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2008年3月 5日 (水)

「働く」ワーキンググループ報告

昨日読売の記事で紹介した国民生活審議会総合企画部会の「働く」ワーキンググループの報告が、総合企画部会の資料としてアップされています。

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kikaku/21th/index.html

http://www5.cao.go.jp/seikatsu/shingikai/kikaku/21th/080304shiryo04.pdf

改めて読んでみると、実に的確な認識に基づき、適切な政策を提示していて、ほとんどそのまま引用したいくらいです。この中から自分の興味に引っかかった「ニート」だけを見出しに取り上げた読売記者の見識(および、その見出しに引っかかってこの報告をあれこれ批判して見せたネット界の人々の良識)が問われますね。

>「働く」ことは、生活者一人一人にとって、生きていくための営みのひとつであるだけでなく、社会への貢献であり責任であり、同時に本人の自信や幸福につながる自己実現のための最重要な方策である。一人一人が自己実現に向け努力していくことは不可欠であるが、制度上、自助努力を促したり意欲を維持・向上させる仕組みも大切である。

しかし、「働く」ことをめぐっては、個人の自助努力のみでは限界があるような事象が現実には多発している。非正規労働者の増加、ワーキング・プアの問題などが生じ、格差の拡大や固定化が懸念され、ときには個人の尊厳が損なわれかねない問題が起こっている。また、長時間労働の労働者が増加し、仕事と健康、家庭生活、地域活動、自己啓発等の両立の困難さが顕在化し、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)が喫緊の課題となっている。さらに、サービス残業、偽装請負・違法派遣、社会・労働保険の未加入等、「働く」ことに関する基本的なルールが守られていない状況がある。さらには就業形態が多様化し、企業との雇用関係にはないディペンデント・コントラクター(ひとつの企業と専属の委託業務契約や請負契約を交わし、常駐に近い形で就業する個人自営業者等)やNPO 活動に従事する有償ボランティア、二つ以上の企業で働くダブルジョブホルダー(二重就職者)等が増加しているにもかかわらず、必ずしも法制度が十分整備されておらず、既存の労働法制や諸制度の適用から漏れることで問題が生じている実態も見受けられる。

だれもが意欲と能力に応じて働くことのできる状況や、多様な働き方が認められ尊重される状況をつくることは、最大の福祉の実現へとつながり、安心して意欲と能力を発揮できる就業環境の提供は生活者の福祉向上にとって不可欠である。また、働く人がより良いライフスタイルを実現することができるようにするためには、働く人が、家事や育児・介護はもちろんのこと、イベントや学校行事など地域の活動や地域づくり等に積極的に参加できるような取組を進めることが必要である。さらに、これらのことにより労働生産性の向上を図り、社会全体の底上げにつなげることも重要である。

国はこうした視点から、地方公共団体や企業、労働組合、NPO 等と協力・連携し、国民に対して、「働く人を大切にする社会」を保障していかなければならない。本報告は、安心して意欲と能力を発揮できる就業環境を提供する上での緊急の課題とその解消に向けた取組について提言するものである。

まず、「「働く」に関する緊急の具体的課題」として、「就職困難者一人一人に対する支援体制」が挙げられます。

>障害者や母子家庭の母、ホームレスやニート、フリーターなどの若者等、就職困難者一人一人に対し、訓練から、職業紹介、就職に至るまできめ細かく支援する体制(一人別のチーム支援体制)が十分に整備されている状況にはない。これまでの行政の取組は、相談窓口に来た人に対する支援を行うが、自ら積極的に出向いて支援することには限界があったところである。このため、就職困難者一人一人に対する一人別のチーム支援体制が、NPO 等の民間団体の協力を得て労働・福祉分野の行政により、一体的に整備されるようにすることが最重要な課題の一つである。
また、これと併せて、就職困難者の安定雇用に至るプロセスを埋める働く場を創出していくことも重要である。

これについては、さらに「当該課題の解消に向けて(試案)」の中で、

>就職困難者については、厚生労働省において、ハローワークに自ら出向き登録する生活の余裕がない人たちや登録しても無理だと諦めてしまっている人たち、低賃金のパートタイム労働に従事することを余儀なくされている人たちも多く存在するとの認識のもと、よりきめ細かい実態把握を行う必要がある。その上で、就職困難者一人一人に対する一人別のチーム支援体制について、都道府県ごとの官民の協力・連携体制の強化を通じて、
就職困難者の属性に応じた支援チーム(労働・福祉分野の行政及びNPO 等の民間団体で構成)を着実に整備する取組を進める必要がある。

