一知半解ではなく無知蒙昧
以前このブログで、池田信夫氏に「一知半解」という形容を進呈しましたが、それは間違いだったようです。読者の皆様にお詫び申し上げます。正しくは、「無知蒙昧」と云うべきでした。
最近、あちこちに誤爆をしでかして、すっかりトンデモの仲間入りをされたらしい池田氏ですが、何を思ったか、また日本労働史への無知を暴露しているようです。
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/87a589c70b31090d1f7557c9855d9d2b
私の「日本の労務管理」を読んだらしく、
>20世紀初頭までは技能をもつ職人が腕一本で職場を転々とするのが当たり前だった。請負契約を蔑視するのも間違いで、これは産業資本主義時代のイギリスでも19世紀の日本でも「正規雇用」だった。しかし第1次大戦後、重工業化にともなって工程が大きな工場に垂直統合され、職工を常勤の労働者として雇用する契約が一般的になった。いわば資本主義の中に計画経済的な組織としての企業ができたのである。
というところはなんとか正しい理解をしているのですが、その第一次大戦後に生み出された「臨時工」について、その下のコメントのところで、こういう莫迦なことを云っているのですね。
>ちなみに、彼の自慢の『世界』論文も、あまりにお粗末な知識に唖然とします:
http://homepage3.nifty.com/hamachan/koyounokakusa.html
<日本でも戦前や戦後のある時期に至るまでは、臨時工と呼ばれる低賃金かつ有期契約の労働者層が多かった。[・・・]彼らの待遇は不当なものとして学界や労働運動の関心を惹いた。>
というように、戦前の雇用形態について問題を取り違え、「臨時工」は昔からかわいそうな存在だったと信じている。そんな事実がないことは、たとえば小野旭『日本的雇用慣行と労働市場』のような基本的な文献にも書いてあります。こんな「なんちゃって学者」が公務員に間違った教育をするのは困ったものです。
をいをい、明治時代と大正後期~昭和初期をごっちゃにするんじゃないよ。
後者の時代における大きな労働問題が臨時工問題であったことは、ちょっとでも社会政策を囓った人間にとっては常識なんですがね。
(尊敬する小野旭先生が『日本的雇用慣行と労働市場』のどこで、昭和初期に臨時工は何ら社会問題でなかったなどと馬鹿げたことをいっているのか、池田氏は小野先生の名誉を傷つけて平気のようです。)
『労働行政史』第一巻の351頁から356頁で、大正末から昭和初期の臨時工問題とこれに対する対策が略述されているので、まずはそれを読みなさいというところですが、私が『季刊労働法』210号に書いた「有期労働契約と雇止めの金銭補償」において、臨時工問題の経緯をやや詳しく書いているので、それを引用します。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/yatoidome.html
>1 戦前の臨時工問題
これがおおまかな見取り図です。ちなみに、臨時工問題について「肌に粟の生ずるを覚える」と述べた北岡寿逸監督課長は、その後東京帝国大学経済学部で社会政策を講じますが、池田氏にかかれば彼も「天下り教授。氏ね」の仲間入りなんでしょうね。まあ、北岡氏の前任の河合栄治郎も農商務省で工場監督官補でしたから、池田氏流には『天下り教授。氏ね」か。
ここでさらりと触れた三菱航空機争議については、今年8月にこのブログで詳しく紹介しました。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_642c.html(昭和8年の三菱航空機名古屋製作所争議)
私がこのエントリーで云いたかったことは、
>日本の近代史を考える上で大変重要なのは、それまで争議のたびに悲惨な負け方を繰り返していた労働組合側が、この(リベサヨさんのいうところの)ファッショな時代になると、そう簡単に負けなくなって、いやむしろこの事件のように勝つようになるということです。ここのところを抜きにして、百万言費やしてみたところで、昭和史の本質が分かったとは言ってはいけないんですよ。
ということであり、赤木問題から井上寿一さんが云われていたことを具体的に示そうということだったんですが、昭和史の本質以前に、そもそも労働史が全然判っておらず、明治時代の請負職人の話と昭和初期の本工と臨時工の身分差別が歴然と生じていた時代の区別も付かないような似非学者には高級すぎたようです。
こういう無知蒙昧な手合いが、どこのディプロマミルで手に入れたのか知りませんが、自分の博士号を後生大事に自慢して、
