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ホワイトカラーエグゼンプションの建前と本音と虚と実と

労働調査協議会というところから出ている『労働調査』という雑誌の10月号に、標題の文章を書きました。

http://homepage3.nifty.com/hamachan/rodochosaexempt.html

このブログを継続的に読んでおられる労働関係に関心を持つ皆さんにとっては、いまさら的な中味かも知れませんが、今回はちょいと尻をからげる感じで、「建前論はやめて本音でやろうぜ」「虚の議論はやめて実の議論にしようや」と語りかけています。

特集に寄稿しておられるのは、ほかの3人はいずれも組合関係者で、連合の長谷川裕子さん、情報労連の永井浩さん、電機連合の成瀬豊さんです。ちなみに、特集の題名は「ホワイトカラー・グゼンプションの課題」で、このお三方の文章もいずれも「グゼンプション」となっています。私だけ「グゼンプション」なのは、別に深い意図はありません(発音でいえば、「グゼンプション」の方が近いのでしょうが、原語の表記が「exemption」なので、例えば「ignoble」(イグノーブル)とは区別したいという気持ちはあります)。

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コメント

濱口先生の講義、いつも勉強になってます。
エグゼンプションについてですが、仕事と生活の調和の観点からは、非常に望ましくないと思います。
純粋月給制を認めていこうと仰っていますが、今の日本の風土だと危険です。
「安全配慮義務・健康確保措置」があれば大丈夫というのは、確かに理屈の上では過労死が減る(by労務屋さん)等の意見もございますが、
①実態として労働法制の運用が極めて怪しい、欧州の11時間休息ルールのようなのは絶対守られない。
②労基法37条の適用除外により、長時間労働を止めるインセンティブが無くなる。すなわち、「合理的経済人」である経営者ならば、過労死直前ライン(残業100時間弱?)まで働かせて安全配慮義務を果たしつつ、残業を払わないことも、極論だが不可能でない。違法でなくなる。また不況で経営が苦しくなるであろう将来、人員削減してエグゼンプションで乗り切ろうとする経営者が出そうで極めて危険。
③上司の仕事の割り振り方次第で不公平感は残る。企業は成果で月給制給与を払いたいと仰るが、特に大企業クラスだと、賃金がそう簡単に上司の裁量で決められる訳ではない。その結果、仕事の割当が少ない部署にいる人と、激務部署にいる人で、賃金差が生じにくい。今では残業出る会社では、残業代で報われる訳だが。新たな不平等感は、絶対におきる。そもそも上司は成果主義。人事部がハッパをかけても、上司としてはエグゼンプションの部下をかなり働かせて成果を出したくなる誘因が働きます。

結局、濫用防止の措置を慎重に検討していかないと、とんでもないことになります。ワークライフバランスが悪化することは間違いないでしょう。労働者が残業出ないことで反対するなと仰いますが、とんでもないことです。
悪用防止措置として、年収7,800万クラスは最低必要であり、あとは、仕事の追加の指示ができるだけ出せないようにすることが必要でしょう。この発送は「自律的」に縛られているかもしれませんが。

長々と申し訳ございません。余りにも、月給制の観点からのみ、企業に使いやすいように主張されているのですが、悪用防止措置をほとんど述べられておりませんので、そこが気になり書きました。私は、修正資本主義者。労働者の生活を悪化させたくないのです。濱口先生も「制度論者」であるなら、この制度が導入されると、サラリーマンの生活が制度により変わることを予想されると思います。どう思いますか?今まで19時に帰れていたサラリーマンが、22時まで働かされる可能性が高いんですよ。(健康管理措置のみなら、これが経営的に最適値になってしまう。)

投稿: 若手の役人です。 | 2006年11月10日 (金) 00時03分

結局、健康確保措置だけなら「生かさず殺さず」状態になるおそれが強いので、そこが心配なんです。
子どもが小さいのに早く帰れなくなるじゃないですか。エグゼンプションなのに、仕事の具体的指示も常に受ける労働者が、「ちょっとキミ、エグゼンプションなんだからこの仕事もやってよ!」ってね。仕事と生活の調和が崩壊。結局、適用に適するのは、調和なんか要らないと望んでいる労働者、自らの意思でばりばり働きたい、年収7,800万以上かつ、将来出世争いの先頭に立つような30代のエリート課長補佐・係長クラスのみにすべきですね。霞ヶ関だと、法令のムダ詰めが大好きな無定量主義者ですね。流石に、自ら進んで「終電まで残業は当然」な人に、残業代出す必要ないですからね。

投稿: 若手の役人です。 | 2006年11月10日 (金) 00時18分

大変本格的なご意見ですので、きっちりと議論しなければならないところですが、とりあえず思いつくところだけ申し上げておきたいと思います。

このブログや私の書いたものをお読みいただければ分かるように、私は「労働時間規制」を外すという意味でのエグゼンプションには反対なのです。たとえ「健康確保措置」というのがくっついてきても、です。
私の主張は、労基法37条の適用除外を大幅に拡大するのはいいけれども、32条の適用除外は現在既に拡大解釈しすぎで、もっと本来の趣旨に添って縮小すべきだという点にあります。
しかし、現在までのところ、政労使いずれからもそういう観点からの議論はされていません。物理量としての労働時間と、賃金計算上の概念としての労働時間が、依然として混同されたまま、政策決定がなされようとしているわけで、私の議論は残念ながら「天下の孤論」といったところです。