読売さんはどこから「ネットカフェ」という言葉を持ってきたのでしょうか。いや、もちろん、ネットカフェに行ってもいいと思うんですが、「ニート」をわざわざ見出しにして「ネットカフェ」という報告にない言葉を持ち出して、なんだか特定の人々を想定した一定の方向に読者の意識を持って行きたがっているようです。その結果、およそ労働政策に対して憎悪を燃やす一部の人々の格好の餌になってしまうようなミスリードをしてしまっているわけで、少しは反省していただきたいところではあります。

>また、各地域で、働くことについての施策や相談窓口の情報が、生活者に対してわかりやすく、利用しやすい形で提供されるようにする必要がある。具体的には、厚生労働省において、全国レベルで、ポータルサイトの新設により必要な情報を簡単に検索できるような仕組みを整備するとともに、地域レベルにおいても、都道府県ごとに、入口段階であらゆる相談を受け付けるワンストップサービス窓口の整備及び専門相談窓口のネットワーク化による相談体制の整備を図る必要がある。

このワンストップサービスの発想が、今までの労働行政にはわりと欠けていたところだと思います。

昨日もちらりと触れましたが、次の一節は極めて重要です。

>労働関係法令遵守は経営課題としても最重要な課題であり、産業振興行政・中小企業行政においても単に労働行政に協力するという姿勢に止まらず、企業の健全な存続・発展を図る上で避けて通ることのできない課題として主体的に取り組むことが必要である。また、我が国における労働関係法令遵守水準の低さは、学校教育段階で働くことの意味をはじめ働くことに関する的確な教育が行われていないことも大きな原因であるとの指摘もあるところであり、これは若年者の職業意識の形成が十分に行われていないことにもつながっている。

このため、内閣府、厚生労働省、経済産業省、文部科学省等関係府省庁の連携の下に、学校教育段階から社会に出てからの教育を含め、働くことの意味など職業意識の形成を図るとともに、労働関係法令遵守や働くことの権利と義務など働くことに関する教育の充実等のための取組を進めることが必要である。具体的には、学校教育については、文部科学省において、例えば、人は何故働くのか、社会の一員として働く意義は何かなど働くことの意味に加えて、サービス残業の問題や解雇時の保護、困ったときの相談窓口など働き続ける上で最低限必要な知識が実際にどの程度教えられているのかについて実態調査を行い、不十分な部分について厚生労働省はじめ関係府省庁が協力して対応を行うなどの取組が必要である。また、大企業を含め、企業経営者への労働関係法令の周知徹底を図ることは緊急性を要するところであり、中小・零細企業経営者を中心に、最低限必要な労働関係法令の知識について、厚生労働省、経済産業省はじめ関係府省庁が中小企業団体や業界団体との連携を図りつつ、創業支援時、労働保険の適用開始や年度更新の手続きの機会等あらゆる機会を活用して周知・徹底を図る必要がある。

また、

>就職困難者一人一人に対する一人別のチーム支援体制や地域における相談機能の強化については、通常の行政手段(受け身の姿勢の行政や、働く人の自助努力に大きく委ねる方法)に比し格段に人の手間と予算が必要となるところである。例えば、一人別のチーム支援体制の整備については、通常の求職者に対する支援と比べて多くの業務が必要となり、また極めて多くの時間を必要とするところである。また、労働関係法令遵守の徹底を図るためにも、現行以上の監督指導のための体制の一段の強化が不可欠である。

しかし現状を見ると、厳しい定員管理のもと、我が国の労働者1万人当たりの労働行政職員数(職業安定機関、労働基準監督機関等)は諸外国と比較すると極めて少ない実態にあり、さらに地方公共団体においても労働行政担当職員数の減少がみられる状況にある。

こうした状況において、上記の取組を推進するためには、既存の定員・予算の効率化・合理化を図る必要があることは当然であるが、これのみでは真に必要なところに定員・予算を確保することは困難である。このため、職員の専門性の向上や官民の連携強化を図りつつ、地域の労働行政に対する支援を含め、定員や予算を確保するための特別措置を講ずることが必要である。

なんでもかんでも小さい政府がいいというわけではないということです。どういう分野に精力を傾注する政府を望むのか、という選択の問題なのですね。

たいへん興味深く、かつちょっと慎重に考える必要があるかな、と思われたのが、

>公労使の三者構成の審議会等については、実効性のある政策を進める上で三者構成を維持することが必要であるが、同時に生活者の意見を幅広く吸い上げる取組を今後とも進めることが適当である。その他の生活者委員の登用ルールが整備されている審議会等においては、生活者委員の構成比率の向上に取り組むほか、それが変わらない場合でも生活者の意見を幅広く吸い上げる取組を進める必要がある。一方、生活者委員の登用ルールが構築されていない審議会等については、早急にルールを構築することが求められる。なお、すべての審議会等を通じて、現在は働いていないが、今後、就業を希望している人たちや一般の生活者の意見を聞く機会も設けていく必要もある。

