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2007年8月21日 (火)

労働CSR入門

4062879069 さて、夏休みの課題図書シリーズ、今回は吾郷眞一先生の『労働CSR入門』(講談社現代新書)です。CSR、企業の社会的責任については汗牛充棟といってもいいほどたくさんの本が出されていますが、労働関係ではあまりありません。これは、日本人の関心のありかを示しているとも言えますが、本書は、これに対して相当にジャーナリスティックに危機感を煽る形で書かれています。

http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4062879069.html

吾郷先生はご存じの通り、現在の日本で国際労働法分野の第一人者です。先のハローワーク市場化テストの委員会でも、数少ない良識派として活躍されたのはご承知のとおり。かつてILOに勤務されたこともあり、労働基準を世界に広げていくことに対する強い気持ちは人後に落ちないはずですが、国際労働基準を振りかざしてアメリカ的価値観を押しつけてくる今日の労働CSRの動きに対して、この写真のオビの文句にもありますように、「アメリカが仕掛けてくるソーシャルラベリングの罠に気をつけろ!」という、まことに愛国的、憂国的な声を上げておられるのです。

>・・・以上のように、社会条項を多角的貿易枠組みの中に貫徹できなかった米国は、それと同じ効果を労働CSRによって達成しようとしていると私は見ています。そして、このことは途上国のみに向けた政策ではなく、日欧という経済ライバル(とくに労働CSRについてほとんど対応をしてきていない日本)に対しても効果があるのです。

>すなわち、国連やILOなどのような正規の国際政府間機構が定めた国際標準を無視し、自分が考える「公正労働基準」を「標準化」することによって、たとえば中国市場における日本企業の活動に制限を加えることができるでしょう。

>労働CSR問題において、米国国務省が民間機構を利用し積極的に推し進めようとしている目的は、たんにアジア地域における労働基準を高め、労働者の生命と健康を守ることだけにあるのではない、もっと大きな隠れた戦略が存在する。そう思われてならないのです。(p74)

ではどうすればいいのか。企業レベルの対応としては、こう言います。

>・・・つまり、企業行動要項を正式に掲げ、ILOその他の正式な国際法上の義務を遂行することを公約することです。得体の知れない(ちょっと言いすぎですが)NGOから基準実施を認めて貰うのではなく、自分たちはしっかりと、国際法を遵守しているということを示し、逆に相手側が依拠する認証機構の正統性を問いかけることをすれば、相手が守勢にまわるはずです。(p174)

しかし、それにとどまらず、吾郷先生は「積極的に打って出る」「日本発の国際標準を提案」せよと訴えます。

>今こそ政労使の協議の上に、「和」の精神に則った労働CSRを構築することが、日本の(アジアの)特色を生かすことになる・・・

>労働CSRにおいては政労使三者による合意と共同が重要不可欠なのです。イギリスのようにCSR大臣というものを内閣に置くまでにはならないとしても、日本でも厚生労働大臣の下にCSRを管轄する機関を設けるべきです。

一方で市場原理主義に基づき規制緩和を押しつけながら、他方で労働CSRを競争相手への戦略的武器として使おうとするアメリカに対して、「ソーシャルラベリングの罠に陥る」ことなく、労使協調に基づいて大同団結し、日本発の世界標準を構築して誤ったグローバリゼーションに呑み込まれないことが肝要という同書のメッセージは、この問題を考える上で、一つの拠り所になるでしょう。

なお、本書では必ずしも詳しく書かれていない民間団体の動き、とりわけビジネス法務の動向については、『季刊労働法』(218号)(9月刊行予定)に掲載される予定の戎居皆和「国際労働法の新たなフロンティア」が詳しく分析しています。こっちは吾郷先生ほどパセティックではありません。

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コメント

つい先日「労働CSR」を書店で手にとって、目から鱗の気持ちでした。これまで労働とCSRを解釈する本はたくさんあれど、労働組合や現に争議をたたかっている現場労働者が参考にするものは少なかったように思います。同書は、OECDガイドラインで運動している私達にはバイブルです。
また、数年前にグリーンペーパを組合で学習した際、企業の社会的責任の先進的性に驚きました。先生のご専門のEU労働法もこれから勉強していきたいと思っています。書評ありがとうございました。

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