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宮本光晴先生の議論

連合総研の「DIO」最新号に、宮本光晴先生の「日本の格差問題・雇用問題にどう対処するのか」という講演録が載っていますが、あまりにも私の問題意識と近いので、改めてびっくりしました。

http://www.rengo-soken.or.jp/dio/no212/hokoku_2.htm

最初に『ニッケル・アンド・ダイムド』という本の紹介からはいって、

>時給8ドル以下、あるいは時給1,000円以下の仕事をなくすることができるかといえば、難しいという以外にありません。貿易財として取引しているわけでもないのに時給において見事に符合することに、ある意味で感心するのですが、規制をなくせばグローバルに均一の世界が成立する、ということかもしれません。少なくとも下層というか、弱い部分においてはそうかもしれません。

>時給8ドル以下の仕事、時給1,000円以下の仕事をなくすことができないのであれば、問題はこれを誰が行うのかということに帰着する、と考えることもできます。外国人労働者を利用すれば、確実に格差社会です。この問題に関してこれまでわれわれがあまり深刻に考えてこなかったわけは、これらの仕事は、世帯主がいたうえで、40代、50代の家庭の主婦や、若年層においては学生や、あるいは家事手伝いの者が補助的に行う、という形になっていた。そのために時給8ドル以下や時給の1,000円以下の仕事の深刻さは表面化しなかったのだと思います。

>要するに時給1,000円以下の仕事は時間としてのパートというよりも、仕事としてパートであった。メインは家事であり学業であった。学生の場合、メインは遊ぶことかもしれませんが。それはともかく家事や学業を支えるためにパートやアルバイトの仕事を行う、こういうことであればよかったわけですが、そうではなくなった。時給8ドル以下や時給1,000円以下の仕事を文字通りフルとしてやらざるを得なくなっている。それは親がなくなった、あるいは親から離れた派遣の若者かもしれませんし、離婚した女性かもしれません。いずれにせよ、時給1,000円で2,000時間働いたとしても年に200万ですから、ワーキング・プアの問題となるわけです。

これは、私がこのブログで「パートっていうな」で述べた内容ですね。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/02/post_e4de.html

>ではどうすればいいのか。おそらく3つあるいは4つ考えられると思います。第一は、最低賃金の問題を含めて市場のルールをどのように整備するかということです。第二は、非正規の正規化をどう図るのか、第三は、正規、非正規の区別自体をなくして短時間正社員化をどう図るのかということですが、第四としては、あまり評判がよくないのですけれども、家計補助パートの利点を認めるということです。どのようにやったとしても時給8ドル以下あるいは時給1,000円以下の仕事は残らざるを得ないわけですから、それをフルとしてやるわけでなく、パートとしてやるためのいろいろな条件を整えるほうが、現実の解決法としてはいいのでないかと思うわけです。

宮本先生は、安直に日本型雇用システムを破壊すべきだというたぐいの議論には疑問を呈します。

>日本の雇用システムに関して正社員モデルという表現がありますが、その一つは世帯主モデルといいますか、家族を支えるための処遇を図るというものですね。この拡張として、世帯主プラス家計補助パートのモデルがあるわけです。家族を単位にして教育費とか住宅ローンとかさまざまな出費が不可欠になってくる。そこで家庭の主婦が家計補助パートに出かける。先に、第四の方法として言ったことですが、あくまで目的は家族であるという意味で、あえて言えば時給1,000円以下の仕事の安定的なモデルがあった。ひょっとすれば時給1,000円以上の働きをしているかもしれない。このためにはいわゆる103万や130万の壁が必要です。しかしこれは不公平だ、主婦であるという理由で家計補助パートに閉じ込めるのはけしからん、連合の方針もこうだと思いますが、男女共同参画社会といった観点から、時給8ドル以下や時給1,000円以下の仕事を引き受ける最も安定的なモデルが非難されるわけです。私自身は格差社会に対処するためにも、世帯主プラス家計補助パートのモデルを壊す必要はないと思うのですが、これについて話すと切がありませんので、これでやめにします。

とはいえ、

>2番目の正社員モデルは、中高年の雇用維持です。先の世帯主プラス家計補助モデルも世帯主の雇用維持が前提となります。そのためには雇用調整を行うとしても、基本的に新卒採用を抑制する。確かにこの結果がニート、フリーター問題となるわけです。今のところ彼らの時給1,000円以下の仕事は、親の下で成り立っています。親の雇用を維持する代わりに、子供の雇用は派遣や業務委託など、非正規のものになるということですが、親はいつかはいなくなるわけですから、このとき大量のワーキング・プアの出現となる。

