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2007年1月29日 (月)

ベースアップとは何か

野村正實先生が、今年の夏に出版される予定の『日本的雇用慣行』の中の補論「昇給と「ベースアップ」」をホームページの「研究の周辺」にアップされています。

http://www.econ.tohoku.ac.jp/~nomura/periphery.htm#070124

>報道によれば、今年のいわゆる春闘では、景気の回復にともなって組合側は「ベースアップ」を要求し、会社側は、「ベースアップ」はしない、従業員には賞与で報いる、と答えている。しかし、「ベースアップ」とは何か。「ベースアップ」について、社会的に合意された定義は存在しない。もし期末試験で、「ベースアップとは何か、ベースアップと定期昇給との違いを述べよ」という問題が出されたら、「ベースアップについて社会的に合意した定義は存在しない。したがってベースアップと定期昇給との区別もわからない」という解答が正解である。

以下は、占領下におけるベース、ベースアップという言葉の誕生以来の動きを丁寧にフォローして、それが如何に混乱の極みにあるかをたいへんわかりやすく説明しています。

まとめのところを引用すると、

>1947年に、「平均賃金」という意味で「ベース」という用語が使われるようになった。ところが「平均賃金」の計算方法は一義的ではなかった。「平均賃金」の計算方法は二つあり、まったく異なっていた。・・・
会社内組合は、「ベース」の引き上げを要求した。「ベース」の引き上げが、1950年から「ベースアップ」と呼ばれるようになった。したがって「ベースアップ」は、いくつかの賃金項目を除いた賃金総計を従業員総数で割った「平均賃金」を引き上げること、あるいは、「平均的従業員」の賃金という意味での「平均賃金」を引き上げることを意味した。

>1954年に、中労委の電気産業争議にたいする調停案を契機として、以上のような「平均賃金」引き上げとはまったく異なる「ベースアップ」概念が二つ登場した。いずれも日経連の提唱である。
 一つは、「経営的基礎の有無に拘わらず全員一律に労働者の生活水準向上のために行う賃金増額」が「ベースアップ」だとする定義である。
 もうひとつは、「賃金基準線」を引き上げる賃上げが「ベースアップ」、「賃金基準線」を維持したまま個別従業員の賃金を引き上げるのが昇給である、とする定義である。
日経連の提唱した「ベースアップ」=「賃金基準線」の引き上げという定義のコロラリーとして、「ベースアップ」=賃金表の改訂という定義が誕生した。この定義は、1980年代から普及しはじめ、わかりやすため、今日もっとも有力な定義となっている。

>それでは、流布している多様な「ベースアップ」概念のなかで、会社は実際にどのような意味で「ベースアップ」という用語を使っているのであろうか。これはわからない。それぞれの会社が、それぞれ勝手に「ベースアップ」を定義し、「ベースアップ率」や「ベースアップ額」を発表している。

>「ベースアップ」という用語は、混乱した概念の積み重ねであった。そして近年、さらに混乱を重ねる事態が生まれている。バブル崩壊後の不況が長引き、会社側が「ベースアップ」の余裕はまったくない、という強い姿勢を打ち出す中で、組合側が「賃金体系維持分」、「賃金改善分」というあらたな造語をもって賃金交渉にのぞむようになった。このような用語は、「ベースアップ」概念をさらに混乱させている。
 こうしたアナーキーな状況を前にして、私は、「ベースアップ」を定義することは不可能であり、「ベースアップ」という言葉を使う限り、概念の混乱は不可避である、と思わざるをえない。「ベースアップ」という用語は、廃語にすべきである。

実を言うと、私自身も最近、中国中央党校の方々に「日本の賃金決定メカニズム」についてお話しする機会があり、その中で「定期昇給とベースアップ」という項目もあるんですねえ。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/chugokutoko.html

私の説明は、定期昇給とベースアップを対立させるものではなく、むしろ「日本の賃金制度は職務とは切り離された年功賃金制度であり、定期昇給制によって上昇していくのですから、団体交渉の目的はこの定期昇給時の引上げ額を高めることに向かいます。しかし、個々の労働者の賃金額がここで決まるわけではありません。日本以外の社会では団体交渉によって賃金の水準が決定されるのですが、日本の団体交渉で決めているのは企業の人件費総額を従業員数で割った平均賃金額(ベース賃金)の増加分(ベースアップ)なのです。従って、個々の労働者の賃金額がどうなるかは、人事査定に委ねられています」と、それが平均でしかない点を強調するものになっていますが、歴史的に両者が対立的に使われてきた点を考えれば、やはり正確な記述ではありませんね。

野村先生の文章を読むたびに、労働関係の概念のいい加減さが身に沁みます。

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