派遣制度の基本思想
障害者雇用率の派遣元・派遣先按分の話ですが、実は今年6月、研究会で報告書がまとめられる直前に、たいへん興味深い議論がされていました。
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/txt/s0629-3.txt
連合の村上委員が、
>障害者雇用において、派遣元事業主に障害者の雇用義務があるということは承知しているのですが、雇用率制度を変えるということを考えるのであれば、少し発想を転換して、派遣先が単に雇用して労働者を使用しているという現実を受け入れて、自分のところで仕事をしてもらっているということから、まず分母として考える。それに応じて、分子についても、派遣労働者が障害を持っていれば障害者としてカウントすることを検討できないだろうかというのが提案の趣旨でした。
他の法制度、派遣法との関係もあるのですが、しかし、例えば労働安全衛生法では、常時使用する労働者で事業場規模を判定して、そこに派遣労働者も入っているということなども考えて、実際に働いている場を重視して制度を考えることも必要ではないかと考えております。また、人事部できちんと労働者を把握し、管理することが必要だと思いますので、そういったことをもっと促進する意味でも、派遣先に分母と考えていくことも検討してはどうかと思います。
と述べたのに対して、座長の岩村先生が、
>フランスには、村上委員のように考える立法例もあるのです。ただ、フランスの場合論理の整理として、派遣と有期雇用を同視しているのです。ですから、派遣先のほうに全部義務を負わせているのです。実際にも、有期雇用の規制と派遣に対する規制が、派遣元が入るという点は違うにしても、ほかは基本的に同じになっているのです。おそらく、そういうバックグラウンドがあって、派遣先に派遣労働者の雇用義務を負わせている。私も詳しく調べていないので分からないのですが、おそらく、そうではないかと思っています。
日本の場合はどうかというと、派遣法の原理原則からいくと、雇用というのはあくまでも派遣元にあるということから出発しているのです。ただ、労働安全衛生が典型的ですが、実際の労務を提供する場で生じうる様々な問題については、派遣元に責任を負わせても全然意味がないので、それについては派遣先にきちんと責任を負わせましょうと、そういう整理の仕方でいまの派遣法の枠組みが出来ていると思うのです。
そうだとすると、今回のペーパーにある案(1)や村上委員のおっしゃるような案を、法律で作ってしまえば、できると言えばできるのですが、他方でそれはある意味からめ手から派遣法の基本的な発想を変えるという話になる部分があって、先ほど部長がおっしゃった、現実的な実務上の問題と同時に、全体の派遣制度の枠組み自体をどうするかという問題に絡んでしまうと思うのです。そうすると、からめ手から派遣制度の根本的な枠組みに触るようなものを行うのがいいのかどうかということが躊躇される、私自身はそういう気がするのです。
つまり、労働者派遣という仕組みの基本的な考え方としては、かつてのドイツのように、派遣元が唯一の使用者であるという考え方に立って、常用派遣のみを認め、登録型は認めないというやり方もあれば、フランスのように、派遣先が基本的に使用者責任を負うという考え方に立って、登録型のみを認め、常用型は禁止するというやり方もあります。
日本は、戦前はフランス的な発想であったわけですね。フランスで、直用有期も派遣も同じテンポラリーであるのと同様、社外工も含めて臨時工といっていたわけですし、通達もそういう考え方でした。戦後労働者供給事業が全面禁止されて、80年代に派遣を解禁するというときに、はじめはドイツ方式で、常用型派遣のみを認めるというやり方をしようとしたのですが、それでは通らずに、やっぱり登録型も認めることにしたのです。
それはいいのですが、登録型についても、ドイツ式の派遣元が唯一の使用者であるぞよ方式で法律が組み立てられてしまったために、いろいろと問題が出てきているわけで、私はそろそろそこを見直すべき時期に来ているのではないか、と考えています。岩村先生は、「からめ手から派遣制度の根本的な枠組みに触るようなものを行うのがいいのか」と云われるわけですが、むしろ搦め手に派遣の制度設計の矛盾がいろいろと現れていると云うことなのではないか、と。
今まで、組合側は、とにかく派遣はケシカランからできるだけ限定せよ、なるべく広げるなの一点張りでやってきたために、こういう基本設計の問題点にあまり議論がゆかなかった面がありますが、これはそろそろいい機会じゃないかな、と思っていたのですが、撤回されたそうで・・・。
« 労使双方が反対していた労働契約法・・・? | トップページ | 社経生北浦氏のJILPT論 »
コメント