>この天下り「なんちゃって学者」の問題は、学部卒で研究者としての教育を受けていないのに、教授になっていい加減なことを好き放題言っていることだと思います。日本の大学は博士を持った人間だけを雇用するようにすべきです。このようなことは、欧米ではほぼありえないし、そうでないと、学生にも失礼です。
などとほざいてくれるのですから、呆れてものも言えませんね。まあ、こういうおつむの中味よりも「博士号」という包装紙だけで人間を判断すべきであるという発想が、彼の云うところの「ギルド」的発想であるということは、慧眼な読者の方々は良くお判りでしょう。
なお、うえの季刊労働法論文とかなり重なりますが、最近書いた「労働史の中の非正規労働者」は、組請負時代から現代までこの問題を概観していますので、この問題にまともな関心を持つ方はお読みいただければと思います。
http://homepage3.nifty.com/hamachan/aomori.html
なお、池田信夫氏についてのもっともよく読まれたエントリは、これですので、併せてお読み逃しなく。
http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2007/12/3_a7ad.html(池田信夫氏の3法則)
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コメント
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こんにちは
ここまでくると池田氏ってなんなのかと思います。
いろいろな博士号を持っている人の知り合いが
いますがここまで変な人はいません。いるわけ
ないです。
投稿: 地方に住む人 | 2007年12月19日 (水) 12時01分
心理学の分野で修士号を持つ者です。池○氏は内側から壊れはじめてるのかなー、なんて感想を持ちます。おそらく愛情飢餓感が強く、自我の脆い人なのでしょう。それゆえに、全ての労働者をフリーターに!なんて熱く語っておきながら、自分は博士号という権威に知らず知らずにすがっていく。
また、ノンキャリアに修士が必要ないという発想も、彼が日頃から熱く語っている労働者の生産性の向上と矛盾します。民間企業に限らず官庁においても、新たな課題は会議室でなくて現場で発見されるという意識を共有した組織のパフォーマンスが上がっていくというのは、昨今マネジメントの大きな流れです。キャリア・ノンキャリアに関わらず、現場の労働者・公務員が力を付けていくことは今後必須です。
池○さんは、知的でエネルギッシュな人です。ただ、愛情飢餓感は着地点を誤らせます。hamachan頑張って下さい。
投稿: 愛情飢餓感 | 2007年12月19日 (水) 14時14分
池○さんとはひたすら関わらないようにしておりますので、貴殿の英断に敬服いたしますw
池○さんはブログ&ネット界では古くから「やたら大きな声で珍妙なことを書いてる変な人」として知られ、実社会へ及ぼす悪影響はないってことで、みんな笑って放置してたんですが。。。
ですから、あまりまともに関わらないことが得策です。何をいっても通用する相手ではないし、そもそも個人に対する尊敬の眼差しとか人権感覚のない方なので、分が悪くなってくると口汚く罵倒の言葉を繰り返すだけですから。一応、大学などで教鞭をもたれるようなので、せめて社会人としての節度ぐらいは…と思うんですがね(笑)
投稿: 通りすがりのミーちゃん | 2007年12月19日 (水) 23時30分
むしろQWERTY配列を巡る稲葉先生と安岡先生の小競り合いを思い出しましたが。
「愛情飢餓感」なんて概念は不要で、なんでも経済学的手法のナイフで切ろうとするのはいいが学問の方法論に疎いので足場を踏み外す、というだけでしょう。
ご当人にしてみればマル経のものまねとアラン・ソーカルを託(かこ)っているんでしょうけどねえ。
投稿: 臆病者 | 2007年12月19日 (水) 23時52分
一知半解、無知蒙昧
語彙が増えました(爆)
池田先生のブログのコメント欄に書き込みしている池田説信奉者がどんな方達なのか興味があります。
池田先生のご主張はほんの少し前までは結構世間受けしていたんですね。その世論の振幅が正直怖いです。
投稿: NSR初心者 | 2007年12月20日 (木) 00時53分
いよいよ彼が本性を露呈しはじめました。
「~貧乏人が努力することなしに彼らが豊かになることはできないという事実だ。」・・・だそうです。
彼の主張と世論の流れが逆を向いてきたために、孤立への不安が彼を苛立たせ、何を書いたら自分が損をするかという冷静な判断力さえ消えかけているように見えます。
また、「~そのために必要なのは、結果の平等ではなく機会均等である。」・・・だそうです。
努力の機会が均等なのに結果が不平等なケースってご存じない?
