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労働経済白書

先週金曜日、今年の労働経済白書が公表されました。

http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/07/index.html

今年の白書は、第2章で「人材マネジメントの動向と勤労者生活」と題して、特にJILPTの「経営環境の変化の下での人事戦略と勤労者生活に関する実態調査」をフルに使った分析がされているのが特徴です。も一つ、ワークライフバランスについてもいろいろと情報が載っています。

第3章の「変化する雇用システムと今後の課題」は、昨年の白書では第3章題3節でちょこっと触れていたテーマを、今年は大きく膨らましています。執筆責任者の石水喜夫氏の問題意識がより鮮明に浮かび上がってきているという感じです。

「まとめ」の文章をいくつか引用しておきます。

>経済社会の変化に伴って、成果配分の見直しを行わなくてはならないが、それは、同時に、我が国の雇用システムの見直しを伴うものとなる。
一国の雇用システムは、経済循環における再生産活動を円滑かつ持続的に実現すると同時に、社会の基盤を養い、安定させるものでなくてはならない。我が国の雇用システムについて、今までの姿を振り返ってみると、年功型賃金制度と勤続を重視する長期雇用の下で、雇用を安定させ職業能力を継続的に高めていくとともに、集団主義的な労働関係を基礎に、社会横断的な賃上げによって成長の成果が広く配分され、勤労者生活も充実し、内需の成長による力強い経済成長が実現されてきた。特に、このような経済循環は、高度経済成長期に有効に機能したものである。
しかし、高度な経済成長は我が国社会を急速に成熟化させ、勤労者意識の多様化を生み出した。今日、ものがあふれる豊かさよりも心の豊かさを求める傾向が強まり、経済成長の成果配分では、収入を増やすことよりも自由時間を増やすことの方が志向される時代を迎えている。また、仕事において、自分の能力や個性を生かしたいと願う気持ちは、今後もますます高まっていくものと考えられ、労働者の間では、自分の時間は自分で管理しながら、自主的、自律的に働き、仕事の成果は個々に評価してもらいたいという気持ちが、ますます強まっていくものと見込まれる。
勤労者意識の変化に伴って、労働者の働き方も企業の雇用管理にも、次第に変化が生じてきている。業績・成果主義的な賃金制度については、その運用にあたって、仕事の成果や取組みにあたっての努力が適切に評価されていないと感じる労働者も少なくないが、しかし、仕事の成果や取組みに対する努力を、個々に評価してもらいたいと願う労働者の意識が底流にあり、集団主義的な性格をもっていた我が国企業の労働関係は、今後も個別化の方向に進んでいくものと見込まれる。また、こうした成果を重視した評価システムの広がりによって、労働者の働き方も、自主性、自律性を尊重したものへと変化していくと考えられる。
一方、企業は、勤続を重視する長期雇用の慣行を引き続き重視している。個々の労働者の仕事と能力を評価する賃金制度が整備され、労働関係の個別化は着実に進展しているが、同時に、企業勤続を評価する賃金構造が強まり、結果として、年功型賃金カーブは維持されている。このことは、長期雇用慣行の下で、労働者一人ひとりに関するきめ細かな人事管理が行われ、採用、配置、育成、処遇が相互に密接かつ有効に運営されることによって、企業勤続の高い価値が生み出され、それが賃金制度の中で適切に評価されているということを意味している。また、企業の人事管理方針としても、非正規雇用者を活用しながらも、長期雇用の者を中核的な労働者と位置づける態度に変化はみられないと考えられる。
このように、我が国の雇用システムは、長期雇用を基本としながら、労働関係の個別化が進展するとういう傾向をたどっており、働く者一人ひとりが、職業生活におけるおのおのの段階において仕事と生活を様々に組み合わせ、バランスの取れた働き方を安心、納得して選択できるような柔軟な働き方の実現が、今後、ますます重要な課題となる。
今後の雇用システムにおいては、長期雇用のもつ人材育成機能と雇用安定機能を生かしながら、働き過ぎを是正し、仕事の効率と労働生産性を高め、労働者が日々の仕事に意欲をもって取り組むことができる環境を整備していくことが大切である。また、多くの人々が就業に参加することができるよう、フルタイムの仕事ばかりでなく、短時間勤務や在宅勤務など柔軟な就業形態を整備するとともに、労働者が一生涯を通じてバランス良く働くことができるよう、加齢に伴う一人ひとりの状況に応じた多様な選択肢を用意することにも努めていく必要がある。さらに、仕事と生活の調和のとれた雇用システムの実現は、育児期の女性の就業機会を広げることにもつながり、男女の職業生活における選択肢を豊かにし、少子化対策にも資すると期待される。
仕事と生活の調和を図ることのできる雇用システムの実現に向け、成果配分のあり方を今までの一律的なものから、一人ひとりの働き方に応じたものへと見直すことが重要である。

