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2007年12月20日 (木)

ラヴァル事件欧州司法裁遂に判決

12月18日、欧州司法裁判所は全欧労働関係者の注目を集めていたラヴァル事件で遂に判決を下しました。

http://curia.europa.eu/jurisp/cgi-bin/gettext.pl?where=&lang=en&num=79928781C19050341&doc=T&ouvert=T&seance=ARRET

結論は労働組合側に厳しいものとなりました。

>1.      Article 49 EC and Article 3 of Directive 96/71/EC of the European Parliament and of the Council of 16 December 1996 concerning the posting of workers in the framework of the provision of services are to be interpreted as precluding a trade union, in a Member State in which the terms and conditions of employment covering the matters referred to in Article 3(1), first subparagraph, (a) to (g) of that directive are contained in legislative provisions, save for minimum rates of pay, from attempting, by means of collective action in the form of a blockade (‘blockad’) of sites such as that at issue in the main proceedings, to force a provider of services established in another Member State to enter into negotiations with it on the rates of pay for posted workers and to sign a collective agreement the terms of which lay down, as regards some of those matters, more favourable conditions than those resulting from the relevant legislative provisions, while other terms relate to matters not referred to in Article 3 of the directive.

2.      Where there is a prohibition in a Member State against trade unions undertaking collective action with the aim of having a collective agreement between other parties set aside or amended, Articles 49 EC and 50 EC preclude that prohibition from being subject to the condition that such action must relate to terms and conditions of employment to which the national law applies directly.

つまり、EU統合のためのサービス提供の自由が労働組合の実力行使の権利に優先するというわけです。

この問題については、このブログでも何回か取り上げてきましたが、昨年『世界の労働』に書いたものの一節がよくまとまっているので、引用しておきます。これが事案の概要です。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/servicedirective.html

>本指令案に関連して現実に大きな問題となっているのは、サービス提供業者が連れてきた自国の労働者について現地の労働協約で定める労働条件を遵守する必要があるのかということである。これはスウェーデンに進出したラトビアの建設業者をめぐって紛争となり、現在欧州司法裁判所に係属している。

 スウェーデンは組合組織率が80%以上と極めて高く、労働条件のかなりの部分が全国レベルの産業別労働協約で決定されており、これが使用者団体傘下の企業を通じて非組合員にも適用され、使用者団体未加盟企業には組合が個別協約の締結によって適用していくというスウェーデン方式をとっている。逆にいうと、国家権力による一般的拘束力制度はないし、さらにそもそも法定最低賃金も存在しない。全ては労使に委ねられているのである。
 ラトビアの建設業者ラヴァル社は2004年6月、スウェーデンのヴァクスホルムの学校修復工事を請け負い、子会社を作ってラトビアの賃金水準でラトビア人労働者を派遣した。スウェーデン建設労働組合は同社に協約締結を申し入れたが、その交渉中同社はラトビアの組合と協約を結び、スウェーデン建設労組の要求を拒否した。同協約は、ラトビア労組組合員以外のラトビア人労働者にも適用され、しかも他の協約締結を排除するものであった。これに対してスウェーデン建設労組は11月、建設現場を封鎖するという行動に出た。スウェーデン電気工組合は12月、同社の全電気施設を封鎖するという同情争議を行った。
 ラヴァル社は同月、スウェーデン労働裁判所に対し、これら争議行為は違法であるとしてその差止めの仮処分と損害賠償を請求した。労働裁判所は同月、仮処分の訴えを退けた。翌2005年1月、他のスウェーデン労働総同盟(LO)傘下の7組合が同情争議に参加した。工事は中断し、ラトビア人労働者は帰国し、子会社は倒産に追い込まれた。
 ラヴァル社の主張はこうである。海外派遣指令は派遣先国の法令又は一般的拘束力を有する労働協約で定める最低賃金をクリアしなければならないと規定しているが、スウェーデンにはいずれも存在しない。ラヴァル社が一般的拘束力を持たない労働協約に拘束されるいわれはないし、その締結を強制される理由もない。スウェーデン労組の行動は、EU条約第12条(国籍による差別)及び第49条(サービス提供の自由)に違反する、と。ラトビア政府も、EUに加盟したのは安い労働力を派遣できるからなのに、とスウェーデン政府及び組合を非難した。一方、スウェーデン政府は、地方自治体が労働協約を締結しない海外企業と公契約を結ぶことを禁止する法案を検討すると述べた。
 スウェーデン労働裁判所は4月、争点がEUの条約と指令の解釈に関わることから、本件を欧州司法裁判所に付託した。現在まだ判決は出されておらず、欧州委員会の意見も出されていない。ところが10月、ストックホルムを訪れたマクリーヴィ委員がラヴァル社の主張を支持する発言をしたと報じられ、騒ぎが大きくなった。ETUCは早速、域内市場の追求よりも労使対話と社会的権利の確立の方が欧州委員会の重要な責務だと同委員を批判し、欧州議会も急遽、マクリーヴィ委員に加えてバローゾ委員長を呼んで公聴会を開催した。バローゾ委員長は慎重な言い回しに終始したが、マクリーヴィ委員は「私はスウェーデンの労使関係や団体交渉制度について疑問を呈しているのではない。私の所管する基本的な権利や自由を擁護するのが私の使命だ。これが加盟国にとってセンシティブな問題だからと言って、私が意見を表明する権利を奪う理由にはならない。」と意見を貫いた。
 この問題はそれ自体はサービス指令案に関わるものではない。そもそも現行の労働者海外派遣指令自体が、建設業以外では原則として派遣先国の法令で定める最低条件をクリアすればよいし、建設業ではそれに加えて一般的拘束力を有する労働協約で定める労働条件をクリアすればよいという仕組みになっていることに原因する問題である。法令でもなければ一般的拘束力ある労働協約でもないようなただの労働協約は、少なくとも部外者にとっては当事者同士の効力しか持たない民間の取り決めに過ぎない。
 結局、これは労働組合の圧倒的な組織率を背景に法律の助けなしに自力で労働市場を規制してきたスウェーデンなどの北欧モデルをどう評価し、EU法の中に組み込んでいくのかということではなかろうか。法律論ではマクリーヴィ委員に一分の理があるとはいえ、そうなるとスウェーデンを国家権力による一般的拘束力制度や法律による最低賃金というより硬直的な制度に追いやることになる。労使対話による労働市場の弾力化という点で、北欧モデルは欧州委員会の推奨品であり、へたに傷つけたくないという気持ちも大きいと思われる。

