労働側の武器放棄
関与権としての労働基本権ということを言ったので、ついでに先月22,23日のエントリーで触れた労働契約法制の問題にも言及しておきます。
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/siryo/pdf/20061122.pdf
11月21日に提示された「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(素案)」では、9月案ではなお検討対象として残っていた過半数組合との合意による就業規則変更のルール化が落とされてしまいました。ここでは「合理的な労働条件を定めて労働者に周知させていた就業規則がある場合には、その就業規則に定める労働条件が、労働契約の内容となる」とした上で、就業規則の変更による労働条件の変更について、その変更が合理的なものであるかどうかの判断要素として、①労働組合との合意その他の労働者との調整の状況(労使の協議の状況)、②労働条件の変更の必要性、③就業規則の変更の内容、を挙げるにとどまっているのです。
①がどの程度の判断要素とされるかも裁判官の判断に委ねられるということでしょうから、過半数組合が同意しているかどうかはなんら決定的要件とはならず、現行判例法理を超えて手続的法的安定性を確立しようとした契約法研究会報告の精神はほとんど失われてしまったといえます。
このような結果になった原因としては、分科会の席上で労働側から「過半数組合の合意があるだけで合理性があると本当に判断できるのか。労働組合はどのようにすれば非組合員の意見まで集約できるのか分からない」とか「就業規則の変更の合理性を推定するために過半数組合を利用するのは安直すぎる」といった反論があったためでしょう。しかしながら、労働組合運動の立場からしても、過半数組合に就業規則変更の合理性判断への関与権を与える方が望ましいのか、与えない方が望ましいのかについて、きちんとその利害得失を議論した上での結論とは思えないところがあります。
もっとも、同素案は「労働基準法第9章に定める就業規則に関する手続が・・・変更ルールとの関係で重要であることを明らかにする」と、過半数組合又は過半数代表者からの意見聴取を合理性判断に関連づけてはいます。しかしながら、いうまでもなく意見聴取は意見聴取に過ぎず、労働組合側に「合意しなければ合理性が推定されないぞ」という交渉上の武器を与えるものではありません。労働側は、自分からあえてこの武器を行使しうる可能性を放棄したものといわれても仕方がないのではないでしょうか。
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