投稿: 本性 | 2007年12月20日 (木) 09時23分
役所の仕事からあぶれた二流の人間が、自分は学位を持たないのに学位を施すというのはどう考えても無理があると思うが。実務家ということで正当化しているようだが、学問的業績がない人間が学位を出すとはこれいかに?そんなことで院の教員になれるなら労働基準監督署のおっさんでも教授になれるだろうが。ブログで粘着する暇があったら働けよ公務員。
投稿: さとる | 2007年12月20日 (木) 19時52分
>労働基準監督署のおっさんでも教授になれる
そもそも、なってはいけない理由は無いだろうに。
低学歴云々言うのなら、高卒(短大中退)で実作しかしてない安藤忠雄が東大の教授だったのをまず批判したら?
投稿: enceladus | 2007年12月20日 (木) 20時40分
学問的業績なんてこと言えば、池田信夫の方が怪しいと思うが、、、、。
投稿: ueppi | 2007年12月20日 (木) 20時52分
労働基準監督署のおさんが大学院で学位を授与してたらおかしいだろ。専門学校で実務教育やるなら別だけどねえ。
安藤?確かに世界の安藤だからね。そりゃ学位はなくても。しかも建築学は実学そのものだからね。世界の安藤と仕事にあぶれた二流官僚といっしょにするなよ。これが勤めてる大学院そのものの存在も教授陣のいかがわしさ(それ自体雇用対策w)もお話にならんだろ。博士号に価値がないなら、インチキ博士の量産からそもそも手を引けよww
投稿: さとる | 2007年12月20日 (木) 21時08分
感情的な書き込みが多いね。
もっと冷静に議論したら?はまちゃん。
投稿: 釣り馬鹿日誌 | 2007年12月20日 (木) 22時11分
ようやくイナゴさんたちの登場ですな。
しかし、池田氏にせよ、イナゴさんたちにせよ、自分で勝手に私の「世界」論文に噛み付いておいて、しかも小野旭先生の本に書いてあるなどと嘘っぱちを並べて、その間違いを指摘されると上で指摘した労働史上の問題には一言も触れられず、人の学歴を笑いものにすることしかできないところが情けない。
上のイナゴたちの文章をよく読んでください。ある種の性格が良く出ているでしょう。労働基準監督官を笑いものにして喜んでいるこの連中の底意地の悪さがにじみ出ています。私は労働基準監督官では残念ながらありませんが(一時監督課長はやりましたが)、どこぞの学術博士よりも、優秀な監督官の方がよっぽど労働問題の本質はつかんでいると思います。
学問の本質は博士号にのみ在ると心得ている人々なのでしょう。ディプロマミルが流行る所以ですね。
投稿: hamachan | 2007年12月20日 (木) 23時03分
労働基準監督官のほうが池田信夫氏より
世の中の役に立っている。
博士でこんな変な人見たことがない。
投稿: 地方に住む人 | 2007年12月21日 (金) 06時16分
どっちもどっちだ。悪口を言い合ってるという意味では、どちらも醜い。
しかし、言っていることは池田氏のほうが正しいと思うよ。
投稿: グリーン | 2007年12月22日 (土) 16時11分
どっちが正しいにせよ、授業料を税金で負担し、役人に学位を与える大学なんていらない。
役人が自費で学位をとるべし。
投稿: . | 2007年12月25日 (火) 13時56分
これだけ完膚無きまでに論破されても、蛙の面にションベンほどにも感じないのか、この期に及んで3法則氏、なお同じことをだらだらと書いていますな。
もっとも、さすがに小野旭先生の本に全然書いてもいないことを、あたかも書いてあるかのごとく捏造したところは知らんぷりして済ませているようです。まあ、その程度の常識のかけらはあるんでしょうね。
言ってる中身が歴史的事実に反するくらいはまだ見解の相違でごまかせますが、労働経済学の大家が言ってもいないことを言ってるかのごとく虚偽を振りまくという所業は、研究者としての最低限の知的誠実さに欠けるということですから、同じ労働経済学者からみれば、研究者としての資格のない人間としか言いようがないでしょう。。
いかに政策メディア博士とはいえ、慶應義塾が付与した博士号ですからね、清家先生。
投稿: hamachan | 2009年5月 4日 (月) 21時48分
2ちゃんからのコピペです。
788 :金持ち名無しさん、貧乏名無しさん:2009/05/04(月) 11:42:36
「いま書いている本でも雇用が主要なテーマの一つなので、この機会に「雇用」 と名のつく最近の本を片っ端から読んでみた。結論からいうと、参考になる本 はきわめて少ない。 」
新しい著書はhamachanに献本してくださいな。
投稿: ネケイア | 2009年5月 5日 (火) 08時58分
池田氏の口の悪さと人格攻撃は好きじゃないけど、自分のことをhamachanなどと書くあなたの感覚にも疑問符を付けざるをえませんな。
投稿: おいおい | 2009年5月 5日 (火) 11時04分
>自分のことをhamachanなどと書くあなたの感覚にも疑問符を付けざるをえません
庶民的でいいではないですか。疑問符をつけるようなこと?
