我々としては、得意分野でやらせていただきたい
5月23日に行われた官民競争入札等監理委員会の議事録がようやく今頃になって公開されました。
http://www5.cao.go.jp/kanmin/kaisai/2007/523/070523-7.pdf
ハローワークの市場化テストをめぐる業者さんがたの本音が微妙に垣間見えていて、なかなか公表しづらかったと云うことでしょうか。
パソナキャリアの斎木経営企画室長曰く、
>就職困難者も含めてになるかもしれませんけれども、民間が得意としているところと、厚生労働省さんが得意としているところを最初から分業するという考えがあってもいいのかなと思います。どちらも同じ土俵でと考えて、確かに市場化テストはあるのかもしれないけれども、そもそもハローワークさんは昔から建設・港湾労働を中心とした現業中心に強い部分と認識しています。昨今になって、リストラという言葉でホワイトカラーの人たちが出るようになって、その人たちもハローワークに来るようになったと。一方民間は、ホワイトカラーの人たちを中心にして人材紹介とかをやっていたということを考えると、やはり得意分野が分かれるのではないかと思います。
>それぞれが得意分野を明示して、それに対してサービスを受けたい人が判断して実施していった方が、結果的に経済的に効率的ではないかというのが個人的に思うことです。今回も、市場化テストで、就職困難者も、建設労働者も、港湾労働者も、同じ土俵でというふうにどうしても考えなければいけないのかというと、そうではないような気が、私自身はしているのですけれども、いかがなものでしょうか。一緒に考えた方がよろしいのでしょうか。その辺をちょっとお聞かせいただけたらと思います。すみません。御質問の返しになってしまったのですが。逆に言うと、我々としては、得意分野でやらせていただきたいと考えているということで御理解いただけたらと思います。
誰も、民間企業に対して得意分野だけでやっちゃいけないなんて言っていないと思いますが。民間企業が自らの費用負担と危険負担で得意分野の職業紹介に専念することは誰も否定なんかしていませんよ。
どうして民間企業が自分の得意分野の職業紹介だけすることを、全額国民の税金をフルに使って、国の施設を使って、やらなくちゃいけないのかが、誰も説明して下さらないだけで。
ブライトキャリアの森下社長も負けていません。
>一般の方の就職と、そういうチーム支援といいますか、障害者の支援というものを同時にやると、やさしい方に民間は流れてしまうという部分があると思います。事業を区分するといいますか、障害者の支援は、こういう仕組みで、こういう中身です、お金はこうですと、別に出していただいて、業者は別でもいいと思います。やはり専門性を持っている会社が障害者に対しては応募してくるというように、切り分けた方がうまくいくのではないかと思っております。
ふむふむ、障害者なんていう面倒くさい奴らは我々のような営利企業とは違う「専門性を持っている会社」にでもやらせろ、と、こういうわけですな。
日本語がよく理解できないのですが、
>森下社長 現実的な姿としては、今の厚生労働省さんの案が私は一番いいと思っているのですけれども、求人開拓をあわせてやるとか、お客様が来ないときに企業を訪問して、困っている方をなるべくお世話する。つまり後ろから一緒にサポートしないと、待っていては就職はできないという部分がありますので、そこら辺をもう少し自由にさせていただき、それで就職率で競争する。そのときに、就職困難者の人まで中に入っていると、やはり混乱が起こるのではないかと思います。優先順位をどんどんつけていきますので。
というのも似たような意味なのでしょうか。
なかなかみなさま正直に本音をぶちまけていらっしゃって、市場化テストの将来がますます楽しみです。
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ハローワークの市場化テストには、そもそも出発点で無理があるのです。労働者を労働市場における商品とすれば、就職困難者は、採算のとれない商品です。売れば売るほど赤字がでる商品です。そもそも市場に馴染むものではない。官であっても、民であってもそれは同じです。
ただ、中高年フリーター等の就職困難者を就職させるコストと、彼らの存在を放置した場合の社会的リスクを天秤にかけたとき、多少のコストを払っても、就職困難者を早くに就職させた方がいい。
市場化テストは、官が実施している事業の質を下げずに、さらにコストの低減を図らなければならないものです。就職困難者や若年者のキャリア形成支援については、現時点でさえ、国として負担しているコストが十分といえない状況です。それを更に市場化テストで削減しようというのだから、民間の人間が忌避するのは当然なのです。議事録のなかで、原専門委員が「~スキル的に言うと、ハローワークもかなりの実績を上げているし、民間が特に優れているわけでないかな~」と発言しています。民間事業者に魔法の杖があるわけではないのです。
「民間開放即ち善」という時代の空気のなかで、キャリア形成支援の困難性とコストをきちんと勉強しない市場原理主義者が、甘い見通しで強引に進めてきたこの度の市場化テストです。いざ始める段になって、民間事業者の実情と本音が露呈し、当惑しているというのが正直なところではないでしょうか。
就職困難者や若年者のキャリア形成支援の実施主体は、民でも官でもよいのです。質の高い支援と、それに見合ったコストを国として負担しなければ、大量の中高年フリーターの滞留などは解消されず、大きな社会的リスクを抱え込むこととなるでしょう。
投稿: 魔法の杖はない | 2007年7月 2日 (月) 14時40分