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日本経団連の提言

日本経団連が「豊かな生活の実現に向けた経済政策のあり方」と題する提言を公表しています。「経済政策」といっていますが、内容的には労働社会政策に関わるところが大きいものになっています。

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2007/051.pdf

基本的な認識は「日本は依然として、国際的にも豊かで、また、経済的な格差も比較的小さい社会である。しかし、先行きを楽観視してばかりもいられない。少子高齢化などによる成長力の低下、就職氷河期に不安定就業化・無業化した若年者の問題など、将来に向けて懸念される課題は多い」というものです。

具体的には、「若・中年者の不安定就業化・無業化の影響」については、

>将来に向けて懸念される第2の問題は、いわゆる就職氷河期に社会に出た若年者が、不安定就業化あるいは無業化していることによる影響である。90 年代後半以降、日本経済が、かつて経験したことのない長期にわたるデフレに陥る中で、多くの企業は長期雇用をできるだけ維持するために、新卒者採用を大幅に絞り込まざるをえなかった。この時期に高校や大学などを卒業した若者の中に、やむをえずパートタイム労働者、派遣社員といった形で就業したものも少なくない。例えば、90 年代半ばから2000 年代はじめにかけて、いわゆるフリーターの数が大幅に増加している。また、同じ時期には、高校や大学を卒業してから進学も就職もしない無業者の割合も大きく上昇した。こうした傾向を背景に、いわゆるニートと呼ばれる、学校等を卒業してからも職に就かず無業でいる若者の増大が、新たな社会現象として注目されるようになった。2002 年以降、日本経済が息の長い回復を続ける中で、新卒採用への需要は劇的に改善し、バブル期並みの水準にまで達している。これと並んで、いわゆる第2新卒などの需要も拡大し、これらの結果、フリーターの数は減少に転じている。また、無業者の比率も、着実に低下している。学卒者を中心とする若年者の雇用問題は、景気回復に伴い、改善しつつある。
問題は、就職氷河期に社会に出て、結果として不安定就業化あるいは無業化した層が取り残されるおそれがあることである。実際に、フリーターの総数は減少しているが、学卒でフリーターとなる数が減る一方で、比較的年齢の高い層のフリーターはあまり減少しておらず、いまや中年フリーターが増えつつあるという分析もある。また、同様の傾向がニートにもみられる。かねてより、日本の人材育成や職業訓練は、企業などにおいて常勤者として働く中で、企業内訓練、OJT(On the Job Training)を中心に、職業能力や社会人としてのスキルを身につけるという形をとってきたが、その裏面の問題として、パートタイム労働者、登録型派遣社員といった人々の場合は、職業能力を形成する機会が十分に得られないことが少なくない。不安定就業や無業のまま、年齢を重ねれば、就職機会や処遇などの面でますます不利となることが懸念される。こうした状況を放置すれば、不安定就業化・無業化した若・中年者が低所得階層への滞留を余儀なくされ、将来にわたって、所得格差が拡大することになる。そうしたことになれば、経済力への不安が一因となって結婚になかなか踏み切れず、非婚化・晩婚化の進行を招くおそれもある。これが、少子化傾向を加速し、将来の労働力人口の減少、ひいては成長力の低下をもたらすこととなる。
また、低所得者層の子女が、所得面での制約から十分な教育を受けられないことがあれば、世代間にわたる貧困の連鎖が生じる懸念さえあり、このような事態を防ぐ必要があることは論を待たない。

「構造的な生活困窮者の増加」については、

>第3の懸念材料は、高齢化の急速な進行、経済社会の変化などを背景に、構造的な要因によって生じる生活困窮者が増加傾向にあることである。これにより、社会の中における格差が拡大、定着することが懸念される。

>日本のジニ係数は、1999 年から2002 年にかけて0.0263 ポイント上昇したが、その要因を分解すると、その約65%は人口構造の高齢化によるものであり、約25%は世帯の構成人員数が減少したことによるものである。すなわち、日本の所得面における不平等の度合いは、みかけ上増加しているが、そのうち約90%は、「世帯主の年齢構成の変化=高齢化」と、「世帯人員の変化=小規模化」によるものであり、なかでも、人口の高齢化が大きくかつ深刻な要因となっている。

