麻酔科医師の過労死判決
去る3月30日の大阪地裁判決、大阪府立病院事件の判決文が最高裁のHPに載っていることに気がつきました。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070416181038.pdf
どういう事件かというと、新聞記事はこちら。
http://www.sankei-kansai.com/01_syakai/sya033104.htm
興味深いのは勤務実態の判断のところです。超過勤務報告書は信用できないと言っているんですね。
>夜間勤務等命令簿は超勤報告書に基づいて作成された資料であるが,超過勤務に対する手当に充てる財源の制約から,適宜,実態と異なる記載がされていたと認められるので,その信用性は低く,到底Eの時間外労働時間を推認する資料たり得ない。
>超勤報告書とは,麻酔科に在籍する医師及び技師の超過勤務についての事務局への報告書であり,各麻酔科医がG医師に時間外勤務として申告した時間数を基礎として作成されていた。各麻酔科医は,麻酔を施術している時間や診療している時間以外の府立病院内にいる時間を超過勤務として申告することに抵抗があったことや,上記のとおり財源からの制約があったことなどから,実際に超過勤務していた時間に比して過少申告する傾向があった。例えば,麻酔台帳に基づいて作成されたF部長作成の発症前の勤務状況に関する事項と題する書面によると,平成8年2月27日は午前12時から午後9時20分までEが緊急麻酔を施術したとされているが,超勤報告書上は1時間の超過勤務とされており,実態に合致しないし,麻酔科においては毎朝午前8時から1時間の時間外勤務が行われていたにもかかわらず,超勤報告書にはゼロと記載されている日が少なくなく,また,各医師の超過勤務時間の数値が一致している日が多いなど,超勤報告書には不自然な部分が多い。
以上からすると,超勤報告書は麻酔科医の時間外労働時間をおよそ正確に反映しているとは認められず,その信用性は低く,Eの時間外労働時間を推認する証拠としては採用できない。
ここには、財源の制約から超過勤務手当を申告しづらいというゼニカネの問題が、実際の超過勤務を水面下に隠してしまって結果的に医師の健康を危険にさらすまでにいたってしまうという問題点が出ています。残業代のピンハネとか何とか詰まらんこと言って人が死んでしまってはどうしようもないはずですが。
もう一つ、極めて興味深いのは宿日直についての判断です。
>前記のとおりEが死亡する直前3か月においてEは12回の宿直6回の日直を担当しているが,そのうち麻酔が必要とされる緊急手術が行われたのは,12回の宿直中5回(平成7年12月3日,同22日,平成8年1月3日同19日同年2月17日6回の日直中3回平, , ), (成8年1月27日,同2月10日,同17日)で,およそ2回に1回弱の割合である(日直,宿直を連続して行っている日に午前9時及び午後5時45分をまたいで行われた手術については,日直,宿直それぞれで1回と数えた。また,緊急手術の麻酔以外に,宿日直の主な業務と。)して,ICUにおける患者の集中治療,院内患者の突発的な生命の危機の際の救命処置があり(甲18・275頁,特別の緊急事態でない場)合であっても,看護師が医師の判断を尋ねるべく,宿直,日直医師へ連絡をとることが多く,宿直の際に連続して睡眠をとることは難しかった(I医師・19頁。宿直の際の睡眠時間について,I医師は「1日あ)たり4時間とか,あと2時間,2時間,2時間という感じもとれるかもしれませんけれど,それは日によって違います(I医師・12頁) 。」と証言し,F部長は「3,4時間は。徹夜のときももちろんあるわけですけれども,そうでなければ3,4時間ぐらいはあると思います(F 。」部長・33頁)と証言している。
以上からすると,宿直時には徹夜になることもあり睡眠時間は平均すると概ね4時間程度しかとることができず,日直についても,通常の平日の勤務と同程度の負担があったものと認めるのが相当である。重症当直については,そもそも患者の容態が重篤である等の理由によって,正規の勤務時間を超えて深夜に及ぶ経過観察や診療に従事する場, , 合をいうのであり一般にそのまま泊まり込んで担当患者の急変に備え必要に応じて当直医の支援にあたるものである以上,宿直と同様の負担があるものと認めるのが相当である(甲18・236頁。)そして,前記のように負担の大きな宿日直,重症当直を,Eは平成7
年4月から死亡する直前月の平成8年2月まで,月平均で日直を1.9回,宿直,重症当直を7.5回行っていた。
「宿直時には徹夜になることもあり睡眠時間は平均すると概ね4時間程度」というのはひどい状態ですね。ところが、日直の時間は労働時間にカウントされていますが、宿直の方はカウントされていないように読めます。
>以上から,Eが出勤した日の労働時間は午前8時から午後9時までの13時間から休憩時間45分を控除した12時間15分と認め,日直の労働時間は午前9時から午後5時45分までの8時間45分から休憩時間45分を控除した8時間と認めた上,1週間あたり40時間を超える部分を時間外労働と認める。
宿直時間については、
>前記のとおり,Eの時間外労働時間は長時間に及び,平成7年9月から平成8年2月までの1か月あたりの時間外労働時間は,いずれも88時間を超え,量的な負荷は大きく,また,本件業務の主たるものは人の生命や身体の安全に直結するものであり,質的な負荷もまた,極めて大きいものであったというべきである。
さらに,前記のとおり,平成7年4月から平成8年2月までの間,1か月平均で1.9回の日直,7.5回の宿直及び重症当直を担当しており,特に宿直及び重症当直においては,その負荷は肉体的にも精神的にも大きかったというのが相当である。
という記述からすると、時間外労働の外枠として考慮しているようです。このあたりについては、そういう判断でいいのか疑問が残るところでしょう。
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