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2008年4月28日 (月)

日本電産永守社長発言をめぐって

話がややこしくなってきました。

はじめはこの朝日の記事です。

http://www.asahi.com/business/update/0423/OSK200804230044.html

>「休みたいならやめればいい」急成長の日本電産社長

> 「休みたいならやめればいい」――。日本電産の永守重信社長は23日、記者会見で「社員全員が休日返上で働く企業だから成長できるし給料も上がる。たっぷり休んで、結果的に会社が傾いて人員整理するのでは意味がない」と持論を展開。10年間で売上高が6倍超という成長の原動力が社員の「ハードワーク」にあることを強調した。

これが批判を浴びました。

4月26日のMayDayじゃないメーデーで、連合の高木会長は、

http://www.jtuc-rengo.or.jp/news/rengonews/2008/20080426_1209016677.html

>3日前の4月23日、日本電産の社長が、記者会見で「休みたいならやめれば良い」という趣旨の発言をしたと伝えられています。この会社の時間外・休日労働の実態等を調べてみたいと思いますが、「社員全員が休日返上で働く会社だから成長できる」と発言するなど、まさに言語道断、労働基準法という法律が雇用主に何を求めていると思っているのか、問い糾してみなければなりません。

と発言。

これに対して日本電産のHPに、永守社長はそんなこと云っていない、という文章が載りました。

http://www.nidec.co.jp/news/indexdata/2008/0428/CMFStandard1_content_view

>4月23日の決算発表記者会見において、弊社社長永守が「休みたいならやめればいい」と発言したかのような記事が掲載されましたが、そのような事実はなく、誠に遺憾に思っております。

 永守がお伝えしたかった主旨は以下の通りでございます。
 当社は雇用の創出こそが企業の最大の社会貢献であるとの経営理念のもと、安定的な雇用の維持が、社員にとっても最重要であると考えております。
 このような考え方に基づき、これまで経営危機に瀕し、社員の雇用確保の問題に直面していた多くの企業の再建を、一切人員整理することなく成功させて参りました。

 「ワークライフバランス」につきましては、当社では、上記の安定的な雇用の維持を大前提に、「社員満足度」の改善という概念の中の重要テーマとして位置づけております。
 このような考え方に基づき、社員の満足度向上を目的として、2005年度から「社員満足度向上5ヵ年計画」をスタートさせ、2010年には業界トップクラスの社員満足度達成を目指し、推進中であります。

 現に、社員の経済的処遇面に関しては、年々業界水準を上回る率で賃金水準を改善してきており、本年度も、平均賃上げ率は業界水準を大きく上回る6%にて実施することと併せ、年間休日も前年比2日増加させております。尚、休日については、来年度以降も段階的に増加させていく予定であります。
 加えて、男女ともに働きやすい会社を目指し、昨年4月にはポジティブ・アクション活動の一環として、家庭と仕事の両立を支援する目的で新たな制度の導入もし、更なる社員満足度向上に向けて努力を続けております。
     
 以上が、永守が記者会見で申し上げた考え方の要旨でありますので、皆様のご理解を賜りたくお願い申し上げます。

まあ、要旨はそういうことなんでしょうが、いささか舌が滑ったところもあったのではないか、と。

ただ、実はこの問題は突っ込むとすごくディープな話になります。単純素朴にとんでもない発言や、では済まない。

ポイントは、永守社長はほかのいろんな会社の社長さんたちよりも、遥かに深く「安定的な雇用の維持が、社員にとっても最重要」と信じ、「企業の再建を、一切人員整理することなく成功」させてきたことを誇りに思っている方であろうということです。

他の何よりもただひたすら雇用の安定が大事であり、人員整理は一切しないという信念を追及しようとすると、労働時間短縮だのワークライフバランスだのといった寝言、おっと失礼、2番目3番目ぐらいに大事なことは、まあ2の次3の次ということになるのは、これはやむを得ないことと云うべきではないでしょうか。

実際、日本でなぜ時間外労働の法的な上限規制がされてこなかったかというと、そんなことをするといざ不況の時に残業削って雇用を維持するというのが困難になり、ひいては解雇をせざるを得なくなるから、と、これは労働基準法研究会報告が何回も云ってることです。

