医療崩壊と連合
昨日紹介した連合総研の「DIO」の巻頭言で、草野理事長が「「医療崩壊」の危機-医療制度にメスを!」というエッセイを書いています。「医療崩壊-『立ち去り型サボタージュ』とは何か」をひきながら、
http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no224/kantougen.pdf
>私は一読して日本の医療の現状の問題点を垣間見て、背筋が寒くなる思いがした。私たちは往々にして医療問題というと、財政的側面やマスコミ報道による医療事故にのみ目を向けがちである。医療事故の報道を目にすると、医者が怪しからん、病院は何をやっているのか、という憤りの気持ちを持ってしまう。それは決して間違ったことではないし、医療従事者や病院・診療所の資質や体制の不備を糾弾することは徹底してやるべきであるが、私たちは医療の実態や医療の現場で何が起こっているのかについては良くは知らないのではないだろうか。
実は、ここに露呈しているのは、勤務医というれっきとした労働者の利益を代弁してくれる組織がどこにもなかったということなのではないかと思います。
いままで、連合が医療問題について何ごとか主張するときには、健康保険の金を出す側として、経済界と手を組んで医療費抑制を主張するか、患者として治療を受ける側の利害を主張するかであって、勤務医がどういう状態に追いつめられているかといったことにはほとんど無関心であったと言っていいように思われます。
まあ、日本医師会が事実上開業医という経営者としての医師の利益代表団体になってしまっているのは医師という同業者内部の問題だと言ってしまえばそれまでですが、医師会に利益を代表して貰えない勤務医たちに対して、連合はこれまで専ら「叩く側」に回っていたのは否めないでしょう。
voiceの道がなければexitするしかない。まさにそれが立ち去り型サボタージュというわけでしょう。それがまずいと考えるのであれば、まさに労働者のvoiceを集約する団体である労働組合が、勤務医たちに彼ら独自のvoiceの道をきちんとつくっていくことこそが、迂遠なように見えてもっとも本筋なのではないでしょうか。
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hamachan議長、
今年の1月に勤務医のための団体が結成されました。
http://doctors21.jp/
座位先生こと黒川衛医師が長崎大学を辞めて、準備に奔走されて現在正式な設立準備にかかっているところです。
座位先生のblog「座位の夢想」
http://zainomusou.blogspot.com/
勤務医は労働基準法違反の過重労働を強いられていますが、あまり労基も入りませんよね。収入も、責任の重さと比すると、高いというわけでなく、公立病院でずっと勤め続けるコメディカルスタッフや事務に比べると、転勤が多い医師は、給与面でも恵まれていないことがあります。看護師と医師の給与が逆転している場合も結構あると聞いていますが、どうなんでしょうかね。
投稿: iori3 | 2008年2月 8日 (金) 12時12分
ほんとうに、「医者」は高額所得者の代名詞のように思われていますが、「開業医」と「勤務医」では全然違う、ということが、知られなさ過ぎます。メディアがその違いをきちんと知らせて、「経営者=開業医」ではなく、「労働者=勤務医」の応援をしなければ、立ち去りの人は増える一方でしょう。産科、小児科もですが、救急なんてほんとうに大変です。救急、は、生死の境の状態で搬入されてきた患者を、とりあえず、症状と対応を見分けて処置する、すごい仕事です。無責任になんて絶対できない。それを、報道は「またまたたらい回し」などとしか書かない。今、救急やってる医者なんて、赤ひげ以外の何者でもありません。ちなみに、開業医の標榜科(「看板」の診療科)に「救急」なんて当然ありません。
患者も市民も悪いところはあるかもしれないけれど、報道悪過ぎ!と、知り合いに、その救急医がいるもんで怒り心頭のぶらり庵です。
投稿: ぶらり庵 | 2008年2月10日 (日) 05時11分
勤務医の問題は、医学部定員の制限・医療費抑制を通じて、医師の総量をOECD平均より遙に下の水準に抑制し続けた厚生労働省の政策的失敗が最大の原因だと思いますが。
この問題の責任を、その一部とは言え、労働組合に帰すのは、ちょっと筋近いに思います。
投稿: とおる | 2008年2月18日 (月) 05時36分
↑
×筋近い
○筋違い
投稿: とおる | 2008年2月18日 (月) 05時38分
医師、特に病院勤務医の養成については、厚生労働省の政策の失敗はあるかもしれませんが、ここでは別の話も。
近年の厚生労働省の政策を見ていて、作文と補助金だけではなくて、実際に結果を出している、と思えるのは、医療関係のいくつかのイシューでした。評判の悪い小泉さんのときの「ハンセン病」対策、それから、「アスベスト」とか、最近は「薬害肝炎」とか、かな。医療を医療の本道に立ち戻らせ、過去の過ちはきちんと認める、というようなまともさを感じます。で、こういう医療イシューは、与野党一致して、みたいな対応も多いようですね。
ごく単純な感想ですが。
投稿: ぶらり庵 | 2008年2月21日 (木) 22時10分
昔は若手の勤務医が自●労の医療分野のリーダーやっていたりしていたんですが、今は率先して組合活動から逃げていますから。代弁しようありません。
投稿: さよ | 2008年2月26日 (火) 22時14分
本日(3月2日)の朝日新聞朝刊4面が「救急医療」の特集です。
で、先日のわたしの間違いの訂正一件。「救急」は、これまで標榜科としてはなかったのが、政令改正で4月より新設とのことです。病院に「救急センター」はあるので、病院の標榜科としてはない、というのは知りませんでした。
さよさん、若手の勤務医ですが、若者が組合に疑問を持っているのは医療に限った傾向ではありません。また、よっぽど恵まれた条件の病院でなければ、若手勤務医に組合活動までやっている時間があるのでしょうか。それに、勤務医を志すほどの人なら、組合活動をやらなくてもわたしは「エライ!」と言いたいです。医療現場を大して知っているわけではないぶらり庵ですが、この朝日記事で現場から訴えている友人の一家を見ているとそう思います(個人的なことで恐縮ですが、杏林大学島崎教授の息子さんは、親に「無断」で救急勤務医の途を選びました。そういう人たちもいます)。
で、ぶらり庵と島崎教授とも見解が一致するところですが、厚生労働分野では、社会保障・社会福祉・労働・雇用の各分野に、研究者・研究所など山のようにいますが、医療については、医療の現場を知っていて、かつ、政策的見地からも課題を見渡せる「識者」がほんとうに少ないです。かつ、島崎教授のような数少ないそうした人を政策の中に活かしてゆく仕組みが、せいぜいアドホックな「審議会」のたぐいしかないことも、日本の医療政策の大きな問題のように思います。
投稿: ぶらり庵 | 2008年3月 2日 (日) 08時56分