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2007年5月22日 (火)

OECD雇用見通し2006の最低賃金論

新聞各紙は規制改革会議が最賃を批判したというところに関心を集中しているようなので、世界の優秀なネオリベ系エコノミストを集めたOECDの最新の『雇用見通し2006』でこの問題をどう取り上げているかを紹介しておくのも無駄ではないでしょう。優秀なエコノミストの皆さんはもちろん「初等ケーザイ学教科書嫁」で話を済ませたりはしません。

http://www.oecd.org/document/38/0,2340,en_2649_37457_36261286_1_1_1_37457,00.html

86ページ以下でで最低賃金を論じていますが、

>単純な経済学の理屈は、法定最低賃金や高すぎる労働コストが低生産性労働者の雇用への障壁になると指し示す。しかしながら、最低賃金の結果としての雇用喪失の規模を図ることは困難であると証明され、各国で設定されている最低賃金によってどれだけの仕事が失われたかについては顕著な不確実性がある。実際、最低賃金の雇用に対する否定的な影響の経験的証拠は入り混じっている。・・・

>最低賃金は低技能者にとって仕事が引き合うようにする(make work pay)ことによって高労働力率をもたらしうる。しかし、それは広い貧困対策においては、過度に高い水準に設定することを避ける必要から、支援的役割のみを果たしうる。もう一つの重要な限界は、最低賃金で働く労働者が貧しくない(他の家族メンバーが働いているから)ことである。

>在職給付は最低賃金よりも低所得家族に焦点を当てることができる。さらに、穏当な最低賃金は、使用者が賃金水準を下げることによってこの給付を着服することを制限することによって、在職給付への有用な付加になりうる。

>最低賃金について重要な問題は税制との関係である。高すぎる最低賃金は雇用へのタックス・ウェッジの否定的な影響を拡大するからだ。低生産性労働者を雇用しようとする使用者は、労働者の生産性と最低賃金額と使用者が払う社会保険料を比較する。・・・

>(結論として)近年の経験が示唆するところでは、穏当な最低賃金は問題ではない。しかし若者や他の脆弱な集団の(最賃より低い)特例最賃への十分な手当が不可欠である。他の洞察は、良く設計された最低賃金が社会給付にとどまるよりも働く方がペイすることを保障することによって、高い就業率にむけた広範な戦略に貢献するという点である。しかしながら、否定的な政策の相互作用による危険性もまた確かであり、特に高すぎる最低賃金と高水準の労働課税の間にそれが見られる。

この他にも本書にはいくつか最低賃金に言及したところがありますが、近々樋口美雄先生の監訳で明石書店から出版される予定ですので、そちらのよりすぐれた翻訳でお読みいただいた方が宜しいかと思います。

いずれにしても、経済学の知見に基づき労働問題を分析するというのはこういうレベルのものを言うのだなあ、ということがよく分かる本です。政府の中枢機関の政策文書が「初等ケーザイ学教科書嫁」で済んでしまう極東の某国とはちょっと違いますなあ。

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コメント

お久しぶりです(この欄では)。
規制改革会議の提言にはがっかりしていましたが、こういうのがあってうれしいです。
在職給付というのは、tax creditのようなものが念頭にあるのでしょうか?
いま最低賃金制度と税制、失業補償、生活保護について、経済学の理論とは違った視点で、立論できないかと試行錯誤しています。いろいろとご教示いただければ幸いです。

こちらこそ。
イギリスで云うタックスクレジットが一つのモデルでしょうね。
「最低賃金制度と税制、失業補償、生活保護について、経済学の理論とは違った視点で、立論できないか」
期待しています。今までの法学サイドが一番弱いところですからね。

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