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2008年3月 5日 (水)

薬害エイズ事件最高裁判決

私は医薬行政については全く知識がありませんし、意思決定がどういう風にされるものなのかについても全然知りませんので、本判決自体の適否についてあれこれ論ずる資格は全くないことをあらかじめ断っておきます。

医薬行政、あるいは一般的に、企業活動に対してその安全面から規制を加える行政機能と当該業種における企業活動を振興促進する行政機能とが同一行政機関に属するような行政分野においては、本判決の判断が適切であるのかも知れません。日本の行政においては、そういうタイプの振興=規制行政が主流であることも事実なので、そういう分野における問題についてまで異議を唱えようとするものではありません。

ただ、世の中には、必ずしもそうでないタイプの行政も存在し、ある行政機関が安全面から規制を加えようとすると、「うちの可愛い業界を潰す気か?」と別の役所が出張ってくるようなこともあります。さらに近年では、およそ当該規制がなければ必ず被害が発生すると立証できない限り、いかなる規制もやるべきではないという強い信念に燃えた政府機関も存在し、当該規制をしなければ被害が発生するかも知れないなどというあやふやな根拠で規制をしようなどというパターナリズムは許しがたい、と圧力をかけるという現象も生じてきています。そういう中で、次のような最高裁の判断をどういう風に理解すべきなのか、なかなか整理がつきかねるところがあります。

>このような状況の下では,薬品による危害発生を防止するため,薬事法69条の2の緊急命令など,厚生大臣が薬事法上付与された各種の強制的な監督権限を行使することが許容される前提となるべき重大な危険の存在が認められ,薬務行政上,その防止のために必要かつ十分な措置を採るべき具体的義務が生じたといえるのみならず,刑事法上も,本件非加熱製剤の製造,使用や安全確保に係る薬務行政を担当する者には,社会生活上,薬品による危害発生の防止の業務に従事する者としての注意義務が生じたものというべきである。
そして,防止措置の中には,必ずしも法律上の強制監督措置だけではなく,任意の措置を促すことで防止の目的を達成することが合理的に期待できるときは,これを行政指導というかどうかはともかく,そのような措置も含まれるというべきであり,本件においては,厚生大臣が監督権限を有する製薬会社等に対する措置であることからすれば,そのような措置も防止措置として合理性を有するものと認められる。
被告人は,エイズとの関連が問題となった本件非加熱製剤が,被告人が課長である生物製剤課の所管に係る血液製剤であることから,厚生省における同製剤に係るエイズ対策に関して中心的な立場にあったものであり,厚生大臣を補佐して,薬品による危害の防止という薬務行政を一体的に遂行すべき立場にあったのであるから,被告人には,必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を採ることを促すことを含め,薬務行政上必要かつ十分な対応を図るべき義務があったことも明らかであり,かつ,原判断指摘のような措置を採ることを不可能又は困難とするような重大な法律上又は事実上の支障も認められないのであって,本件被害者の死亡について専ら被告人の責任に帰すべきものでないことはもとよりとしても,被告人においてその責任を免れるものではない。

本件事案ではそういう風に言えるのかも知れませんが、たとえば、安全面からの規制権限は確かにその行政機関に存在するけれども、当該対象業種の一般的監督権限は他の行政機関に存し、その行政機関が当該規制に反対した結果として、安全面の規制権限を有する行政機関がその行使を断念したような場合、その不作為は違法になりうるのだろうか、とか、一般的に規制緩和の推進を任務とする行政機関が、当該規制の合理性に疑問を呈した結果として、当該安全面からの規制権限を有する行政機関が規制を断念したような場合はどうなんだろうか、とか、いろいろと考えさせられます。「必要に応じて他の部局等と協議して所要の措置を採ることを促すことを含め」ということの中には、協議しても賛成してくれない場合も含まれるんだろうか、とか。

いや、もちろん、これはどなたかを念頭において言ってるわけではなく、純粋に頭の中の思考実験なんですが。

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