>我が国における成果配分の今までの展開を振り返ると、高度経済成長期には、集団主義的な労働関係の下で、いわゆる春闘方式による社会横断的な賃上げがもたらされ、1980 年代に労働時間の短縮が社会的課題となると、労働基準法の改正によって、社会全体として労働時間の短縮に取り組む機運も高まった。しかし、経済成長の成果によって、一定の豊かさに到達した今日、一人ひとりの労働者が抱える課題は、多様であり、個別化している。労働者の間に様々な働き方が広がる中で、ある者にとっては労働時間の短縮が課題となり、また、均衡処遇を通じて処遇の改善を望む非正規雇用者もおり、さらに、正規雇用の就職を期待する若者もいる。
労働関係の個別化は、集団的な力関係の下に均衡していた、今までの労使の力学を崩し、成長の成果が労働者全体に行き渡らないという今日の歪みをもたらした。今後は、新たな社会的均衡の回復に向けた取組みが求められるところであり、仕事と生活の調和を図り、一人ひとりの働き方に応じた成果の配分を実現することが重要である。個別企業の労使関係の中に、あるいは、我が国の雇用システムの中に、仕事と生活の調和に役立つ様々な制度を育て、定着させ、労働者がそれを積極的に活用することができる環境を整備することによって、我が国の経済循環において労働者への分配を強化することが大切である。また、このことは、限られた国民所得の分配にあたって、労使の交渉力によって成果を取り合うというレベルで理解されるべきではない。仕事と生活の調和は、今後ますます強まる人口減少傾向の中で、我が国における経済の成長と社会の安定を生み出すために欠くことのできない、社会全体としての対応なのである。人口減少社会への転換に即応した意識改革が求められる。
「ワークライフバランス」をキーワードとして、人口減少社会にふさわしい社会関係の構築に積極的に取り組まなくてはならない。仕事と生活の調和には、次の3 つの社会的な意義があり、その実現に向けた取組みを強化していくことが重要である。
第一に、仕事と生活の調和は、人口減少社会における労働力供給制約に対し、より多くの就業参加を実現することで就業率の向上と労働力の確保に役立ち、効率的な仕事の推進を通じて、労働者の意欲を引き出しながら、高い労働生産性を実現するものである。また、これらは、活発な企業活動と着実な経済成長にも大きく貢献する。
これらの実現に向け、多様で柔軟な就業機会をより広く提供するとともに、そうした働き方の下で、公正な処遇が確保され、誰もが安心して働くことができる労働環境を整備することが重要である。また、働き過ぎを是正し、仕事の効率の向上と労働者の意欲の向上を図るとともに、男性の家事、育児の時間を増加させることで、女性の就業参加の可能性をより一層高めることができる。
第二に、仕事と生活の調和は、生産、分配、支出へとつながる一国の経済循環を、人口減少の下でも円滑に展開させることに役立つ。仕事と生活の調和によって、労働力供給の制約が克服され、労働者への分配がより厚くなり勤労者生活が充実し、消費支出と内需中心の経済成長の実現によって、過度に輸出に依存することのない、安定したバランスのとれた経済循環が達成できる。
これらの実現に向け、賃金コストの削減のみを目的とした安易な非正規雇用活用を是正するとともに、若年者に正規雇用の雇用機会を拡大し、長期的な視点に立った職業能力の形成と、それに見合う着実な処遇の改善が求められる。また、就業形態間の均衡処遇を通じて、労働者の意欲と生産性の向上を図ることが求められる。さらに、労働者が仕事と生活のバランスの取れた働き方を安心、納得して選択できるような柔軟な働き方の下で、勤労者生活にゆとりを取り戻し、生活の安定と安心の下で、消費支出の着実な拡大も期待できよう。政府は、安定した経済成長の実現に向け、景気動向の正確な把握に基づき、機動的な経済運営を図りつつ、中長期的な経済成長力の強化に取り組まなくてはならない。また、そのことが、企業の長期的な視点に立った計画的な人材の採用、配置、育成を支えることになる。
第三に、仕事と生活の調和は、経済活動の前提である我が国社会の基盤を養い、安定させるものである。男女のバランスのとれた就業参加を通じて、結婚や子どもを持つことに対する希望の実現に役立つことが期待でき、また、労働者の自由時間の増大によって、地域社会の諸活動における担い手も増え、家庭や地域といった社会的な基盤を確固たるものとし、人口減少時代の社会の安定に役立つものである。
これらの実現に向け、長時間労働を抑制するとともに、育児や介護を支援する地域社会の取組みを充実させ、安心できる社会的基盤のもとに、労働者が、日々健康に仕事に取り組み、次世代が健やかに生み育てられることが重要である。また、就業を含む様々な社会参加の道を広げ、特に、高齢者が、自らの健康状態など、一人ひとりの状況に応じて、社会に貢献できることが大切である。さらに、地域社会における様々な社会貢献事業を、我が国社会全体として支援することによって、豊かな社会的基盤の中から優れた人材が多数輩出され、我が国経済の多様で活力に満ちた発展が実現されることが期待される。特に、こうした取組みは、今までの会社での職務経験に過度に傾斜した人生を送ってきた人々とは違う、感性が豊かで、問題解決能力に優れた人材を育てることに有効であると考えられる。
我が国社会は、今後強まる人口減少の未来を見据え、緊密な政労使のコミュニケーションとその強固な信頼関係の上に、仕事と生活の調和に向け積極的に取り組んでいくことが望まれているのである。また、こうした取組みによって、一人ひとりが生き生きと働くことができる雇用システムを構築することが重要である。

