分権真理教?
いや、別に呉智英老師の向こうを張ろうというわけではないのですが、
http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2008/0228/agenda.html
昨日の経済財政諮問会議で「政府機能の見直し」ということで、「国と地方の仕分け」「官と民の仕分け」が議論されたようです。官民の問題は市場化テストとしてここでも何回か取り上げてきましたが、昨日は全国知事会から「国の地方支分部局(出先機関)の見直しの具体的方策(提言)」というのが示されていて、有識者議員もそれをエンドースする文書を出しており、一言コメントしておく必要を感じます。
労働行政関係では、労働基準行政と職業安定行政をまるごと地方に移譲可能だと書いてあるのですが、どこまで本気なのでしょうか。正直いって、をいをい、という感じです。ただ、「をいをい」の中身はだいぶ違います。
労働基準行政を地方に移管するとどういういいことがあるのか、提言の後ろの方の「国の出先機関の廃止等によって地域活性化や行政改善が想定される事例」にも載っていません。多分、どう頭をひねってみても見つからなかったのでしょう。その代わりに、弊害は山のように思い浮かびます。労働基準行政というのは、すべての事業場をある意味で仮想敵として臨検監督し、違反を摘発するわけですから、地方政治レベルでは山のような圧力が予想されます。何でこんな我が県のためになっている大事な会社を詰まらん労基法違反如きで摘発するんだ、という政治的圧力に、県庁の一課長如きがどこまで堪えられるか、ということについて、常識的な感覚を少し働かせれば、どういう事態が現出するか容易に想像できるものだと思うのですが。
これに対して、職業安定行政は、実はそもそも1999年までは県庁の中にあったのです。知事の指揮監督を受ける国家公務員という特殊な形態、地方事務官という仕組みだったのですが、それが地方分権の趣旨に反するということで、国と地方で取り合いした挙げ句、国に一元化されてしまったという経緯があります。その結果、都道府県は国とは別に職業紹介事業ができるという規定が設けられ、まさに二重行政の弊をもたらしてしまいました。私は、職業安定行政の性質からして、地方自治体と切り離して動かすことは適当ではないと思っています。産業振興や福祉、教育といった、他の地方レベルの行政とも密接に連携していく必要がありますし、地方政治レベルの要望に敏感に対応していく必要性も高いと思うからです。しかし、一方で、職業紹介と失業給付は表裏一体でなければモラルハザードを大きくしますし、雇用対策の財源ともなっている雇用保険は多くの大企業が集中する都市部から地方への再配分機能を果たしていて、これを完全に分権化すると地方は雇用対策が困難になるでしょう。カネの面倒は国が見るという仕組みをやめてしまって本当に大丈夫だと、多くの地方の知事さんたちがお考えなのか不思議です。
私は、かつての地方事務官制度は決して悪いものではなかったのではないかと思っているのですが、地方分権というのは地方自治体と国とでどっちが100%とるかとられるかの喧嘩だというようなおかしな分権真理教のせいで、かえって地方自治体から引き離されてしまい、いささか浮いてしまっているように思います。労働基準行政はむしろKYの方がよく、浮いているぐらいでちょうどいいのですが、職業安定行政の場合はちょっとまずいと思います。
まあ、いまさら地方事務官制をそのまま復活するわけにもいかないのでしょうが、国と地方自治体が有機的に組み合わされた二重行政でないいいシステムを作り上げるにはどうしたらいいかという積極的な方向性でものごとを検討してもらいたいものだと感じます。
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