ですから問題は、そんな長時間労働をしてまで、ワークとライフのバランスもとらないで、ただひたすら雇用の安定のみを追及するんですか、という話なのであって、その裏腹にあるのは、人間らしい働き方をする代わりに、不況の時にはやむを得ずクビになるかも知れないね、というのをどこまで認めるかという話でもあるわけです。両者はトレードオフなんであっていいとこ取りというわけにはいかない。そこんところを抜きにして表面的なバッシングで済ませてしまうのはもったいない話なんです。

参考:

http://homepage3.nifty.com/hamachan/espworklifebalance.html(労働時間短縮とワーク・ライフ・バランス『ESP』2007年6月号)

>また、雇用維持という目的を家庭生活との両立の上位に置かないということは、整理解雇法理の一定の緩和というインプリケーションも持つ。アメリカという異常例を除き、先進国で解雇を使用者の恣意に委ねている国はないが、日本の整理解雇法理は欧州諸国の解雇規制に比べても過度に抑制的であり、そのツケが長時間労働や遠距離配転にしわ寄せされているという面もある。これらも含めてさまざまな規制間のバランスについて、社会的な検討が行われることが望ましい。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/roubenflexicurity.html(解雇規制とフレクシキュリティ『季刊労働者の権利』2007年夏号)

>最後に、現行の整理解雇法理については労働法制全体の観点から抜本的な見直しが求められているように思われる。それは福井・大竹編著が言うように「経営判断、解雇の必然性、解雇者選定などは、企業固有の経営的、技術的判断事項であって、裁判所がよりよく判断できる事柄とは言えない」からではない。むしろ逆であって、この法理が形成された1970年代という時代の刻印を強く受けているために、専業主婦を有する男性正社員の働き方を過度に優遇するものになってしまっているからである。

 解雇回避努力義務の中に時間外労働の削減が含まれていることが、恒常的な時間外労働の存在を正当化している面があるし*16、配転等による雇用維持を要求することが、家庭責任を負う男女労働者特に女性労働者への差別を正当化している面がある。そして、何よりも非正規労働者の雇止めを「解雇回避努力」として評価するような法理は、それ自体が雇用形態による差別を奨励しているといってもいいくらいである。

 もちろん1970年代の感覚であれば、妻が専業主婦であることを前提にすれば長時間残業や遠距離配転は十分対応可能な事態であったし、非正社員が家計補助的なパート主婦やアルバイト学生であることを前提とすれば、そんな者は切り捨てて家計を支える正社員の雇用確保に集中することはなんら問題ではなかったのかも知れない。

 しかし、今やそのようなモデルは通用しがたい。共働き夫婦にとっては、雇用の安定の代償として長時間残業や遠距離配転を受け入れることは難しい。特に幼い子供がいれば不可能に近いであろう。そこで生活と両立するために、妻はやむを得ずパートタイムで働かざるを得なくなる。正社員の雇用保護の裏側で切り捨てられるのが、パートで働くその妻たちであったり、フリーターとして働くその子供たちであったりするような在り方が本当にいいモデルなのかという疑問である。

 近年ワーク・ライフ・バランスという言葉が流行しているが、すべての労働者に生活と両立できる仕事を保障するということは、その反面として、非正社員をバッファーとした正社員の過度の雇用保護を緩和するという決断をも同時に意味するはずである。「正当な理由がなければ解雇されない」という保障は、雇用形態を超えて平等に適用されるべき法理であるべきなのではなかろうか。この点は、労働法に関わるすべての者が改めて真剣に検討し直す必要があるように思われる。

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コメント

>その裏腹にあるのは、人間らしい働き方をする代わりに、不況の時にはやむを得ずクビになるかも知れないね
>両者はトレードオフなんであっていいとこ取りというわけにはいかない

その解は企業ごと、契約ごとの問題でしょう。そうでないと、例えば「自営業者は…?」という話になってしまう。

投稿: TOSS | 2008年4月29日 (火) 00時09分

オーナーに対する計画未達の言い訳の一種として、人員削減を水面下で行うようになりますよ。そうすると、どうしても不透明でえげつないやり方になってしまいます。実際に上場企業といえども関西のお^なー企業ではそういうことが頻繁に行われていますね。

投稿: びごい | 2012年6月20日 (水) 14時41分

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