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2008年1月 7日 (月)

2008年版経営労働政策委員会報告

昨年末に日本経団連が発表した2008年版経営労働政策委員会報告ですが、日本経団連のHP上では、一枚ピラの「概要」が載っているだけで、

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/109.pdf

とてもコピペできるものではないので、どうしようかなと思っていたのですが、やっぱりこれにコメントしておかないわけにはいかないので、以下いちいち入力していきます。誤字脱字はご容赦あれ。

今回の報告は副題が「日本型雇用システムの新展開と課題」となっていますが、全体のトーンは序文にあるように「守るべきものは堅持し、改めるべきものは変革していく」ということでしょう。当たり前といえば当たり前ですが、今まではいささか「守るべきものも改め、改めるべきものはぶっ潰す」という嫌いがあったことを考えると、正道に立ち返ってきたというべきかも知れません。

いくつかトピック的に取り上げますと、まず日本経済の直面する課題というところで、「全員参加型社会の実現」が掲げられていますが、そこで

>いわゆる「正規」「非正規」をめぐる議論について見解を明らかにしておきたい。

と述べていますので、これは注目です。

>我が国では「非正規」と呼ばれることが多い外部労働市場は、洋の東西を問わず、いつの時代にも存在してきた。しかし、我が国の外部労働市場は、バブル崩壊後に、企業が在籍者の雇用を維持するためやむを得ず新規採用を手控えた、就職氷河期に拡大したという不幸な歴史を背負っている。

>こうしたことを背景に、「正規従業員」と「非正規従業員」との間にあたかも上下関係があるかのように見なす風潮がある。そして両者の格差を是正するとして「非正規従業員の正規従業員か」の推進が主張されている。

>高度成長期には、男性を中心とするフルタイムの長期雇用が典型的な雇用関係であった。しかし今や、全員参加型社会の実現をめざして、女性や高齢者の労働市場への参加率を引き上げていくことが課題となっている。これらの人々は育児や体力の問題などのため、必ずしもフルタイムの雇用関係を望まない傾向がある。また、性別や年齢を問わず、家庭生活や多彩な才能の発揮を重視し短時間勤務や短期間雇用を積極的に選択するライフスタイルや、一つの企業や職種に縛られない多様な職業人生を求める価値観などが広がりを見せている。

>就職氷河期に意に反して期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等となった人々に、長期雇用への道を開いていくことが全社会的な課題であることに疑問の余地はない。企業も、今後とも雇用関係の軸足を長期雇用に置いていく。

>しかし、人口構成やライフスタイルが変わっている中で、フルタイムの長期雇用のみを理想型とし、その他の雇用関係・就労形態をすべてこれに収斂させていくことを目標として労働政策を展開していくことには無理があるといわざるを得ない。

>むしろ、企業や政策当局が取り組むべきことは、「正規」と「非正規」との間の壁を引き下げ、合理的な根拠を欠く処遇の違いや偏見を解消し、フルタイム長期従業員も、期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等も、それぞれ自らの選んだ職務を、胸を張り、誇りを持って勤めることができる社会を創ることである。

その言やよし。言ってることはほとんど正論です。

問題は、長期安定型雇用の中に居場所を得られるべきであったのにそれが得られなかった人々、「就職氷河期に意に反して期間従業員・パートタイム従業員・派遣社員等となった人々に、長期雇用への道を開いていくこと」というのは確かに「全社会的な課題」であるわけですが、それを主として担うべきだしまた担いうるのは日本経団連の会員企業であるはずだろうということであるわけで。

そして、「今後とも雇用関係の軸足を長期雇用に置いていく」のは当然ですが、その中味はしっかり変革していかなければならないということにもつながります。

そこで第2章の「日本型雇用システムの新展開と労使交渉・協議に向けた経営側のスタンス」にいくわけですが、日本経団連によると、日本型雇用システムとは、人間尊重をベースに、新卒採用、長期雇用、年功型賃金、企業内労使関係の4点を特徴としているのですが、これらを今後こう変えていくと。

