労働問題の報道に必要な知見の程度
先日のマクド店長事件にしてもそうでしたけど、例えばこの事件の報道ぶり、日経ですが、
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080214AT1G1302X13022008.html
>「請負」で事故死、派遣先にも使用者責任・東京地裁が賠償命令
請負会社の指示で働いていた男性が製缶工場で転落死したのは安全対策の不備が原因として、遺族が製缶会社と請負会社に1億9000万円の賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁の山田俊雄裁判長は13日、「製缶会社に実質的な使用従属関係があった」と認め、2社に約5100万円の賠償を命じた。原告側は「偽装請負を認めた画期的な判決」と評価した。
派遣社員に対しては派遣先企業も安全管理義務を負うが、請負契約で業務委託した場合、派遣先企業が安全管理責任を負わないケースもある。実態は派遣労働なのに「偽装請負」することが社会問題化しており、就業実態を重視した今回の判決は影響を与えそうだ。
訴えたのは亡くなった飯窪修平さん(当時22)の両親。賠償命令を受けたのは請負会社「テクノアシスト相模」(神奈川)と「大和製缶」(東京)。両社は製缶工場で検査をする請負契約を締結。大和製缶は「飯窪さんはテクノ社の請負業務に従事しており、工場側は安全配慮義務を負わない」などと主張した。
派遣じゃない、つまり偽装請負じゃないれっきとした請負であっても、元請や発注者側が安全配慮義務を負うというのは確立した判例です。本件の詳しい中身は分かりませんが、「偽装請負を認めた画期的な判決」ということではないのではないかと思われます。逆に、現行派遣法では、れっきとした派遣であっても(つまり派遣先が指揮命令していても)派遣先に安全衛生上の義務はありますが労災補償責任はないと整理されています。人によっては、これを「補償と賠償の分離」と呼ぶ人もいますが、私は法設計上の失策と評すべきだと考えています。まあ、それはともかく、労災補償責任はないけれども安全配慮義務はあるという点において派遣先と請負就労先は違いがないのです。いずれにしても、それは「使用者責任」を認めたという話ではないはずです。
社会部の記者にそこまで要求するなよ、という声も聞こえてきそうですが、その辺がいい加減なまま、派遣法の改正問題をうかつに報道すると、変な上に妙が重なるような話になって行きかねないものですから。
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