もっとも、それでは現在の32条&36条という枠組みが長時間労働を抑制する仕組みになっているのか、実際には37条の割増が抑制機能を果たしているのではないか、という反論は十分ありうるところだろうとは思います。
これは、日本の労働時間法制は一見したところヨーロッパ型の実労働時間規制に見えるが、それは36協定で空洞化しており、実際はアメリカ型の割増規制しか存在しない労働時間無規制社会ではないのか、という考え方です。実のところ、それには一理あります。
とはいえ、少なくとの法制の建前は、37条の前に36条があり、その前に32条があるのであって、その趣旨はカネ勘定などではなく、労働者の健康確保であることは、法制の淵源をたどれば明らかでしょう。それをそう簡単に無造作に投げ捨ててはいけないだろうというのが一つ。

逆に、現在のように36協定は事実上青天井のまま放置しておいて、37条で時間外手当のコストのみで残業抑制を図るというやり方で、現実に長時間労働が抑制されるのかと言えば、そうはなっていないのではなかろうか、というのが二つめです。これには二つあって、大企業になればなるほど、時間外割増のコスト比率は低くなり、たとえ割増払っても残業させた方が得になるという点、も一つは労働者側が(時間だけの成果を上げていないことから)時間に対応した割増の請求を遠慮して結果的にサービス残業をもたらしてしまう点。

「実態として労働法制の運用が極めて怪しい、欧州の11時間休息ルールのようなのは絶対守られない」と仰るのも、このような発想の現れではないかと思われますが、そこを守らせるように規制していく以外に、問題の解決の道はないのではなかろうか、というのが私の考えなのですよ。

実のところ、私の頭の中では、労働者の健康確保のためにはもっと実質的な実労働時間規制のメカニズムが必要ではないか、例えば拘束時間規制や休息期間規制のような、という発想があり、むしろそれをスムーズに導入するために、残業手当の過剰規制は緩和しましょうや、という風に流れているので、37条が労働時間規制の本流という発想とはうまく噛み合わないのかなあとも思っています。

健康確保の前のレベルでワークライフバランスが悪化しないような規制が必要ではないかというのは、それだけとれば仰るとおり。しかし、そもそもを言えば32条がまさにそれを規制しているはずであり、36条がその例外を限定しているはずなのです。
この議論を本気でするのであれば、ここのところの実体的労働時間規制をもっとハードなものにすべきだという議論を展開しなければならないはずですが、そんなの言っても無理だろうと皆さん思っているからだれも言わないわけですよね。
そこをスルーしておいて、本来カネ勘定の話に過ぎない37条に労働時間抑制の責任を無理に負わせたりするから、その無理がサービス残業という形で露呈してくるわけですよ。

以下余談ですが、私自身夜中の2時3時に役所で「時間外労働削減要綱」の素案を作るなどという矛盾だらけの行動をしてきた人間ですので、「今まで19時に帰れていたサラリーマンが、22時まで働かされる」という恐怖よりも、毎日深夜タクシー帰りの人間がせめて終電で帰宅できるようにするほうが喫緊の課題という気持ちがあるのかも知れません。

投稿: hamachan | 2006年11月10日 (金) 09時42分

大変丁寧なご返答をありがとうございました。
ちょっと、労働法政策を斜め読みしつつ(笑)考えてみました。
確かに調和は別の法制度でやるべきで、私も調和のための残業代強化、柔軟化促進などは考えてません。日本企業の強みとトレードオフの面がありますし。
ただ、副作用として調和を害する恐れがあるなと思ったのです。
今は、37条を無視してサービス残業命令を出す企業が多いです。37条を適用除外してしまうと、別のアイディアがない限り、経済学的には、使用者にはいっぱい仕事を与える経済的インセンティブがあります。逆に、労働者には必死に仕事を終わらせて早く帰ろうとする誘因になりますが、どっちが勝つかは力関係で明確です。(だから労働法がある)

仰るようにILO条約の趣旨である1日8時間の32条がそうなのだ、というのは分かりますが、企業は趣旨ではなかなか動きません(特に、不況期は)。派遣法なんか、趣旨はどこへ行きましたか?

先生の、36協定の限度の上限を、労案衛法の健康労働時間規制とリンクさせる方法は面白いです。これなら実体的労働機関規制になりますね。

僕の案としては、エグゼンプションの適用を、調和型ではないエリート労働者にやや狭める。追加的な指示はできるだけ出さない、そんな仕事は割増残す。
あと、判例法理では36条根拠の残業命令が不合理でない限り労働者は断れませんが、ここの解釈を厳格にすればどうでしょうか。残業は原則として断れる、ただし特別の必要があるときは…と。
これを厳格にやると企業は逆に使いにくいでしょうが。

濱口先生にはいいアイディアを教えて頂いており、勉強になっております。これからもハイレベルな議論をお願いいたします。

投稿: 若手の役人です。 | 2006年11月14日 (火) 01時49分

いえいえ、こちらこそ。若手役人さんのような方にこれからももっと頻繁にコメントしていただけると大変嬉しく思います。

最後の判例法理の解釈厳格化云々ですが、そのためには、(それ自体法的拘束力はないものであっても)何らかの法的根拠が必要ではないかと思います。
これとよく似た配転法理については、職種間配転には何の変化もありませんが、遠距離配転については育児介護休業法に配慮義務が盛り込まれた後は合理性判断がかなり厳しくなる傾向にあります。今最高裁に行ってるネスレ事件の判決が出れば、そちらで確定ということになります。

投稿: hamachan | 2006年11月14日 (火) 10時44分

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