投稿: ネケイア | 2009年5月 5日 (火) 17時31分
>hamachanなどと書くあなたの感覚にも疑問符を付けざるをえませんな。
思うところがあるんなら、素直に論を批判すべきでしょうに。(ボソ)
話は変わって池田氏って誰かに似てるなと思えば、スポーツフィクションライター(笑)と失笑されている金子達仁とそっくりだなと思います。
二人とも「真実への侮蔑」を平然とやらかすし、無節操に多くのジャンルに首を突っ込みあたがるし、とどめに自身が自慢げに主張する事が逆の事態を招くという点が正に瓜二つだと思う訳です。
もし池田氏から明確に何か学べる点があるとすれば、「自らの姿を見失った者は、はなはだしく醜悪と化す」という点に尽きるという点でしょうか。
反目教師という意味では、池田氏からは多くの事を学べる貴重な存在な訳で、その辺大いに評価されるべきと思う次第です。(笑)
投稿: ふみたけ | 2009年5月 6日 (水) 13時34分
>もし池田氏から明確に何か学べる点があるとすれば、
金子氏のことは存じませんでした。検索してみます。わたしは池田先生に必ずしも批判的ではありませんが、人間疎外っぽい政策提言が目立つのがどうも・・・。好きな作家が昔こういう一文を書いていました。このごろよく思い出します。
>カミソリだ、ナタだってね、世間は「切れる男」「頭のいい男」を持ち上げるけど、「切れる男」は危険なんです。本当に頭のいい男は、最後には自分をズタズタに切り刻むようになるから
『偶然にも最悪の少年』というタイトルの邦画がありましたが、やっとようやく退屈しない団塊を発見したのに、どうにも目が離せなくてブログを追っかけてしまう。偶然とはいえサイアク・・・。
投稿: ネケイア | 2009年5月 6日 (水) 17時06分
記事の主旨は納得するんですけれども。。。
「どこのディプロマミルで手に入れたのか知りませんが、自分の博士号を後生大事に自慢して」と言われてしまうと。。。
不本意ながら、彼が持つ博士号と同じキャンパスの修士号をもつ身としては少々がっくり来てしまいます。
批評は本人の議論に対して行なって頂いて、属性などについては罵倒の対象にするのは控えていただいたほうがよろしいかと。
投稿: あひるん | 2010年8月20日 (金) 00時53分
もちろん、それは池田信夫氏のもっぱら所属・属性批判しかできない行動様式を皮肉るためのものの言い様で、わたくしがそういう発想をしていないのは、
>いかに政策メディア博士とはいえ、慶應義塾が付与した博士号ですからね、清家先生。
とコメントしていることからも当然ご理解いただいているものと思っておりました。
問題はあくまでも、
>言ってる中身が歴史的事実に反するくらいはまだ見解の相違でごまかせますが、労働経済学の大家が言ってもいないことを言ってるかのごとく虚偽を振りまくという所業は、研究者としての最低限の知的誠実さに欠けるということですから、同じ労働経済学者からみれば、研究者としての資格のない人間としか言いようがないでしょう。。
というところにあるわけで、そのような下劣な人物に、「オレ様は博士だぞ、えらいだろ」と言わせるような原因をつくったことに、慶應義塾関係者としてなにがしかの意識をもっていただければそれでいいのです。
ちなみに、その近辺に同じように第3法則剥き出しの無恥で卑劣で傲慢な人物がいますが、だからといってその出身でとやかく言うつもりはありません。ただ、そんな人物を世間に出荷してしまったことになにがしかの意識を持っていただければというだけです。
投稿: hamachan | 2010年8月20日 (金) 20時40分
遅レスです、すみません。
しかし、すっと引いた立場で見ると、もう勝負あった、と。
間違った物言いだったり引用だったりは、訂正すりゃあいいことでしょう。それが「敗北」とでも思ってるのかな...そんな自分が許せないと。
あと、自分への批判に対しては過剰なまで攻撃的になる奴っているよね、大体気が小さい、よわーい奴(私の周りにいたのはずっとそう)なんだけどさ。
で、結局都合悪くなるとシッポ巻いてフェードアウトするんだけど。
あと、人のアカウントがどうだとか、中立のふりして一方に肩入れするやつとか...これが気持ち悪い。まず女性にもてないタイプですな。この人たち。
この件、私、hamachanを支持することにしました。
投稿: alto | 2011年5月 8日 (日) 20時59分