後藤田正純氏の「消費者重視」について
日経ビジネスオンラインに後藤田正純氏の「規制緩和論者はもう、かなり少数派」というインタビュー記事が載っています。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080205/146477/
このうち、
>市場経済を否定するつもりは毛頭無い。しかし、行き過ぎた市場経済、市場の暴走は抑えられるべきだ。今の日本で手っ取り早い景気対策は、公正取引委員会が不公正取引をもっと厳格に審査して、廉価販売などの流通を規制することだ。
廉価販売を規制すれば、ものの値段は上がる。これは一時的には、消費者に不利かもしれない。しかし、消費者が安いものを買うのは、家計が苦しいから。家計が苦しいのは、中小企業が大企業からダンピングさせられたり、過当競争で会社の業績が落ち込み、人件費を削られるから。家計が苦しいから、安くしないと売れない。こうしたデフレスパイラルに陥ったままにしないためにも、政府が適切な価格を導く政策を上手にしないといけない。
というところに、一部経済系ブロガーから批判がされているようです。
http://d.hatena.ne.jp/Baatarism/20080212/1202786957
>後藤田氏は廉価販売を規制すれば景気対策になると言ってますが、廉価販売規制というのは値下げ規制ですから、市場によって需給が均衡している均衡価格よりも高い価格で強制的に取引をさせるということになります。その場合、均衡価格よりも供給は多くなり需要は少なくなりますから、生産者側は売れ行き不振で苦しみ、消費者側は物価高で物が買えずに苦しむということになってしまいます。
これが景気対策になるのでしょうか?
実をいうと、後藤田氏の議論はいささか概念が混乱しているところがあり、全体として消費者重視路線という枠組みの中で論じようとしているために、かえって矛盾した印象を与えることになっているように思われます。
つまり、世間の人々は「消費者重視」という言葉から、財・サービス市場における購入者たる消費者サマが絶対君主よろしく偉くって、財・サービスの供給者は奴隷の如く卑しいのが消費者主権であるという観念でもって考えるものだから、廉価販売規制は奴隷が絶対君主さまに反旗を翻すが如く見えるのでしょう。
しかし、これは「消費者」という概念を財・サービス市場の購入者という局面にのみ限定するからそういうふうになるので、後藤田氏がその前のところで労働者保護を論じ、「家計」云々といっているように、彼がいう「消費者」重視というのは、労働市場における供給者重視でもあるわけです。労働市場における廉価販売規制とはまさに最低賃金規制等の労働市場規制ですから、上のBaatarism氏の議論というのは、まさに規制改革会議意見書とまったく同じロジックを述べたものということになりましょう(この辺が、かつて「リフレ派というのはネオリベにちょいちょいとリフレ粉をかけただけの連中に過ぎない」と述べたことにつながるわけですが)
そして、とりわけサービスという商品は労働者による労務供給それ自体が商品としてのサービス供給であるという特性を持っていますから、物的財のように生産過程における労働者保護と販売過程における消費者保護をそれぞれの領域で使い分けて両立させるということができにくいのです。その特性がもっとも端的に表れているのが、ここのところ取り上げている医療現場における医師の医療サービスという労務供給兼サービス供給であることは、賢明な読者の皆さんには既にご理解されているところでしょう。あるいは教育現場における教師のサービスも。そして、様々な領域のサービス供給労働者たちが抱える矛盾と悲鳴も、ここから生じてきているわけです。
こういう風に腑分けしないで、安直に消費者重視とか言ってしまうから誤解されるところもあるのですが、後藤田氏の考えていること自体はまことにもっともなことであるので、妙な批判で潰したくはないと切に思います。
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