この最後のあたりは、本文の最後の一節が大変よく書かれていますので、そちらも引用しておきます。

>以上、みてきたことをまとめると、企業は長期雇用にメリットを感じそれを維持していこうとする意向が強い。また、そのデメリットである人件費負担や景気動向に応じた柔軟性の確保については、非正規雇用を活用することや業績・成果主義的な賃金制度を導入することにより、それを乗り越えようとしていることがうかがえる。
一方、労働者側の意識をみると、雇用情勢が悪化する中で長期雇用をよい制度だとする意向が強まっているものの、そのような傾向が中長期的にあったとは言い難い面もあり、平均勤続年数は若年層を中心に低下する傾向にある。その背景には、労働者が求めている仕事と生活のバランスがとれた働き方は、現状の雇用システムの中では実現が困難であるという現状への反発があることも考えられる。
正規雇用にみられる長い勤続やフルタイムの働き方は、職務経験の充実を通じて労働生産性を高めることに大きく寄与する。その結果として、勤続年数でみた賃金は、勤続年数が高まるほど賃金が高くなるプロファイルを描くこととなる。ところが、労働者の意識からみれば、第2 章第3 節で検討してきたように、勤続年数の高まりや労働時間の長さは、労働者自身にとっては仕事への満足感を引き下げる要因にもなると考えられる。仕事と生活のバランスを図ることで、仕事への満足感と高い労働生産性とをバランスよく生み出していくことが求められていると言えよう。
また、現在の雇用システムの中での非正規雇用の働き方は、勤続年数が短いため、勤続を通じて職務経験を積み上げることが難しく、将来的にも正規の職を得ることが困難である。このため、安定したキャリア・パスを歩むことができないのが現状である。特に、不安定な就業を繰り返している若年層の非正規雇用者について、その正規雇用化に取り組むことが重要である。
持続的な経済の成長を実現していくためには、労働者がその持てる能力を十分に発揮することで高い労働生産性を実現し、より多くの人々によって社会を支えるという視点から就業率を高めていくことが不可欠である。あらゆる人が参加できる柔軟性をもった雇用システムの下で、仕事を通じて職業能力を高めることができ、個々人の状況にも配慮しつつ生活時間とのバランスのとれた柔軟な働き方を実現していくことは、人口減少社会という我が国のおかれた環境下において、取り組むべき重要な課題であるといえるだろう。その際、進展する情報通信技術を活用し、就業環境の整備に努めつつ就業の場を広げていくことを検討することもできよう(コラム参照)。
働く人々すべてが充実した勤労者生活を営むことができるよう、仕事と生活の調和を図ることのできる雇用システムの構築を通じて、持続的な経済の成長と公正な付加価値の分配を実現していくことが大切である。

周知のように、白書がこうやって世の中に出るまでには、霞ヶ関村内部や永田町方面などいろいろな波瀾万丈のやり取りがあるわけですが、(昨年もそうでしたが)相当に石水色が濃厚に残った白書に仕上がっています。夏休みの読み物としての最適です。

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