>こうした構造的な生活困窮者の増大によって、生活保護の受給者が増加している。生活保護は、生活に困窮した人々の暮らしを支える最終的なセーフティネットである。被保護実人員の伸び率は、景気回復に伴い減少傾向にあるものの、いずれにしても、生活保護世帯が増加している状況は望ましいとはいえない。

そして、今後の経済政策として、「イノベーションの加速や人材の質的向上・有効活用などを通じて、人口減少下でも高い成長を実現しうる新しい「日本型成長モデル」を確立し、持続的かつ安定的な経済成長を実現すること」を挙げつつも、

>しかしながら、若・中年層の不安定就労化・無業化、構造的な生活困窮者の増加といった問題については、マクロ経済環境を良好に保つだけでは完全に対処できない面もあり、成長の果実を国民各層に広く行き渡らせつつ、全体の底上げを図っていくために、就業能力の向上や、真に必要なセーフティネットの整備などの政策をきめ細かく展開していかなければならない。

と述べ、どこぞのノー天気な成長さえすればすべてマンセー的な議論とは一線を画しています。

まず、「不安定就業化・無業化している若・中年者の就業能力向上・就業促進」については、

>このように足許で若年層の雇用情勢は大きく改善しているが、これにより、若年層の不安定就業化や無業化などに伴う問題が、全面的に解消していくわけではない。いわゆる就職氷河期の90 年代半ばから2000 年代はじめにかけて大きく増加したフリーター、ニートに代表されるような不安定就業化・無業化した若・中年層については、適切な政策対応をとらない限り、根本的な解決には至らないおそれが強い。近年、適職への再挑戦を希望している若年者が増加していることなども鑑みれば、景気回復が続いている今こそ、とくに20 代という職業人としての基礎を固めるべき年代において職業能力を向上させる機会に恵まれなかった人や、経済的な自立を目指しながらその機会に恵まれなかった人が、必要な就業能力や社会人としてのスキルを体得することができるような就労促進策を推進することが、重要な課題である。本年4月の経団連提言「官民協力による若年者雇用対策の充実について」で指摘したように、労働市場における需給調整機能の強化や、企業の採用・処遇の見直しが不可欠である。依然高水準にある不安定就業化もしくは無業化した若・中年層などの経済的自立を促し、所得や生活水準を引き上げることは、格差の固定化を防ぎ、結果として成長力の維持・強化につながる。

と述べ、

具体的には政府に対して、「労働市場における需給調整機能の強化」と「職業能力向上を通じた就労促進型のセーフティネットの構築」を軸とした対策を進めることを求めるとともに、企業の自主的な取り組みとして、

>まず若・中年者等への就労機会の提供や処遇制度を見直していくことが求められる。若・中年者に対しては、①新卒採用に偏る採用を見直し、既卒者やいわゆる第二新卒者を通年で採用する仕組みの活用、②中途採用をより容易にするため、年齢などを偏重した賃金制度から、仕事・役割・貢献度を基軸とした賃金制度への転換、③いわゆる非正規社員を正社員に登用する仕組みの整備などの点について、それぞれの企業の実情に即して自主的に見直していくことが重要である。加えて、学校教育から労働市場への移行サポートとして、企業の積極的な協力を要するものとしては、インターンシップや職業観醸成プログラムへの積極的な参画、教職員の民間企業研修への協力が挙げられる。
こうした自主的な取り組みの一環として、2007 年2月に政府が打ち出した「成長力底上げ戦略」に盛り込まれている「人材能力戦略」への協力も求められる。既に実施されているトライアル雇用制度や、2007 年度にモデル事業が開始される「実践型人材養成システム」の実施状況を踏まえつつ、多くの企業が協力できる形での「職業能力形成システム」(ジョブ・カード制度)の普及促進を図っていく必要がある。また、大学・専門学校等における「実践型教育プログラム」を開発していく際に、企業の知見を反映させることも有効と考えられる。

>さらに、より根本的な観点から、貧困の世代間連鎖を防ぐことを考えるならば、教育の果たすべき役割をより重視していく必要がある。低所得者の子女が低所得層に滞留することを防ぎ、次世代の健全な育成、機会の均等を目指すためには、家庭内において必要な学習を行う習慣づくりは当然として、とりわけ初等中等教育段階における公教育の信頼回復・機能強化は重要な鍵を握る。また高等教育については、例えば、回収の厳正化・債務保証制度の見直しを前提とした奨学金、授業料・入学金等の貸付制度の拡充をはじめ、国立大学における特別枠(学費免除)の設定、学費減免を行う私学に対する補助の拡充の検討など、経済的側面での支援を思い切って進めていくことも必要である。