>新卒採用中心から多様な人材の採用・活用へ、

>長期雇用を基本としつつ外部労働市場も活用、

>年功型賃金から仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度へ

>企業内労使関係の堅持とコミュニケーションの充実

このうち、賃金制度については、「開かれた賃金制度の整備」というところで詳しく述べています。

>年齢や勤続年数などにとらわれることのない賃金制度を構築することで、中途採用者と在籍者との賃金の公正性が図られ、かつ、誰に対しても公平にチャレンジできる機会が開かれる。また、そうした企業が増えていけば、雇用機会も拡大する。

>このような仕事・役割・貢献度を基軸にする賃金制度を構築していくに当たって、従業員の移動などを容易にする観点から、一つの職務に一つの賃金額を設定する「単一型」ではなく、同一の職務等級内で昇給を見込んで賃金額に幅を持たせる「範囲型」の制度とすることも選択肢と考えられる。

>また、勤続年数と労働の価値や生産性との間に明らかな関連性が認められる場合などにおいては、範囲型の制度の活用に加え、勤続年数や貢献度にもウェートを置いた制度を選択することも考えられる。

>さらに、職群ごとに賃金制度の基軸を変える複線型の賃金制度の導入も検討に値しよう。

一言で言うと、長期雇用は堅持するけど年功賃金はやめるぞ、とはいえ長期雇用と制度的補完性のある年功的部分は維持するしかありませんね、というところでしょうか。つまり勤続による熟練給的な年功制は維持すると。そうすると、ここで排除されるべき年功的部分というのは、労務と直接関係のない年齢給的な部分、つまりこの年齢だったら子供の教育や住む家にこれだけコストがかかるよね、という部分になるわけで、それはそれとして実に合理的な発想ではありますし、企業側としては当然ですが、さてではその部分のコストは誰が面倒を見てくれるんだろうというところが、残念ながらこの報告では言及されておりません。それは「経営労働政策」の問題ではなく、まさに公共政策としての社会政策の問題なのでしょう。この辺が、昨年末の朝日の対談でちらと喋ったことにつながります。誰もその部分を出してくれないんであれば、労働者側としてはみすみす生活給を手放すというわけにはいかないでしょう。むしろ、育児・教育手当や住宅手当といったヨーロッパ型の社会手当の導入が、こういう賃金制度の改革を容易にするという面があるのです。政府はなんでも小さい方が企業のためになるというわけではありません。

これに関連して、同一価値労働・同一賃金論とこれを拡大・援用した職種別同一賃金論について、かなりの紙数をとって論じています。これが実に興味深い。

>まず、日本経団連は、同一価値労働・同一賃金の考え方に異を唱える立場ではないことを明確にしておきたい。同一価値労働とは、将来にわたる期待の要素も考慮して、企業に同一の付加価値をもたらす労働である。このような労働は、同一処遇で報われるべきである。

と、まずはそれに賛成だよというところから始めますが、すぐに、

>ただし、これは同じ事業所内で同一時間働けば、同一賃金で処遇されると言うことではない。人によって熟練度・職能レベルはまちまちである。各従業員の責任や見込まれる役割などは異なる。就業時間帯や配置転換の有無なども契約により違う。このような差異があれば、同一時間の労働であっても、処遇には合理的な差があり得る。

と、実質的に反対論に転換しています。特に興味深いのは、

>一部有識者などが提唱している職種別同一賃金論であるが、これは同一職種であれば、事業所や企業の別なく同一賃金を求める議論である。しかし、事業所や企業が別な場合は、生産性が異なる。立地や時期が違えば、労働需給も異なる。従って、事業所や企業の枠を超えて同一職種の労働に対し同一の処遇を求めることは合理的な根拠を欠く。

>このような全国一律の賃金は、方により統制するか、或いは、全国的な職種別団体交渉を前提としなければ実現できない。いずれの仕組みも我が国においては存在せず、職種別の全国同一賃金説は社会的基盤を欠いている。

>のみならず、こうした賃金決定が行われることになれば、労働市場は職種ごとに分断される。その結果、労働市場の流動性は著しく低下する。就業者のキャリアアップに向けたチャレンジの機会は狭まり、就労意欲は減退する。企業も競争力強化の手足を縛られ、産業構造の高度化は進まなくなる。職種別同一賃金は我が国が選択すべき方向ではない。