>この意味で、正社員モデルがニート、フリーター問題を生み出しているという指摘は、確かにそのとおりです。

しかし、だからといって、正社員モデルを壊せばいいわけではありません。

>確かに日本の雇用システムのジレンマとして、正社員を中心に置く限り、そのしわ寄せはすべて非正規に向かうということがあります。だから、この問題を解決するためには、正規、非正規という区別をなくしてしまえばいい、区別をなくせば格差もなくなる、という議論もあります。議論が本末転倒しているといいますか、確かに正社員モデルを作るために、非正社員を利用したのですが、非正社員の問題を解決するために正社員モデルを破棄することは、解決にはならないと思います。というよりも、正社員モデルは企業の選択ですから、壊しようがないわけです。

もう一つの問題点は、人材養成機能の問題です。

>もう1つ、非正規雇用から正規雇用への転換を図るべきということがあります。確かにこれも日本の雇用システムのジレンマです。先に述べましたように、定型的業務の部分を正社員モデルに包摂することができなくなって、これを外部化したわけですが、これを再度内部化することは難しい。ただし非正規雇用を外部化されたままに放置することはできないことも明らかです。日本の雇用システムの最大のジレンマは、正社員として雇用を獲得しなければ技能形成の機会がないということです。

>例えば雇用政策として、日本は失業給付といった消極的な雇用政策しかない。これに対してEUでは、職業教育訓練を中心とした積極的雇用政策が主流となっている、ということがしばしば指摘されます。確かにそうですが、これもまた仕方のないことです。つまりEUと日本の間には、雇用の前に職業訓練をやるようなシステムなのか、それとも雇われてから職業訓練、技能形成をやるようなシステムなのか、という違いがある。雇われる前に職業訓練を行うようなシステムがちゃんと確立されているのであれば、積極的な雇用政策がうまく機能しますが、しかし日本の場合にはその前提となるシステム自体が存在しない。逆にいえば、正社員の雇用に就く前にちゃんと職業訓練を行い、そして正社員の道を開けるような、そういう制度が本当につくれるかどうかだと思います。

では、望みはないのかというと、宮本先生が希望を託すのは中小企業です。

>格差を解決するためには、能力形成が不可欠であることは間違いないと思います。まったく大雑把な話になりますが、能力形成の場といった場合、おそらく製造業の大工場では国内において正社員が増えることはない。

>この間、川崎市で収益性が一番いい産業は、1つは自動車です。もう1つは鋳造や鍛造や金属加工といった分野です。文字通りもの作りの現場ですが、そういうところにヒアリングに行くと、非常に面白い。びっくりするほど若い人が多い。大田区でもそうですが、生き残ったもの作りの中小企業は、本当に強い中小企業だと思います。

>そういうところでは、若い人を雇うことに非常に意欲的です。その職場は確かに3Kに近いかもしれない。汚いはありません。非常にきれいというか、清潔です。きついことは間違いないけれども、若い人を雇い、見事に現場での技能形成をやっています。もの作りは人作り、ということが実感できます。最初に話しました、若年層におけるフリーターや非正規雇用の問題に戻りますと、ハイテクの大工場で派遣として働くのか、それとも中小のもの作り現場で働くのか。こういう選択に対して、後者の選択に向けて社会的に教育していく必要があるのではないかと思います。

それに対して、対人サービス分野はむしろメインじゃない仕事としてやる旧来のパート、アルバイト型モデルを提示しています。もっとも、その主たる担い手は高齢者のようです。

>それからもう1つは、対人サービス分野です。これもまた最初の話に戻りますと、これをメインの仕事としてやるとなると、正社員化や、短時間正社員化や、あるいは最低賃金の問題となります。そうでなく、パートとしての仕事、例えば定年退職をした、あるいは親や夫や家族を基盤とした上で、パートとしてやる、そういう潜在的資源はもっとあるのではないかと思います。

>とくに、対人サービスの分野は、これから膨大に退職する高年層が持っている社会的スキルが非常に大きく活用できると思います。もっとも、40年間、組織のなかでがんじがらめになって、対人スキルが枯渇してしまったという人も結構多いかもしれませんが、一般的にいえば非常に高いレベルの社会的スキルを持っているわけであって、パートの仕事として十分に利用可能であると思います。

これまた、かつてこのブログで私が書いたことと見事に響き合っていて、とても力強い思いがします。

http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2006/03/post_ec1b.html

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