうと、ジョブディスクリプションはどうなっているんだと質問が飛び、いや日本の企業にそんなものはないんだと答えるとシンジラレナーイという顔をするわけです。
ここんとこが全然判ってないくせに、一知半解で知ったかぶりをするとどういうことになるかというと、
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_73ad.html(そういう二項対立ではないのです)
に示したとおりです。
あと、こういうさりげない記述に注意すること(p85)。
>アメリカ企業でwageとは、時給労働者の賃金を意味する言葉である。したがって、a wage earner とか a wage worker といえば、時給労働者を意味する。wage rateは賃金率と訳されることが多いが、通常は時給のことである。通常、ノンイグゼンプト(残業手当支給対象)職務の労働者は賃金が時給で決まっていることが多い。また労働組合員の賃金もこれまで示してきた事例からも判るように時給で決まっているのが一般的である。
>他方、サラリー(salary)とは年俸とか月俸のようにあらかじめ固定された賃金のことであり、働いた労働時間の量には連動しない。企業はこの固定された賃金を、労働時間が変動しても原則として引き下げることはできない。a salary earner とかa salary worker といえば、あらかじめ固定した賃金が支払われる労働者のことを指す。
ここのところがよく判っていないまま、ホワイトカラーエグゼンプションなんて代物を一知半解で持ち出すと、ああいうわけわかめ状態が現出するわけです。
« サービス業の生産性と密度の経済性 | トップページ | OECD対日経済審査報告書2008年版 »
日本の非正規雇用者も留学生達と近い感覚を持っている人が多い、と思う。「一体、何なんなの、これ?」みたいな感じで
> 職能給という名の属人給である
> シンジラレナーイ
投稿: いやね、 | 2008年4月11日 (金) 21時33分