OECD新雇用戦略東京フォーラム
厚労省のHPに10月末に開催された標記会合の紹介が載っています。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/11/h1101-1.html
ここに載っている議長総括は、一言一言がかみしめるたびにじわっと味わいゆたかな文章ですね、役人的には。あと、翻訳にも少々。
基本的には、労働力参加を促進するという近年の先進国共通の雇用政策であるわけです。アクティベーション(「就労化」と訳していますね)が大事というのは、まあ誰も反対しない。
いろいろと議論が出てくるのは次の「労働市場の二極化の問題に取り組みつつ労働需要の拡大を図ること」ってとこですね。ここで、「彼らは、雇用規定や賃金設定慣行によって労働需要が抑制されるようなことがないようにすべきということに合意した」という一節が出てくる。「雇用規定」というのはやや意図的な誤訳っぽいところで、英語では「employment regulations」です。つまり解雇規制が厳格すぎるから企業が人を雇わないんだ、というインプリケーションのある言葉です。
それだけだといかにもネオリベですから、その次のパラグラフで「しかし、彼らはまた、雇用規定や賃金慣行を改革する際には雇用の質に関する懸念についても考慮すべきであることを強調した。」とつながるわけです。そしてここで二極化と話がつながる。「国際競争の激化は特定層の賃金や労働条件に更に圧力を与えるということがあり得る。このことは、一部の国々では労働市場の二極化の拡大にもつながるおそれがある。政策担当者は、そうした雇用の質に係る課題にも対応する必要がある。実際、雇用の量的拡大と同時に、質の維持・向上が図られてはじめて、雇用の創出及び生産性と生活水準の向上に好循環をもたらすことができる」と、雇用の質、ソマヴィアちゃん風にいうと「でーせんとわーく」を立てている。
それにしても、ここのところは微妙な問題です。労働者にはセキュリティが必要じゃないか、という議論を組み込まないといけない。そこで、「この課題への対応として、出席者は労働者の安定性の向上の必要性を支持した。」となるわけですが、問題はそのセキュリティの中味です。この微妙さをよくかみしめて味わってください。
「採用要件が過度に厳しくなることを避けつつ、雇用規定を使用者と労働者双方にとってより予見可能なものにすることは一つの方策である。正規と非正規の契約の均衡ある処遇の確保――そして実際に法規制を、解雇の際に勤続期間に応じた妥当な保護が図られるような単一の契約の方向へ可能な限り向かわせること――ももう一つの方策である。経済的な理由による解雇に関する制約を減らすことが一部の国では必要であるかもしれないが、その一方で、悪質な解雇及び採用や解雇における差別が生じないようにすることが不可欠である。最終的には、失業の際の適切な所得確保と効果的な再就職支援サービスがすべての国で必要である。」
念のため繰り返しますが「雇用規定」ってのは解雇規制のことですよ。予見可能な解雇規制というのはどういうことか分かりますか?何年勤続の労働者だから、これくらいの金を払えば解雇できるということが「予見可能」という意味です。正規も非正規も、ってことですよ。上の文章をじっくり読むとうっすらと見えてくるでしょう。非正規労働者が何回も更新を繰り返して10年勤続になったのにある日雇い止めされたという場合と、正規労働者がそのまま10年間勤続して解雇された場合で、同じ「勤続期間に応じた妥当な保護」が図られるということです。それが「単一の契約の方向」ということですね。
こうして噛んで含めるように説明すると、これが現在労政審で審議中の労働契約法制の中心的議題の一つ、解雇の金銭解決について一つの道筋を示しているのだということがおわかり頂けると思います。特に、「経済的な理由による解雇に関する制約を減らすことが一部の国では必要」というのが、日本の整理解雇法理(4要件)を一つの例として念頭に置いていることは何となく理解されるでしょう。逆に「悪質な解雇及び採用や解雇における差別が生じないようにすることが不可欠である」というのは、金銭解決が許されない解雇はどういうたぐいのものかという話ですね。
それとともに、均衡処遇が出てきます。「賃金、能力開発機会やその他労働条件に関して、正規労働者と非正規労働者の間で均衡ある処遇を確保できるようにすることが不可欠である。税や給付に関してフルタイム労働者とパートタイム労働者を均衡的に取り扱うことが重要な点であるということが指摘された。「二極化の問題」が生じる中で、特に若者、女性などの中にはその意志に反して不安定な雇用に甘んじることを余儀なくされている層もある。このため、バランスの取れた対策を講じることが必要である。」この均衡処遇は、原文でも「balanced treatment」です。つまり、日本の文脈で使えるように、わざわざそういう言葉を使ったということですね。
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