日中戦争下の日本
このブログで紹介した坂野潤治さんのような歴史意識をもって、赤木智弘さんの「丸山真男をひっぱたきたい」を読むと、こういう本ができあがるという実例。
井上寿一『日中戦争下の日本』講談社選書メチエ
です。
井上さん自身がこの本の解説を書いているのでリンクを。
http://shop.kodansha.jp/bc/magazines/hon/0708/index02.html
>この本を準備する過程で、史料をとおして接した労働者、農民、女性たちは戦争の一方的な被害者、犠牲者とはいえないことがわかった。戦争は、資本家に対する労働者の、地主に対する農民の、男性に対する女性の、相対的な地位の向上(社会的平準化)をもたらすチャンスだった。軍需生産の拡大が労働者に高賃金を、食糧増産が農民に小作料の減免を、出征による男性の人手不足が女性に社会進出を、それぞれ可能にしたからである。
>また兵士たちが一方では中国に対する侵略者でありながら、他方では国内「革新」をめざす改革者でもあったことを発見した。
>だからといって、私は侵略を正当化するつもりはない。この本がめざしたのは、侵略と民主化とを同時に進めようとした日本社会のシステムの不調を明らかにすることだったからである。
>社会システムの不調とは、七〇年前の日本のことだけではない。今の日本のことでもある。今の日本とは、ポストバブル世代の若者たちにとって、再チャレンジが困難な格差拡大社会のことを意味している。この世代の若者たちから戦争待望論(赤木智弘「『丸山眞男』をひっぱたきたい三一歳、フリーター。希望は、戦争」『論座』二〇〇七年一月号)が出てきているのも、怪しむに足らない。著者の赤木氏は、たとえ貧しい方向への平等化(下方平準化)であっても、戦争による社会の平等化に賭け金を置いている。七〇年前の労働者や農民、女性たちと同じである。
>ポストバブル世代の若者たちの「保守化」、「右傾化」が進んでいる。先日も大学の講義でこのことを話題にしたところ、講義後、二人の女子学生が質問に来た。「若者の『保守化』、『右傾化』って悪いことですか?」。ポイントを衝く質問だった。おそらく私のどっちつかずの価値判断に納得が出来なかったのだろう。
>今の若者たちは、メディアが喚起するイメージとは異なって、まじめである。公共精神を身につけている。連日のように報道される企業トップの不祥事や政治家のスキャンダルに心底、怒っている。このような社会への不信が若者たちの「保守化」、「右傾化」をもたらしている。そうだとすれば、私は若者の「保守化」、「右傾化」を批判することができない。七〇年前の兵士や労働者、農民、女性たちが抱いていた社会変革への思いを知ってしまったからである。
>それでも私は、若者の「保守化」、「右傾化」を危惧する。『日中戦争下の日本』を書いているうちに、七〇年前の歴史の教訓を生かすべきだ、と戦時下の日本国民からメッセージを託されたような気持ちになったからである。
>日中戦争の歴史は、振り返るに価する多くの教訓に満ちている。
ほとんどこれに尽きています。
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EU労働法政策雑記帳: 日中戦争下の日本:
以下、引用。
>この本を準備する過程で、史料をとおして接した労働者、農民、女性たちは戦争の一方的な被害者、犠牲者とはいえないことがわかった。戦争は、資本家に対する労働者の、地主に対する農民の、男性に対する女性の、相対的な地位の向上(社会的平準化)をもたらすチャンスだった。
(中略)
>だからといって、私は侵略を正当化するつもりはない。この本がめざしたのは、侵略と民主化とを同時に進めようとした日本社会のシステムの不調を明らかにすることだったか... [続きを読む]
>貧しい方向への平等化(下方平準化)
>「保守化」、「右傾化」をもたらしている
小泉改革が支持されたのは、小泉氏のスローガンとは実は裏腹に、それが「貧しい方向への平等化」を齎すものだと実は多くの人達が見抜いていたからではないか、と思う。
そして、これまた、表向きは「格差問題」が取りざたされるのは、裏腹に小泉改革のような「貧しい方向への平等化」では駄目であるという反省に基づいていると思う。
どちらも、スローガンと実態が真逆のように見えるのですが…。
投稿: hi_yangu | 2007年9月22日 (土) 00時53分
小泉・竹中改革が「貧しい方向への平等化」というのは、中流と下流のみを見た言い方で、いささか片手落ちだと思いますね。ウィナーテイクオールの勝ち組を無視して「平等化」はないでしょう。気が利きすぎていて(というか気が利いたことを云おうとしすぎて却って)外していますよ。
投稿: hamachan | 2007年9月22日 (土) 14時43分
そういう捕らえ方はもちろんある、と思うのですが、
勝ち組だった人達はむしろ上昇していた、というと
ちょっと疑問なんですね。
上昇した人達を捕まえて勝ち組だと言えばその通り
なのですが、「過去に勝ち組だった人達」がさらに
上昇したか、というと不況下でそれはない、と思い
ます。勝ち組も含めて下降する中で、相対的により
多く下降したのが中流であった、ということが指摘
されていると思います。
自分よりも少し上の連中を引きずりおろせ
というのが小泉改革支持だったと認識しています。
それが、もしも
自分よりも遥か上の連中を引きずりおろせ
に変わってきたというのが現実とすれば、この点に
ついては私の認識は外していることになりますが。
投稿: hi_yangu | 2007年9月22日 (土) 20時55分
補足します
小泉路線の「自分よりも少し上の連中を引きずりおろせ」では駄目である、というのが今の全体的な流れと認識しています。その流れの中の一部に「自分よりも遥か上の連中を引きずりおろせ」があると思うのですが、【それはあくまで一部であって、全体的な流れを形成してはいない】というのが私の考えであり、異論です
投稿: hi_yangu | 2007年9月22日 (土) 21時08分
福島第一原発(炉心溶融)→放射性物質放出→脱原発→節電→節約志向→贅沢退治→消費減少→下方平準化圧力→省エネルギー
投稿: maharao | 2011年6月15日 (水) 09時40分