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2006年12月 7日 (木)

民主党の労働契約・労働時間法案

昨日、民主党が「民主党のめざす労働契約法案と労働時間法制」を公表し、今日から12月20日までの2週間にパブリックコメントを求めるということです。

http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=9337

具体的な法案の中味はこちらにあります。

http://www.dpj.or.jp/news/files/roudou061206(2).pdf

労働契約法案の方は、昨年10月に連合総研が出した「労働契約法試案」に概ね沿ったものになっています。それに対して、労働時間法制の方は大変興味深いことに、私が繰り返し主張してきたEU型の休息期間規制が、この手の政治的文書としてははじめて盛り込まれています。それで、労働契約の方はちょっと後回しにして、労働時間法制の方から見ていきましょう。

結論から言うと、問題意識も政策の方向性も実に正しい。ただ、具体的な施策に難があるというところです。

まず「労働時間規制の必要性」ということで、「労働時間の規制は、働く人の自由時間の確保、すなわち一人の人間として、心身の健康と人間らしさを取り戻し、生活の質を向上させ、心豊かな人生を送るために本質的な課題である。ところが、この労働時間の規制の重要性が日本においては正社員を中心に過度に軽視されており、人間の尊厳どころか、睡眠や身の回りの用事、食事など、身体を維持していくために必要な時間すら確保できないような長時間労働があたりまえとなっている。これでは労働者の自己実現や能力発揮はおろか、仕事の生産性の向上につながるはずがない。労働時間と労働者の健康は密接に結びついている。日本経済にとっての貴重な人材が、長時間労働、ストレス、メンタルヘルスや過労死・過労自殺などにより枯渇するようなことがあってはならず、民主党は働くすべての人が安全で安心して働ける社会にするため、健康・安全配慮義務、労働時間管理の重要性を訴えてきた。」「「自律的な働き方」、「自由度の高い働き方」等、聞こえの良い言葉の裏には過酷な労働が隠れている。労働基準法でいう管理監督者に一定の職務権限は与えられているというものの、同じ「人」である。どのような立場で働こうが、民主党は働くすべての人が、安全で安心して働ける社会風土の醸成に取り組んでいく。」と基本的哲学を述べています。この部分には文句はありません。労働時間規制はまさに健康確保が目的なのです。

そこで「心身の健康を確保できる働き方」という実に正しい標題のもとに具体的な施策が並ぶのですが、なぜかその一番最初に「時間外労働の割増賃金の割増率の引き上げ」というのがきてがくっとします。「仕事から解放され自由に過ごせる時間に労働の命令をするのであれば、時間の価値に見合う賃金を払うのは当然のことであり、時間外労働させた場合の割増賃金の割増率を例えば5割に引き上げてはどうか。」というのですが、労働者の健康をあれだけ重要だと言っておいて、カネを払えば健康を害してもいいというのも妙なものですし、何よりも割増率引上げが時間外労働へのインセンティブになってしまう危険性が意識されていないところに問題がありましょう。まあ、時間外対策といえば、打てば響くように割増率の引上げといいたがるのは厚生労働省当局も全く同じなので、民主党だけ責める筋合いではありませんが、そろそろこういう割賃信仰から脱却して欲しい気がします。

次が「管理監督者の定義の明確化」で、「現在の労基法の運用は、本来の労基法上の管理監督者ではないいわゆるスタッフ職等グレーゾーン労働者についても、管理職と同様の処遇を受けているといった理由で管理監督者として取り扱い、労働時間規制を適用除外にしている。管理監督者については法律上の文言、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」という法制定時に想定していた本来の範囲に戻し、この人たちに対してのみ労働時間規制を適用除外とすることを明確にしてはどうか。」と述べています。労働基準法の在り方としてはもっともな議論です。この点だけとれば賛成です。しかしながら、なぜ今までこういう取扱いをしてきたのかという問題意識がないのは問題でしょう。本来の管理監督者でないいわゆる日本型雇用管理制度における管理職クラスの人々は、確かに物理的労働時間管理を外すのはふさわしくない人々であるには違いないが、時間外手当を払わなくてもいいという意味での事実上のエグゼンプションの対象にふさわしい人々であり、まさにそういう意味において労働者側が納得する形で(本来の管理監督者ではないが、管理職としての処遇に基づいて)エグゼンプトとして扱われてきたわけであって、その受け皿なしにただ排除してみても、却って労働者側内部に矛盾対立を生じさせることになりかねないのです。では、そのエグゼンプトはどうなっているかと見ると・・・。