また、「働く人を大切にする社会づくり」について、関係府省庁で生活者重視の行政が的確に行われることを担保するため、職員の教育、意識改革の徹底を図るとともに、設置法上その趣旨の明確化を図るべきである。

とりわけ内閣府においては、今後とも「働く人を大切にする社会づくり」について総合調整機能の強化を図ることが求められているが、審議会等への生活者委員の登用ルールが必ずしも整備されていない等とともに、設置法上、「働く人を大切にする」という趣旨も含めて生活者の視点に立った行政を推進するという趣旨が明確になっていないところである。このため、これらについて早急に取組や整備が図られることが適当である。

ここで言っている「生活者」ってどういう人のことなんだろう?

「三者構成を維持するのと同時に」といってるところを見ると、労働者じゃないの?だけど、それって変だよね。「働く人を大切にする社会づくり」のために「生活者」の意見を幅広く吸い上げようというわけなんでしょう。

多分、現在の三者構成のもとで労働者代表として出てきているのとは違う種類の労働者たちというイメージなのじゃないかと思うのですが、それをうかつに(90年代に流行った言葉を持ち出して)「生活者」とか言わない方がいいように思うのですが。下手すると「消費者」サマの要求に従え、みたいなイメージでとられかねませんし。まあ、これは連合にとって厳しい話につながりうるテーマではありますが、逃げるわけにはいきませんよね。

消費者の意識改革という話も最後に出てきます。

>安全・安心で持続可能な未来の実現を図るためには、社会全体として「働く人を大切にする社会づくり」への取組が進められるようにすることが極めて重要である。このため、来年度から開催される社会的責任に関する円卓会議において、消費者としての利便性と働く人としての仕事と生活の調和の関係、消費者の意識改革、社会的責任投資や社会的責任調達等について十分な議論ができるよう、諸外国の制度・状況把握も含めて内閣府を中心に、事業者団体、消費者団体、労働組合、投資家、その他のNPO 等多様な関係者間の対話・調整を進めることが適当である。

なお、本円卓会議の働くことに関わるテーマとしては、仕事と生活の調和や格差是正などが考えられるが、メンタルヘルスやキャリアアップ、職場のハラスメント、長時間労働、不均衡処遇など働く人からの相談体制の整備を促進するために、企業の取組をCSR の観点から評価し支援するような仕組みについても議論していくことが適当である。

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コメント

「ニート」も「ネットカフェ難民」も「哀れな一群」として人の心を慰めますからね。記者の嗅覚はハイエナの嗅覚。

「・・・我が国における労働関係法令遵守水準の低さは、・・・」とありますが、中央省庁(都道府県など地方公共団体も同じですが)にとっては天に向かってつばを吐くようなことかと存じます。
まず中央省庁自身がサービス残業をやめるなど率先すべきですね。

近いコメントについて、まず。
法律や政策を作っている「国」の現場が、その法律や政策の原則から最も遠い、ということは、高齢者雇用、女性登用、フリーター採用、どれをとっても言えますが、「サービス残業」はちょっと違うかも。部署にも寄りますが、労基法って何?と言いたいような仕事ぶりの方たちは、もっぱらいわゆる「キャリア」なのでは?その方たちは国家公務員の中の、エグゼンプト層で、出世払いの約束とそれからご本人の志とで、若いうちは大したお給料でもないのに「管理職」の働き方をしている方たちだと思います。失礼ながら、hamachanもワン・ノブ・ゼムで、労組の組合員だったことはないのでは?
でも、勤務医同様、公務員キャリアもそろそろ制度設計を抜本的に変えないといけない時期ではないかと、他人事ながら思っています。

さて、で、「生活者」ってなんなんでしょうね。なんだか、この報告からすると、「働いていない人」のような感じですね。ぶらり庵のように、「働かないと『生活』が成り立たない」人間は、働かないでも暮らせてる人って生活者っていうのか!仕事のかけもちしないと暮らせないようなシングルマザーや、年金では足りなくて「生活」のために働き続けている高齢者こそ、「生活者」じゃないのか!!と、言いたくなります。「消費者」についても、「生活」を誰かにおんぶして、「消費」だけしてるような人に、働いてる人間がいろいろ言われたくない!で、思い出すシーンは、子どもの学校時代のクラス懇談会でのPTA選出の場面。「働いているのでできません」「専業主婦をバカにしてるわけ?」の対立は今でもあるのかなあ。要するに、父親もPTAやれよ、の問題なんだと思いますが。もちろん、「働いているのでできません」という母親は、専業主婦と戦う前に、まず、家で専業「仕事人間」と戦うべきではありますね。

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