自由度の高い働き方にふさわしい制度
朝日の記事に、今日の労政審労働条件分科会に提示された素案が載っています。
http://www.asahi.com/life/update/1110/008.html
事前リークらしく、現時点ではまだ厚労省のHPにも連合のHPにもものは載っていませんが、おそらくこういう中身で提示されたんでしょう。
詳しい分析はものが出た段階で改めてやりたいと思いますが、とりあえず何点か。
まず、名称が今度は「自由度の高い働き方にふさわしい制度」だそうです。「自律的」が消えたのは結構ですが、こっちも大してニュアンスは違わないですね。そういう問題じゃないと何回言っても、そういう問題にしてしまうんですね。
ただ、名称はともかく、制度設計にはいささか工夫の余地らしきものがあります。そもそもこの制度は「時間ではなく成果に応じて賃金を支払う制度で、対象者は残業代の規制から外れる」と書いてある。素案の表現がどうなっているのかよくわかりませんが、もしこういう表現であるのなら、それは正しい方向でしょう。また、対象者として、「(1)労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事(2)業務上の重要な権限や責任を相当程度伴う地位にある(3)年収が相当程度高い――などの条件を列挙。具体的な年収水準は、素案段階での明示は見送り、今後の労使の協議に委ねた」と書いてありますが、これも適切な基準でしょう。
さらに、「同制度には過労による健康被害を懸念する声が強いことから、対象者の休日を週2日以上とすることを企業に義務づけ、適正に運営しなかった企業には改善命令や罰則を科すなどの内容を盛り込んだ」ということです。健康確保が大事だという発想は正しい方向ではあるのですが、しかし、考えてみると、これって変な話です。だって、エグゼンプトじゃない普通の労働者の法定休日は週1日なんですよ。普通の労働者よりも「自律的」な、いや今度は「自由度が高い」か、何でもいいけど、自由なはずの労働者が、週2日休まなければいけないとより強く拘束されるってのは、なんだか転倒していませんかねえ。労働時間規制を外すという最初の設計から抜けられないままに、健康確保を労働時間規制でやろうとすると、休日規制だという話になってしまうんでしょうが。
これとともに提示されている「本人の申し出による医師面接を義務づけている労働安全衛生法の規定を、月100時間の残業から80時間程度に引き下げる」というのも、過労死促進法だという批判に答えるためのものなんでしょうね。
一方、経営側から完璧にスカンを食らった割増賃金の引き上げについては、「健康にかかわるような「長時間労働者」に限るなどと後退した」ということで、事実上撤退です。
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» 自由度の高い労働時間制度 労使の対立、溝深く [社労士受験生のための日経新聞]
厚生労働省は10日、雇用ルール改革を話し合おう労働政策審議会(厚労相の諮問機関)労働条件分科会を開き、今後の議論のたたき台となる素案を示した。
ホワイトカラー社員を労働時間規制から除外する条件として、企業に従業員の健康管理や週2日相当以上の休日の確保なども義務付け、労働基準監督署による監視強化も盛り込んだ。... [続きを読む]
とりあえず(修正主義的に?)はいい方向なんじゃ
ないんでしょうかね。論理展開としては変かもしれ
ませんが
>自由なはずの労働者が、週2日休まなければいけ
>ないとより強く拘束されるってのは、なんだか
>転倒していませんかねえ。
投稿: フマ | 2006年11月10日 (金) 23時03分
>「時間ではなく成果に応じて賃金を支払う制度で、対象者は残業代の規制から外れる」
この手の話題を見ていつも思うんですが、評価する側に「成果」で評価できる能力あるの?事前に評価項目・評価方法を契約書の形で残しておく形にするの?実運用でどのようか形式を想定してるかいまひとつ見えてこないのが不安ですね、いまのところ
投稿: ななし | 2006年11月11日 (土) 02時23分
仰るとおり、基本的にはいい方向だと思います。というか、実質的には限りなくhamachan理論に近づいてきているにもかかわらず、看板は依然として「自律」改め「自由」と称しているというところに問題があるわけで。
実は、上の安全衛生法を改正して、医師面接を義務づける長時間労働の基準を月100時間から月80時間にするというのは、それがホワエグの過労死対策として打ち出されているということであるならば、まさに時間外労働時間を(間接的にではあれ)規制するということを意味しているわけで、つまりエグゼンプトであってもちゃあんと何時まで職場に残って仕事をしていたかをチェックし、それに基づいて措置を講じなければならないということを明らかにしているわけです。
これはもうほとんどhamachan理論すれすれまできているではありませんか!
投稿: hamachan | 2006年11月11日 (土) 15時16分
法制度はあくまでこれ以下はまかりならんぞという最低基準の設定に過ぎませんから、それによって可能になる様々な具体的な制度設計がいいか悪いかは、ミクロレベルでいろいろ実験してやって貰う中から判断するしかないでしょう。
私は、基本的に、宣伝文句で飾り立てられた「成果主義」には大変懐疑的ですが(要は労務コストをいかにもっともらしく引き下げるかということだと思っているので)、企業がやる分にはご勝手にというしかないのではないでしょうか。
投稿: hamachan | 2006年11月11日 (土) 15時20分
生命身体に関わる安全配慮の労働時間規制は罰則で、適切な年収ルールは罰則でやるのではなく、労使自治でやってもらうというのは非常に同意です。
ただ、労使協定というのは古いというか、実態として存在していない事業所はどうすればいいのでしょうか。組合のカバーは18%。
先ずはインチキ過半数代表者制度を何とかしないと…しかしこれを詰めていくと、組合って何?充実した従業員代表制度でいいんじゃないの?ってなるんですよね。
投稿: 若手の役人です。 | 2006年11月14日 (火) 01時26分
それは、もう一つの論点である労働契約法制の方で議論されています。というか、あんまりきちんと議論されてないのが問題なんですが・・・。
このブログでも、過去ログを見ていくとたくさん書いているはずです。
投稿: hamachan | 2006年11月14日 (火) 10時38分