「健康確保のための労働時間管理に実効性がない以上、自律的ないし自由度の高い労働にふさわしい制度と称される、いわゆる日本版ホワイトカラー・エグゼンプションの導入はありえないのではないか。」

うーーん、これはどういう意味なんでしょうか。エグゼンプションの導入に反対という意味なのか、健康確保のための実効的な労働時間管理があればエグゼンプションの導入に賛成という意味なのか。

朝日の記事は「ホワイトカラー・エグゼンプションは「残業代の不払いを正当化し、健康確保を軽視する。導入はありえない」と強調している」と、反対論だという理解ですね。

http://www.asahi.com/politics/update/1207/005.html

しかし、私の目には上の文は条件法で書かれているように見えます。その証拠に、そのすぐ後に「健康確保措置として、使用者は「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80時間程度を超えた場合には、対象労働者に対して医師による面接指導を行うこと」とし、それに基づいて労働時間の制限や休養、療養といった措置を実施することとしてはどうか。」とあります。これは、厚生労働省の素案でエグゼンプトに義務づけられる健康確保措置ですね。もちろん、文脈上これは「健康確保のための労働時間管理」という項目の一つなのであって、エグゼンプトを前提にしたものではないとも読めますが。

そして、このすぐ後に「退社時間から最低11時間経過しないと、次の勤務についてはいけないことを趣旨とする「1日11時間の休息」を規定してはどうか。」という休息期間の提案が出てくるわけです。

少なくともこの文書の上では、エグゼンプションが「残業代の不払いを正当化」するからけしからんと明確に主張しているところはないように見受けられます。むしろ「健康確保のための実効的な労働時間管理」があれば、時間外手当の適用除外制はありうべしと、暗黙のメッセージを示しているように見えるのですが、どうなんでしょう。

ただ、少なくとも、国民に案を示してパブリックコメントを求めるという以上は、その辺が曖昧模糊としているのはいかがなものかと思います。朝日の記事を見て、「そうだ、そうだ、残業代不払いを正当化するエグゼンプションなんか反対だ」という意見がどっと来たら、それは民主党案に対する賛成ということになるのでしょうか、ならないのでしょうか?

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コメント

労働時間の長さと消費性向の相関て知ってますか?負の相関があるなら素人マクロ基地外で需要サイドのことしか言わない人たちも労働時間規制に賛成するのでは?労働時間短縮⇒消費性向アップ⇒個人消費増加⇒国内需要増加。

投稿: 質問 | 2006年12月 7日 (木) 23時51分

その論理は、今から15年以上前に、労働省が時短の旗を振っていたときによく使いました(私も担当者の端くれでした)。あのころは時短は内需拡大のための政策という位置づけだったんですね。ところが、そういうケインジアンっぽい論理はどんどん通用しなくなっていったような気がします。
素人マクロ基地外云々はよく分かりませんが、これこそ需要サイドのマクロ経済学ではないかと思いますが。まあ、ネットリフレ派というのはいかなる意味でもケインジアンではないそうなので、別に矛盾もないのでしょうけど。

投稿: hamachan | 2006年12月 8日 (金) 09時37分

仏に念仏のような話で失礼しました。15年前だとバブルの頂点のような時期ですね。今のほうがより重要性が増している論理ではないでしょうか。前に労働厚生政策をミクロ政策と書いておられた記憶がありますが、ケインズ的なマクロ政策であると胸を張って言ってもらいたいですね。

投稿: 質問 | 2006年12月 8日 (金) 15時29分

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