と、大変強い調子で職種別賃金論を叩いているのです。

これが面白いというのは、私が『世界』論文(「労働ビッグバンを解読する」)の最後のところで、こういうことを書いているからです。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/bigbang.html

>これに対して、ほとんど指摘されていないが、八代氏流の労働ビッグバンの最大の問題点は、あまりにも職種別労働市場への志向が強すぎ、労働者のキャリア形成という課題がないがしろにされている点である。

>「外部労働市場が整備され、賃金が競争的に形成されるようになると、職種や技能の差を別にすれば、『同一労働・同一賃金』の原則が達成可能な土壌が形成される」とか、「同一の職種で、同一の質の労働を、同一の時間だけ提供した場合には、同一額の賃金が支払われることになる」といった理想像は、本誌に登場する反労働ビッグバン派の論者と奇妙にも共通するところが多いように見える。しかし、現に低技能低賃金の仕事に従事している非正規労働者たちがどうやってその「同一労働」の水準に到達するのかというと、「働く意欲を有する者には職業能力形成の機会が等しく与えられるとともに、習得した職業能力については、その公正で客観的な評価結果が『ジョブ・カード』に記載され、就労・キャリア・アップに結びつく」といったいささか空疎な文字が躍るだけである。
 これは八代氏だけでなく、非正規労働問題といえば「均等待遇」としか考えない多くの論者と共通する点である。しかし、現在の非正規労働問題の中心的課題である若年フリーター、とりわけ90年代後半の就職氷河期に正規労働者として就職できなかった年長フリーター世代にとって、最大の問題は現在の低賃金自体にあるわけではない。昨年の労働経済白書が見事に摘出したように、彼らが中核的労働者に与えられている職業能力開発機会から排除され、どんなに長く働いても技能が向上せず、より高いレベルの仕事に就いていくことがなく、それゆえに将来的に賃金の上昇が見込めないという点にある。欧米と異なり、労働者の教育訓練が主として企業内で行われる日本では、その企業内訓練から排除されるということは、職業キャリアのメインストリームから排除されることに等しい。
 そもそも「同一労働」が提供されていない非正規労働者に「同一労働同一賃金」を約束しても何の意味もない。何よりも重要なのは、彼らが将来正規労働者と「同一労働」ができる可能性をもたらすような教育訓練を使用者に求めることではなかろうか。労働者は生きた人間であり、数十年にわたる職業人生を送る存在である。ある一時点で切った「同一労働同一賃金」を論ずるよりも、時間軸を通じたキャリア形成をこそ政策の主軸に据えるべきであろう。

この点については、日本経団連は、八代氏や例えば木下武男氏のような職種別主義者とは対立し、むしろ私と共通点があるようですね。

で、最後に、また今さらという感もありますが、いまだにこういう寝言を言っているので、やっぱり言っておく必要があるでしょう。

>自主的・自律的な働き方を可能とする制度の検討

>専門性や創造性などが高い仕事を行う従業員に限って、従来の労働時間法制や対象業務にとらわれない、自主的・自律的な時間管理を可能とする制度の導入を検討する必要がある。

いや、だから、そういう話じゃない、ってことは、日本経団連の皆様もよーーく判った上で、しかしやむなく言ってるということはこちらも判ってはいますけれどもね。

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コメント

>実質的に反対論に転換しています。

私はこういうのが必ずしも反対論とは思わないんだけど…

たまたま同じ作業をしていても職務それ自体として期待される責任が違えば同一賃金ではないというのは欧米でもそうですが(医者と看護婦が同じ作業をしても同一労働にはならない)、例えば、

>配置転換の有無なども契約により違う

などというのは、まさに日本的雇用システムの問題で、辞令一本でいくらでも配転可能な正社員と、配転できないパートが同じのはずがないじゃないかという話なわけです。日本経団連はそういうところを断固維持したいと思っているわけですから、本質的な意味においては、同一価値労働同一賃金原則に賛成しているわけではないということなんです。

それって同一労働なのかな…。と思ったら、

>同一労働にはならない

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