改正案審議中の苦情処理
標題では何のことかよく分からないかも知れませんが、これは大変興味深い話題です。欧州オンブズマンというEUの機関が、EU市民からの苦情をきちんと取り扱えと勧告したという話なんですが、そのテーマがなんと医師の待機時間の問題、そう、欧州司法裁判所が夜間の待機時間も労働時間だという凄い判決を下して大騒ぎになり、欧州委員会がそれは(実際に活動した時間でない限り)労働時間じゃないよという改正案を提出して、しかしイギリスのオプトアウトの関係で指令改正案が糞詰まり状態を続けているというあの問題なんですね。
http://www.ombudsman.europa.eu/recommen/en/053453.htm
昨日(9月20日)、欧州オンブズマンが、欧州委員会はこの苦情をできる限り速やかにかつ精力的に取り扱うべしという勧告を採択しました。
この苦情は、ドイツのお医者さんから出されたものですが、要するに、欧州司法裁判所の累次の判決によって、医師の夜間の待機時間は労働時間だということが現行法上確定しているのに、わが国の法律はまだそうなっていない、けしからんじゃないか、なんとかしろ、というものです。
もちろん筋からいえばそういうことになるんですが、その通りやっちゃうとEU各国の医療機関はやっていけないわけで、そういう状況が分かっている欧州委員会は、2004年に提出した労働時間指令の改正案の中に、待機時間のうち不活動時間は労働時間じゃないという規定を盛り込ませたのですね。この点については、実は加盟各国はみんな賛成で、反対している国はない。
ところが、この改正案の最重要論点は、ご承知の通りイギリスに認められている個別オプトアウトをどうするかという点で、雇用契約を結ぶときに、週48時間以上働くよな、働かないなんて莫迦なことまさか言わないよな、だって仕事に就きたいんだものな、そうだよな、といってみんな適用除外にしてしまうというのはひどいじゃないか、いやいやこれが柔軟性だということで、この問題が解決しないんですね。
で、そのあおりを食らって、みんな賛成している待機時間のところの改正も進まない。2年間、閣僚理事会の議論は行われるんだけれども合意に達しない。で、依然として確かに仰るとおり、現行の指令に反してますねえ、といわざるを得ない状態が続いているわけです。
欧州委員会は、2001年11月に受けたドイツのお医者さんからの苦情を、今までちゃんと処理してこなかった、とこのお医者さんは欧州オンブズマンの方に訴えたわけです。欧州委員会側の言い訳:ただいま当該指令の改正案が閣僚理事会で審議中でございますので、その審議の方向も踏まえつつ慎重に検討して参りたい、なんてそんな日本の木っ端役人みたいな口調ではないけれど、要はそういうことを言ってたみたいです。
それは違うやろ、と。何かね、欧州委員会は、ある立法が将来改正されるかも知れない問題についてはその適用を確保しなくてもいいと、条約が認めているとでも仰るのかね、とまことにごもっともなご意見をオンブズマン氏は言われるわけです。それはもう仰るとおり、立法府が改正しないからずるずると先延ばしにしていいなどという論理を認めるわけにはいかないのは法治国家として当然。しかし、中味の話でいえば、みんな改正に賛成していて、そうじゃない方向はあり得ないんですね。
じゃあ、解決のむずかしいオプトアウトは先に延ばして、とりあえず合意できる待機時間の改正だけやろうぜということにならないのか、というと、ならないんですね、これが。なぜかというと、それが人質になっているから。この人質を早く解放してあげたいと思って相手が妥協することを狙っているから、自分から妥協できない。まさにチキンゲーム状況なわけでありますな。
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