と、いう事情だったんですが、欧州司法裁は先週のヴァイキング事件判決では玉虫色だったんですが、こちらではかなり明確に労働組合の建設現場封鎖という行為は違法だと断じています。まあ、やり方がやり方ですからね。

法律の議論としては、海外労働者派遣指令は派遣先の国の最低賃金など法定最低基準は遵守しなければならないが、それを超えた労働協約による労働条件を遵守する義務はないとした点が重要でしょう。確かに、法律的にはそれは当事者同士の取り決めに過ぎないのですから、外国からやってきた企業が押しつけられるいわれはないというのがまともな法律家の感覚なのでしょうが、それでは北欧型の国家権力によらないで労使自治でものごとをうまく動かしていくという仕組みがうまく働かなくなるわけで、このパラドックスをどう解決するかというのは、法律家の次元を超えた政治的社会的決断が求められるのではないかと思われます。

で、欧州労連は失望を表明しています。

http://www.etuc.org/a/4401

>The European Trade Union Confederation (ETUC) expressed its disappointment at an unexpected decision by the European Court of Justice (ECJ) and its concern at the implications of the case for the Swedish (and certain other Nordic countries) systems of collective bargaining.

まあ、スト権が基本的権利であり、ソーシャルダンピングと闘うことが公益的性格を有すると認めた点については、積極的に評価するとしながらも、スウェーデンをはじめとする北欧諸国のフレクシキュリティな社会システムに否定的な結論となったことに失望する、と。

欧州社会党のラスムッセン議長も、

http://www.pes.org/content/view/1261/72

>PES President Poul Nyrup Rasmussen today expressed his deep frustration at the ruling of the European Court creating doubts about the right of Swedish trade unions to take action to force a foreign company to observe pay deals reached through collective bargaining.

>“This is not a ruling for a Social Europe, this is a foggy day which could provide cover for bad employers and wage cutters. The message it risks sending to citizens is that Europe is more interested in competition between workers than in raising living standards for all families. ”

ソーシャル・ヨーロッパに霧がかかった、ヨーロッパは生活水準の向上よりも労働者同士の競争を興味があるというのか・・・、となかなか文学的な評言で批判しています。

>“Sweden is a model of cooperation between trade unions and employers, and this is one of the reasons it is among the most competitive economies in the world. I am at a total loss to understand why the European Court would create uncertainty and put the hugely successful Swedish collective bargaining system at risk.”

スウェーデンはその労使協調システムゆえに世界でもっとも競争力のある経済であるのに、なにゆえに欧州司法裁はそれを危うくしようとするのか・・・。

この辺は、いささか文脈は違いますが、日本型の労使協調システムを破壊しようとするネオリベ派の方々の問題と共通するものがあるようにも思われます(細かい話は省略してですよ)。

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