御手洗会長の講演
日本経団連HPに、10月23日に行われた御手洗会長の講演が載っています。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/speech/20071023.html
「「希望の国、日本」の実現に向けて」というタイトルですが、はじめに「成長力の強化」、「地域経済の活力向上」について語ったあとは、もっぱら労働・社会問題が中心です。
3つめの「働き方の改革」では、ワーク・ライフ・バランスと就職氷河期の若者を取り上げています。
まずワ・ラ・バラですが、
>ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、労働時間規制の強化などによって進めるべきとの声もありますが、あくまで労使の自主的な取り組みを基本として、政府がそうした取り組みを支援するという形を作ることが必要であると考えております。ワーク・ライフ・バランスが広く実践されるためには、国民の働き方に対する意識改革が必要になります。
>こうした点などを踏まえますと、やはり鍵となるのは経営トップの役割ではないかと思います。経営者が強い変革意欲を持ちながら、企業文化の改革に努めていく必要があります。経営トップがメリハリのある働き方の実現を目指し、長時間会社にいたかどうかなどの「仕事の過程」を評価するのでなく、「仕事の成果」に対する評価を徹底していくことにより、無駄な残業を減らし、上司や同僚が職場に残っていると帰りにくいといった企業風土の払拭につなげていく必要があると思います。
この点は、私はその通りだろうと思っています。正確に言えば、健康に関わるような長時間労働は労働時間規制の強化で対応すべきですが、ワ・ラ・バラはある意味で個人の選択の問題であり、しかしマクロ社会的に一定の方向に誘導すべき問題でもあるわけですから、まさに経営トップの責任が重大になるわけです。
次に就職氷河期の若者ですが、まず
>二つ目のポイントは就職氷河期の若年者の雇用問題、とりわけ職業能力の向上をいかに図っていくかということであります。
という問題認識が適切です。
>90年代後半からはじまった、いわゆる就職氷河期において、思うように就職ができなかった若年者は、年長フリーターなどといわれておりますが、そういった層が約90万人おります。この人たちが固定化することはわが国の経済成長にとって阻害要因となると危惧しております。
「俺たちは経済成長の阻害要因かよなどとふてくされるのではなく、だからこそ経済界が積極的に取り組む必要があるのだという意思表示ととるべきでしょう。
では具体的には何をしろというのかというと、
>具体的には、政府は成長力底上げ戦略の一環として、「ジョブカード構想」を提唱し、職業能力の開発の機会に恵まれなかった層を対象に、「座学と企業でのOJTを組み合わせた実践的な職業訓練」を2008年度からスタートさせるべく、現在、詳細な制度設計に着手しております。
しかしながら、こうした取り組みも、企業がOJTの機会を提供していかなければ、実現することはできません。もちろん、企業の置かれた状況はさまざまでありまして、一律に割り当てというわけにはまいりませんが、ジョブカード構想を、東北地方を含めて全国的に普及させていくためにも、今日お集まりの企業におかれましては、ぜひ積極的なOJT機会の提供をお願い申し上げたいと思っております。
と、ジョブカード構想への協力が最初に来るわけですが、労務屋さんみたいに
>具体論が「ジョブ・カード」だけというのはいささかみすぼらしい(失礼)感じはありますが…。
http://d.hatena.ne.jp/roumuya/20071023
とまで言う気はありませんが、ちょっとそれだけではね・・・。
いやもちろんそれだけではありません。
>また、雇用の多様化が進み、皆様の会社では、長期雇用の社員だけでなく、さまざまな従業員を雇用していることと思います。意欲と能力がありながらも、不本意な形でパートやアルバイトといった働き方をしている若年者がいるのであれば、そうした人材を長期雇用へ転換していく仕組みを整備していくことも、選択肢の一つとして検討していただきたいと考えております。
ともちゃんと語っています。下にも書いたように、ここは一種のポジティブアクションが必要なところだろうと私は思っています。
次の社会保障制度のところもいろいろ語っていますが、例の基礎年金全額税方式についてはいささか引いた姿勢になっています。
>また、基礎年金が本当の基礎としてセーフティネットをなすものであるならば、全額を税でまかなうということも考えられるわけです。こうした観点から9月に「税方式も含めて選択肢を広く議論すべきである」という問題提起をさせていただき、新聞等に大きく報道されることになりました。しかし、税方式への移行には企業負担のあり方をどうするか、既に支払った保険料をどうするのか、生活保護との関係をどう理解するのか、といったさまざまな問題がありますので、日本経団連の社会保障委員会で専門的に研究しているところであります。
研究中ということです。
最後の少子化のところでも、経営トップの責任を強調しています。
>しかしながら、職場の雰囲気などに気兼ねするなど、制度を利用しづらいという従業員の声はまだまだ多いのが現状です。こうした状況を改めていくには、各企業において、男性を含めて働き方を根本的に見直し、効率的に仕事を進めていくことが必要となります。
そのためには、経営トップがリーダーシップを発揮して、職場の雰囲気を変える旗振り役となるとともに、各職場において、管理職と従業員が日頃からコミュニケーションを積み重ねることが重要であります。働き方の見直しが進めば、30代・40代の子育て世代の男性従業員に多い長時間労働が是正され、夫婦で無理なく家事や育児を分担できるようになり、女性が社会参画しやすくなるものと期待されます。
本気で「経営トップがリーダーシップを発揮」するかどうか、御手洗会長の手腕が問われるところです。
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>ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、労働時間規制の強化などによって進めるべきとの声もありますが、あくまで労使の自主的な取り組みを基本として、政府がそうした取り組みを支援するという形を作ることが必要であると考えております。
>この点は、私はその通りだろうと思っています。正確に言えば、健康に関わるような長時間労働は労働時間規制の強化で対応すべきですが、ワ・ラ・バラはある意味で個人の選択の問題であり、しかしマクロ社会的に一定の方向に誘導すべき問題でもあるわけですから、まさに経営トップの責任が重大になるわけです。
トップが大事という点では共通していますが,規制のあり方については正反対の見解ですね。
>こうした点などを踏まえますと、やはり鍵となるのは経営トップの役割ではないかと思います。
具体的にキヤノンではどういうことをされるのでしょうかね。そこまで踏まえていただかないと美辞麗句に過ぎないと思われます。
投稿: みのりん | 2007年10月26日 (金) 20時58分
労働法制は勿論のこと、自分で作ったルールですら守らない経団連と御手洗の言うことには、当然裏があるわけで(実際、浜口先生ご引用の文章にもコッソリホワエグ推進を書いていますしね)。「人間力」運動は全面的に誤りであったと宣言し、自らの公職を辞するくらいのことはしてもらわないと……
投稿: Lenazo | 2007年10月27日 (土) 00時45分