と述べています。

さらに、「福祉政策の考え方」として、

>高齢者世帯、単独世帯、母子家庭などが増加傾向にあるなかで、生活困窮者に対する福祉政策は欠くことができない。なかでも生活保護制度は、資産・能力等すべてを活用しても、なお生活に困窮する者にあまねく適用される基礎的なセーフティネットとしての重要な役割を担うものである。保護の実施機関である都道府県・市は、本来保護を必要とする者が、制度に関する知識や理解が不十分なこと、あるいは、手続きが煩瑣であること等の理由で、保護の網から漏れることがないよう、細心かつ的確に制度を運用していくことが望まれる。しかし、生活保護の目的は、あくまで最低限の生活を保障するとともに、自立を助長するものでなければならない。生活保護が自立自助の意志を減殺し、「貧困の罠」となることはなんとしても避けなければならない。したがって、被保護者の経済的自立を促す施策をさらに充実させていくべきである。このため、生活保護基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえて見直しを行うとともに、勤労可能な世帯に対しては、収入の一部を手元に残す勤労控除について、基礎控除、特別控除、新規就労控除等のあり方を見直し、より就労インセンティブが働く仕組みにしていく必要がある。
あわせて、先に述べた職業能力の向上や、地域における若者支援の拡充といった雇用・労働政策、地域の雇用創出を目指した地域活性化政策等を総合的に活用し、構造的な生活困窮者を減少させることができれば、その結果として、格差の固定化の防止にも寄与していくと考えられる。

と、明確にワークフェア的な思想を打ち出しています。

一方、社会保障制度については、「社会保障制度を通じた再分配政策は、所得格差を是正する機能を有するが、その反面、社会保障制度を維持するためには、大きなコストを要することを忘れてはならない」「それが過大に行われることにより、国民負担率が上昇すれば、経済成長が阻害され、その結果として、国民の生活水準を低下させ、また、既にみてきたように、かえって種々の経済的格差の解消にマイナスの影響を与えかねない」と釘を刺し、

>したがって、公的年金・医療・介護など、国民生活のセーフティネットである社会保障給付を、経済の身の丈にあったものにしていくことで、さらなる国民負担率の上昇を回避していくことが重要である。

>適切な再分配機能を維持しつつ、社会保障給付を真に必要とされるセーフティネットにできる限り絞り込むことを通じて、社会保障給付総額の伸びを、少なくとも人口の高齢化の進展を踏まえた経済成長率(高齢化修正GDP 成長率)程度に抑制すべきである。

と主張しています。

最後のところで、こう述べているのは、日本経団連の立ち位置をよく示していると思われます。

>生活困窮者の増加を防ぎ、低所得者層が世代を越えて固定化されないようにすることは、それ自体重要な政策目標のひとつであり、そのために雇用・労働政策の強化、教育・人材育成の充実、社会保障・福祉政策の効率的・重点的実施など、総合的な手立てが講じられるべきである。そのために経済界も、応分の責任を果たしていかなければならない。
しかしながら、格差是正を重視するあまり、行き過ぎた再分配政策が行われれば、努力と成果の享受の関係が不明確になり、勤労意欲やリスク挑戦的な企業家精神が殺がれることになる。同時に、社会保障や税などの国民負担が上昇すれば、かえって成長が鈍化するおそれが強い。このように国の活力が失われるなかで、結果として「貧困の中での平等」は達成されるかもしれないが、それは多くの国民が望むことではない。

>、いま求められているのは、経済政策における軸足の転換である。さらなるグローバル化や人口減少という大変化のなかで、豊かな経済社会としての地位を維持していくためには、何よりもまず、結果の「平等」に過度にこだわるのではなく、「公正」に重きを置きながら、個人の努力や勤労の価値を何よりも尊重することを通じ、経済の成長力の強化を図っていく必要がある。同時に、必要なセーフティネットを効率的に維持し、国民生活の安心を確保することが求められる。

経営者側の政策アジェンダとしてみれば、大変よくバランスのとれたものになっていると思います。これと労働側や消費者など一般国民側の意見とがさらにバランスされることによって、(「公正」すら目の仇にするような一部のへんてこりんな連中のかけ声に踊らされるよりはよっぽどまともな)政策が実現していくでしょう。

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