就職氷河期世代のきわどさ
総合研究開発機構から、『就職氷河期世代のきわどさ―高まる雇用リスクにどう対応すべきか』と題する報告書が昨日出されました。
http://www.nira.or.jp/outgoing/report/entry/n080424_209.html
これは何を措いても読まなければなりません。なぜなら、目次をご覧ください。
I.総論
新たな雇用制度設計を迫る非正規雇用の増加-非正規雇用増加の背景と評価-
II.各論
非正規社員の構造変化とその政策対応 阿部正浩
人事管理からみた若年非正規雇用問題 荻野勝彦
非正規雇用を考える-企業に視点を置いた雇用政策を- 佐野 哲
若年就労問題に対してより強力な取組みを 本田由紀
III.資料編
英国労働党政権における「福祉から雇用へプログラム」
-若年失業者ニューディールを中心に(ヒアリング配布資料) 藤森克彦
スウェーデンの若年者失業問題 小川晃弘
就職氷河期世代の老後に関するシミュレーション 辻 明子
新聞報道等では、
>70 万人を上回る大規模な将来高齢生活困窮者に対する生活保護費用は累計で約20 兆円-すでにみてきたように現在問題視されている非正規雇用のなかでは、就職氷河期に大量に発生した非正規雇用者の規模の大きさが目立っている。バブルが崩壊する前の非正規雇用者比率、無業者比率とバブル崩壊後に経済状況が悪化した時期に大幅に上昇した比率との差を景気悪化による需要要因と考えて、就職氷河期を通じて需要要因により増加した分の非正規雇用者、無業者の規模を試算すると120 万人程度となる。
新卒段階で正規採用されなかった若年層の正規雇用への転換は難しく、彼らの大部分が低水準の賃金のまま年金対応もできずに高齢化に突入するという前提で生活保護に必要となる追加支出を試算すると約20 兆円程度の規模となり、社会的にも深刻な影響を与える規模となる。
という脅しのところが注目されているようですが、
>非正規雇用から正規雇用への転換のためには、研修や教育などを通じた雇用者の能力向上が必要とされることはいうまでもない。しかし、そのための対応を一方的に雇用者に追わせることは現実的な解決策とはいい難い。日本では未だに外部労働市場は十分発達しておらず、雇用者に対する企業の能力評価の仕組みも整備されていない。
効率的な外部労働市場の整備が急がれるが、そのためには個別の労働の内容とそれに対する報酬の関係を明確化し、公正に評価できるような基準作りが必要となる。さらに、法的な強制力を持つ雇用契約に関する基準設定も必要となると考えられる。現行の制度の下では、ジョブカードのような仕組みを導入しても企業の自主的な判断で非正規雇用から正規雇用への転換を受け入れる可能性は限られている。非正規雇用から正規雇用への転換を実現するためには、ジョブカードなどで一定の資格要件を満たすものについては一定比率での採用を義務づけるなどの措置を伴わない限り実効性は期待できない。
と、かなり強硬な議論も提起しています。これは本田さんの主張のようですね。
>学校教育が就職のみを目標とすることは必ずしも望ましい姿とはいえないが、経済社会環境の変化に対応しながら就職に結びつくような方向へ教育内容を変革していくことは必要である。そのためには受け入れ先である企業側の積極的な関与も必要であり、学校、企業、行政がそれぞれの役割を果たしながら制度変革を行うことが求められる。
この辺もレリバンスですなあ。ここまでは総論ですが、後ろの方の本田さんの労働法制について触れたところはちょっといささかというところがありまして、
>このような事態を改善するためは、個別の労働の中身とそれに対する報酬の対応を可能な限り正当かつ公正なものとするためのルールや基準を明確化することが必要である。具体的には、正社員・非正社員のいずれについても、採用や配属・処遇の決定に際して、個々の仕事の内容や範囲、労働者の能力・貢献に対する評価の方法や賃金の基準について文書等により明示し、労働者側からの個別的・集団的な交渉・協議のプロセスを経て合意を形成した上で実施することを雇用者側に義務付けるべきである。
これは、一歩踏み間違えると、将来起こりうるありとあらゆることをあらかじめ雇用契約に書くことができるはずだから、不完備契約なんかあり得ない、というどこかの大学院大学の方と似た議論になりかねません。実のところ、労働のルールはある程度大まかな集団的なものでしかあり得なくて、むしろ何か揉めたときの解決のルールこそが大事なんです。
労務屋さんこと荻野さんのパートでは、
>世間の一部には「解雇規制の緩和・撤廃」を若年非正規雇用対策として主張する意見があるので、これから検討してみたい。
と、その根拠の薄さを指摘しているところが熟読玩味に値しますが、わたくしには最後のこの一節がなかなか効きました。
>企業の長期存続とそのための人材育成に強い信念を持っているオーナー経営者であれば、あるいは一時的な業績悪化、ひいては赤字に陥っても、技能伝承と人材育成の観点から継続的・安定的に新規採用を行うかもしれない。オーナー経営者であればこそ、リターンを求める投資家は存在せず、業績悪化に対して外部から責任を問われることもないからだ(もっとも、メインバンクの深い理解は必要だろうが)。
しかし、現実の多くの企業にとっては、ことはそう簡単ではない。短期のリターンのみに強い関心を持つ投資家が強い発言力を持つ企業では、目先の利益のために人材育成を犠牲にせざるを得ない場面もあるかもしれない。もちろん、経営の規律を失って放漫に陥ることもあってはならないわけで、経営者としても難しい舵取りを迫られるところだろう。
逆にいえば、経営者が業績と人材育成のバランスを取りやすいような会社制度のあり方というのも、考えられてもいい課題なのかもしれない。
このブログでも何回か触れたコーポレートガバナンスと労働の関係ですね。
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>何か揉めたときの解決のルール
そのルールを予め合意に基づいて契約しておくという意味では…?
投稿: TOSS | 2008年4月25日 (金) 21時57分
> オーナー経営者であればこそ、リターンを求める投資家は存在せず
これはオカシイでしょう。オーナーはオーナーなりにリターンを求めるのが、当然。その求め方が異なると見るべきでしょう
ところで、もしもそういった経営が合理的であれば、オーナー経営の会社が自然にもっと増えていいのではないでしょうか?そうなっていない(上場企業などが有利になっている)とすれば、一体、何が事態を歪めているのか?そういったことから考えるべきでしょう
自分のところ(上場大企業)の悪いとこが目に付いてしまう、という可能性もあるのかもしれませんけど…
投稿: 世界の豊田だけど | 2008年4月25日 (金) 22時07分